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孤独対策課  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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いつか消える

 ヤマアラシスーパーはスーパーの中でも大型に属する店だ。


 食料品や日用品など一般的なスーパーで売られている物はもちろん、服や電化製品、家具、精密機器など、実に多様な品が豊富に販売されている。


 ムニエルたちはスーパーの大部分を占める一階で、食料を見ていた。


「わっ! おっきいお肉! 美味しそうですね~。涼君、日々お仕事頑張ってますから、たまには贅沢をしても良いかもしれませんね。あ! でも、今日は日常的な買い物の仕方を学びに来ていますからね、あんまりすごいのは買わない方が良いのかもしれません。でも、お買い得ですし、美味しそうですね~。ローストビーフ、作ってあげたい感もありますし~。う~ん……」


 パック詰めされた牛の塊肉を眺めるムニエルが悩ましげに眉根を潜める。


 それを関原は横目でチラッと見ると、無言で塊肉のパックを一つとって買い物かごに放り込んだ。


 その後も、関原はムニエルが食材について何事かを呟くのを聞き、無言でそれをカゴに入れたり、彼女の言葉を無視して先に進んだりしている。


 まるで、ムニエルの姿が全く見えなくなってしまったかのようだ。


 しかし実際には、関原にはムニエルのことが見えているし、言葉だってシッカリと聞こえている。


 それでも、関原が意図的にムニエルを無視し続けているのは、彼女と深刻なケンカをしたからでも、彼女が嫌で嫌で堪らなくなってしまったからでもなく、事前に彼女からそうするよう頼まれていたからだ。


『天使は基本、対象者にしか見えない。だから外でムニエルと会話をすると周囲から白い目で見られちまう……だっけ? 車の中でコイツが言ってたのは。ただ、それにしても、なんつーか、めげねぇよな、コイツは』


 関原からは一切のリアクションが返ってこないと分かっていてもなお、ムニエルはニコニコとした調子で彼に話しかけている。


 別にムニエルの言葉を無視しても心は痛まなかったが、それはそれとして、無駄に愛想を振りまき続ける彼女の姿は、関原の目になんだか不思議に映った。


『俺にすらムニエルが見えなくなるのは、俺の孤独が緩和されて天使の必要がなくなった時。せっかく一人きりで元気に仲間たちと生きていけるようになったのに、天使との記憶が原因で再び落ち込んだ時に天使を求めるようになったりするようじゃ困るから、依存的記憶を打ち切るため、心が頑強になったら天使との記憶は消去される。俺はいずれ、ムニエルを忘れ去るようになる。そういうの、寂しくねーのかな、コイツは』


 ムニエルはたまに、今まで面倒を見てきた子供の話を関原にすることがある。


 その時のムニエルの瞳には、たっぷりの愛情が満ちていて、対象者たちをかなり大切に扱っていたことが察せられた。


『まあ、寂しくはならねーか、ムニエルは。なんたって、天使様だもんな』


 子供に忘れ去られることが不快じゃないのか、関原がそう問いかけた時、ムニエルはキョトンとして「え?」と首を傾げた。


 そして、それから、

「寂しい? 何でですか? 対象者が、あの子達が私を見られなくなるのは凄く良い事なんですよ。『あ! この子、一人でいられるようになったんだ! みんなと遊べるようになったんだ!』って分かった瞬間、こう、得も言われぬ幸せが胸の中に満ちたんですよ。この子の面倒見てきてよかった~って! 忘れ去られることは、ある種、天使冥利に尽きるんです! だから、涼君も早く、私のことが見られなくなるといいですね」

 と、興奮気味に語っていた。


 対象者との別れに微塵も寂しさや悲しさを覚えず、ただ祝福ばかりを心に浮かべるムニエルの姿に天使と人間の違いをまざまざと見せつけられ、関原の口元には知らず知らずの内に苦笑いが浮かんでいた。


『しかし、この調子だと、俺がムニエルのこと見えなくなっても、コイツはしばらく俺に話しかけてそうだよな。何で無視するんですか~? ご機嫌斜めになっちゃったんですか~って』


 関原の脳内に、彼がとっくにムニエルを見ることができなくなっているのに気がつかず、延々と自分に話しかけている彼女の姿が浮かんだ。


 きっとムニエルは、さんざん話しかけても何の反応もみせない関原を見て、ようやく彼が孤独から立ち直ったことを知るのだろう。


 そうしたらきっと、柔らかな口角を嬉しそうに引き上げて楽しそうに関原の元を去って行くのだろう。


 餞別みたいに、一度だけ関原の幸福を天に願って。

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