熱烈歓迎
アパートの一室から、ふわふわと優しい明かりが零れている。
関原は窓から漏れる光を見た途端、ドキリと心臓を鳴らした。
一瞬、家中の電気をつけたまま仕事に出てしまったのかと、勘違いをしたのだ。
『そうか、アイツがいるから』
関原はムニエルの存在を思い出すと溜息を吐いて、それから玄関のドアを開けた。
中に一歩、足を踏み入れた瞬間、ふわりと甘く優しい香りが関原を包み込む。
「おかえりなさい! 涼君!」
どうやら、ムニエルは初の関原お出迎えということで、気合十分に彼を待ち伏せしていたらしい。
彼女は翼を使ってふわりと飛翔すると、関原の上半身を包み込むようにして彼に抱き着き、額や耳、頬に何度もキスをした。
「お仕事お疲れ様です。よく頑張りましたね。いい子、いい子ですよ」
ニコニコと笑って、子煩悩な母親が初めて一人で幼稚園に出かけた子供を出迎えるように、熱烈に関原をほめちぎって歓迎する。
コツンと額をぶつけ、関原を見つめるムニエルの瞳は慈愛に満ちている。
「本当に、いい子、いい子ですよ~」
ブワリと赤くなったり、青くなったりする関原の頬に何度もキスを落とし、ゾワゾワと寒気のする背を優しく撫でる。
「おい、いい加減に止めろ! この変態!」
ムニエルの異常行動に面食らって、パキリと固まり彼女を受け入れていたのも束の間。
関原は慌てて腕を振り、もがくとムニエルを追い払った。
「そんなに照れなくてもいいのに。これは一種の訓練なんですよ。貴方がちゃんと私からの、他者からの愛情を受け取ることができるようにっていう」
フローリングに着地し、広げていた翼を小さく折り畳むムニエルが優しく笑う。
それから彼女は、「ほら、おいで」と言わんばかりに彼に向って大きく腕を広げた。
「余計なお世話だ」
獣がガルガルと唸って周囲を威嚇するように、関原が体中の筋肉をこわばらせ、警戒心を露わにしながらムニエルをきつく睨みつける。
手を伸ばせば伸ばすほど、巣穴の奥の方へ引っ込んで行ってしまう、傷つき怯えた獣のような関原に、ムニエルは小さく首を横に振った。
「余計なお世話なら、そもそも貴方は対象者になっていないんですよ。孤独対策課の対象となる人間は、皆、総じて救いが必要な人間なので」
天使は皆、存在した瞬間から、心に他者への強い救済願望を括りつけられている。
酷い飢餓に襲われていたら、理屈、状況関係なしに目の前にある食事を貪ってしまうように、あるいは、生きるために無意識に呼吸を繰り返すように、天使は本能的な行動として人間を救う。
天使は、対象者に選んだ人間を救わない、ということが絶対にできないようになっているのだ。
「少し変な言い方をすると、私は独りぼっちで沈み込む涼君に惹かれて、人間界までやって来たんです。貴方を見た瞬間、絶対に私があなたを幸せにならなければならないと感じた。思考よりも先に羽が動いた。何度も経験した、天使の救済本能です。コレが動いたということは、涼君は間違いなく、孤独対策課で掬われるべき人間で、助けが必要な人なんですよ」
ムニエルが諭すように関原に語り掛ける。
すると、彼は強く舌打ちをして嫌そうにムニエルから顔を背けた。
「それが余計なお世話だって言ってんだよ」
髪の毛を掻き回すように、関原がイライラと頭を掻く。
しかし、あからさまに不機嫌になる関原にムニエルが威圧されることはない。
「そんなにイライラしちゃうのは、きっと、お腹が空いているからですね。こっちに来てください。夕飯にしましょう。美味しい食事を用意したんです」
ムニエルは、そっと関原の手を包み込むようにして彼と手を繋ぐと、そのまま一緒にリビングまで向かった。
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