帰宅
迷子を無事、親元まで届け、隣でアレコレうるさいムニエルの話を聞きながら買い物も終了させると、関原は自宅まで帰ってきた。
薄暗い廊下を抜け、部屋に入るなり関原はパタリとフローリングの上に倒れ込む。
両手に持っていた荷物も関原が倒れるなり床の上で横に転げて、一番上に乗っかっていた菓子の袋が下に落っこちた。
「涼君、眠るのは構いませんが、まずは部屋着に着替えて、ベッドに向かってはいかがでしょうか? 硬くて冷たいフローリングの上では体を痛めますよ」
落ちた菓子を袋に詰め直し、生鮮食品の入った袋を台所の方まで運ぶムニエルが、関原に声をかける。
しかし、関原はムニエルの言葉を聞くと、力なく無言で首を横に振った。
「憎まれ口も叩かないとは、随分とお疲れですね」
「誰のせいだと思ってんだ」
うつぶせになったまま、関原が忌々しげに口を開く。
「まあ、迷子を届けた疲労なので……元をたどれば私のせい、でしょうか?」
「迷子自体は別に構わないけどよ、運んでる時の話だよ」
はて? と首を傾げるムニエルに対し、関原がうんざりとため息を吐いた。
「お前、本当に分かってねぇのか? ただ迷子の面倒見てやっただけで、人のこと、偉いだの良い子だの褒めちぎりやがって」
「だって、泣きそうな女の子の頭撫でてるの、いい子だな~って。それに、ご両親が来るまで付き添ってあげていたのも素敵でしたよ」
「アイツが俺の裾を掴んだまま放さなかったから、仕方なく近くにいただけだよ。それだけのことで、あんなに褒めること無いだろ」
ニコニコと笑うムニエルに、関原がなおも不満を募らせる。
すると、ムニエルもムッとしたように唇を尖らせた。
「褒めることの何がいけないんですか。大体の人間は、褒められることが好きなんじゃないんですか? 私が面倒見てきた子達は、ご飯が食べられたとか、早起きできたとか、おやつの食べ過ぎを我慢できたとか、そういう些細なことでも、たくさん褒めれば、ものすごく喜んでくれてましたよ」
「それは、時と場合と褒め方によるだろ。恥ずかしかったんだよ。サービスセンターのお姉さんにも、『お兄さん、熱でもあります? 耳、赤いですよ』って言われたし。絶対不審者レベル上がった。ただの不審者から、真っ赤な顔で子供の手を引く変態不審者に成り下がった!」
今、思い出しても恥ずかしくなってしまったのだろう。
関原は数刻前のように耳を赤く染めると、モダモダと床の上でもがき始めた。
そんな関原をムニエルが上からキュッと抱き締めて、優しく頭を撫でる。
「恥ずかしがることじゃないですよ~。今日の涼君は本当に、良い子、良い子でしたから」
「そういうの、マジでやめろ」
良い子、良い子と微笑むムニエルの手を嫌そうに振り払うと、関原は彼女からそっぽ向いて、眉根を寄せたまま不機嫌に目を閉じた。
迷子の応対、以前にバイト先で一回だけしたことがあります。
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