オロオロ
「うわっ! な、なんだよ!」
ギョッと目を丸くして反射的に飛び退く関原を、子どもは涙で真っ赤に潤んだ瞳でジッと見上げている。
「怖い……パパもママも、どっか行っちゃった」
「それは、まあ、状況的に分かるけど」
「怖い」
「それも、そうだろうな」
「お兄ちゃん」
小さく呟くと、子どもは関原の服の裾を掴んで、唇をギュッと真横に結んだまま彼を見上げ続けた。
「なんだよ。助けろって言いたいのか? さっきまで逃げてたくせに、現金なガキだな」
すっかり困りきった関原が、どうすればよいのかも分からないまま憎まれ口を叩いて、助けを求めるようにムニエルの顔を見た。
しかし、肝心のムニエルは何故かニヤニヤ、ニマニマと嬉しそうに微笑んでいて、緩んだ口角からは、ちょっぴり唾液が垂れていた。
「お前、それ、どういう顔だよ」
関原の呆れたような、冷たい視線にハッとしたムニエルが慌てて口元を拭って、キリッとした表情になる。
「失礼しました。オロオロと子供に応対する涼君と、不安そうにしながらも優しいお兄ちゃんに助けてもらおうとする女の子の光景が尊かったので。小学校の登校班で、上級生が下級生の子の手を引いて登下校するのを見守る地域の大人の心境に似ているのかもしれません。微笑ましくて、かわいらしくて、愛おしくて堪りません」
胸の前で手を組んだムニエルが、陶酔しきった様子でウットリとため息を吐く。
そんな彼女に呆れた関原は一つ、舌打ちをしてガリガリと乱暴に頭を掻いた。
「ほざけよ。つーか、言ってる場合じゃねーだろ。さっさと連れて行ってやらねーと」
「それもそうでしたね。ほら、お嬢さん。私の手も握ってください。三人で一緒に、お父さんやお母さんを呼んでくれる人の所に行きましょう」
子どもの目線に合わせて屈み、優しく声を出すムニエルに彼女はコクリと頷いた。
そっと差し出されたムニエルの優しい手と、持ちやすいように右肩を下げて位置を下にずらした関原の服の袖を、ギュッと握る。
まるで親子のような後ろ姿の三人は、サービスセンターに向かって、ゆっくりと歩き出した。




