天敵
「孤独対策課の落ちこぼれがエリート天使様のムニエルちゃんにお説教とは、大したものですね、ルーシィさん」
寒気がするほど丁寧な口調で、嫌味っぽくルーシィに話しかける天使、ローテルも孤独対策課の天使だ。
彼女は、ほんのりシルバーを感じさせるメタリックな紫の髪を流しっぱなしにして、前髪はオールバックにきめている。
スッと切れ長の目にハマっている瞳の色はアメジストのような澄んだ紫で、白い肌は血管を透かしそうなほどに透明だ。
どこか妖艶でクールな彼女は、ルーシィの天敵だった。
「ローテル、お前も落ちこぼれの癖によく言うよ」
ルーシィがグルルと唸る。
すると、ローテルはアッサリ頷いた。
「ええ。存じておりますよ。ルーシィさんも落ちこぼれ、ですが、私も落ちこぼれです。今回の対象者も自殺してしまいましたから。私と心中を図ろうとしたんです。私は天使で、ある意味、生きてすらいない、殺すことが不可能な存在なのに、それをあの子は知っていたはずなのに、全く、おかしなことですよね」
ローテルは小さくため息を吐くと、それから心臓の位置で穴の開いた衣服に魔法をかけ、修復を行った。
腕についた痣や首筋の噛み跡にも美しい指先を這わせ、次々に痛々しい傷跡を消していく。
あっという間に、傷だらけのぼろをまとった小汚い天使は、元の上位存在に戻った。
「死にさえしなければ、まだ、私を汚していられたのに、あんなに私を汚したがって、独占したがっていたのに、あっさり正反対の選択を取るとは、なんとも不思議な子です。不思議で、愚かしくて、愛らしい子でした。しかし、何がいけなかったんでしょうね。欲しいもの、何でも与えたんですよ? 愛の言葉とか、色々。何度も抱きましたし、涙だってきちんと舐めとって、暴力だって受け止めて差し上げたのに」
呆れた表情でヤレヤレと首を振るローテルを、ルーシィはギロリと睨んだ。
「うるっせぇな。あたしはお前の救い方、嫌いなんだよ。聞きたくもない。黙ってろ」
「そうは言われましても、落ちこぼれには落ちこぼれなりの矜持がありますからね。ルーシィさんが、孤独と依存を助長させるだけの救済方法に誇りを持っているように、私にも、この救い方に誇りがあるんですよ。これが、対象者の笑顔と幸福を増幅させる一番の方法だと信じているんです。たとえ、何回失敗してもね」
冷たく微笑むローテルにルーシィがチッと舌打ちをする。
「最悪だな。お前も、あたしも」
「同感です。それで、そんな最低な落ちこぼれ様は、ムニエルちゃんにどんなお説教をしたんですか?」
「別に。ただ、アイツらは極端に死にやすいから、あんまり離れるなって言ってやっただけだ」
「それは……一理ありますね。あの子たち、本当に死にやすいですから」
「だろ。ただ、それだけだよ」
数秒前に対象者が死んだばかりのローテルと、何度も対象者の自殺を食い止めてきたルーシィが、揃ってため息を吐く。
それから、ルーシィは何となくムニエルが去って行った空を見つめた。
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