なおらない傷跡
関原は、子どもの頃のように布団の中で小さく丸まって、ボロボロと涙を溢していた。
昔と違うのは、すぐ側にしば吉がいないことだ。
『なんなんだよ、アイツ。人のこと引っかき回しやがって。しば吉、ちゃんとしまっておいたのに。もう、二度と見たくなかったのに』
しば吉には、幼少期から高校の半分に至るまでの良い思い出と悪い思い出が大量に詰め込まれている。
バイトを辞めて、高校も卒業して、それから正社員として就職が決まった時に、関原は何となく、しば吉を物置の奥から引っ張り出していた。
ほんの少し童心に帰るつもりで、脳裏によぎる先輩の言葉にチクリと心臓を刺されながらも、久しぶりに宝物の姿を見ようとした。
きっと埃で汚くなっているだろうから、今までの恩を返してやるつもりで洗濯して、綿も詰め替えてやって、それから部屋の目立たない所にでも飾ってやるつもりだった。
しかし、関原はしば吉をギュッと抱きしめるどころか、その姿をまじまじと見つめることすらできなかった。
しば吉の姿を視界に入れた瞬間、関原の中に幼少期の嫌な思い出や、その時の悪感情が一気に広がって、破裂しそうなほど膨らんだのだ。
とっくに傷跡になって落ち着いていたはずのソレを掻きむしられ、抉り出されるみたいで、関原はしば吉を見られなかった。
『クソッ! ここまで泣いたのは、多分、相当ひさしぶりだ。いまだに、ちっちゃい頃のぬいぐるみごときでこんなに泣かされるとか……いかれてる、馬鹿だ、最悪だ、異常だ! クソが!!』
幼少期の傷に吐き気と寒気を覚える。
中学、高校時代の苦しみを思い出せば、無性に体中を掻きむしりたくなる。
嫌な記憶がグルグルと回る脳内では、「幼稚園せいかよ」と笑った先輩の声まで重なって、関原はおかしくなりそうだった。
ただ、ただ、溢れて止まらない涙を手の甲で乱暴に拭って、空の両腕をギュッと抱きしめた。
力づくで泣き止もうとして、けれど失敗して、関原は自分がどうしたら良いのかも分からないまま、ひたすらに布団の中でうずくまっていた。
ポムン、ポムンと、布団の上から関原を撫でる、優しいムニエルの手つきには気がつけなかった。
たくさんねてた……
昨夜の九時に寝て、起きたのは翌朝の十時だった




