落ち込み天使のお姉ちゃん
空を見上げれば清々しいまでの晴天が広がっており、ふと、足元を見れば辺り一面に雲のような真っ白い花で覆い尽くされている。
四季どころか朝も夜も無い、そよ風ばかりの天界は、住み心地の良い酷く美しい場所だが、どこか寂しい。
ムニエルは自身のデスクに座って、コーヒーを飲みながら関原の本を読んでいた。
『今まで何十冊もの本を読んできました。涼君の本を読むのも今回が初めてではありません。ですが、やっぱり、どうしても、本を読むのは苦手です。かわいい、かわいい皆が苦しんだ、辛い記憶の塊ですから』
瞳に悲哀を灯らせて、ムニエルはパラパラと紙面を捲っていく。
本の多くを占める痛々しい記憶に眉根を寄せ、瞳を曇らせて、稀にある温かい記憶に微笑んだ。
『ああ、涼君が泣いたのは、多分、これが理由ですね。何回も向き合おうとして、失敗してた。そして、それを、私が変にほじくってしまった。よく考えればわかることだったのに、見落として、失敗してしまいました。喜んでくれるかな、なんて、馬鹿でしたね』
ムニエルは、社会人となって以降の、関原のしば吉との向き合い方の箇所を読んで溜息を吐いた。
「なに落ち込んでんだよ、ムニエル!」
突然、活気に満ちた明るい声が背後から聞こえてムニエルはビクッと肩を跳ね上げた。
驚きながらも後ろを振り返る。
すると、そこには美しい金髪にルビーのような真っ赤な瞳、生命力を感じる美しい肌をした天使、ルーシィがいた。
彼女の姿を見た瞬間、沈んだムニエルの表情にパァッと明るい笑顔が広がる。
「ルーシィ姉さん、久しぶりです! ルーシィ姉さんが天界にいるなんて珍しいですね! 対象者の切り替え時期ですか?」
ワクワクとした様子で問いかけるムニエルに、ルーシィがぎこちなく頷く。
「まぁな。対象者に寿命がきてさ、死んじまった。また、最後まで寂しくさせたままだったな」
ルーシィが髪飾りの花をクシャリと軽く握って首を振る。
対象者を孤独な状態のままで死に至らせること。
それは、孤独対策課の天使にとって最も不名誉なことであり、対象者を看取ってばかりのルーシィは落ちこぼれだった。
死ぬ最後の瞬間まで自分を見ることができていた対象者に、ルーシィが表情を曇らせる。
ムニエルは、いつも明るいルーシィが落ち込んでいるのを見て、ポンと彼女の肩を叩いた。
「でも、今回の対象者さんも、姉さんのことが大好きだったんでしょう? 今回も、きっと、死ぬ時まで微笑んでいたんでしょう? それなら、独りきり、冷たい部屋で腐るまで放置されているよりもずっとマシですよ」
「かもな。確かに、今回の子も最後まで笑顔だったよ。でも、あたしは、あの子をちゃんと自立させてあげたかった。人に囲まれて、死なせてやりたかったな」
苦笑いを浮かべるルーシィにムニエルの表情まで曇り始める。
すると、ルーシィはニッと笑ってムニエルの頬をつまんだ。
「なに、お前まで落ち込んでるんだよ! あたしなんか、もう気持ちが切り替わり始めてんのにさ! 次は上手くやるぞ~! 寂しくさせないぞ~!! って」
「姉さんたちが切り替え早すぎなんですよ! 私だって、ちゃんと天使様ですよ~!」
カラカラと笑うルーシィに、ムニエルは少しムッとして、その後すぐに笑った。
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