表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/127

【後日談6-10 】安心した眠り


 カフェを出る頃には、もう、大分いい時間で辺りも暗くなり始めている。

 関原とムニエルは、手を繋ぐと、今度はまっすぐ帰宅した。

「おうちに着くと、どっと疲れがやってきますね」

 リビング兼、関原の部屋でペタンと座り込むムニエルが、少しだけ疲れた表情で関原の顔を見て、笑みを浮かべる。

 関原もコクリと頷き返すと、そのまま、ムニエルに覆い被さるようにして彼女に抱きついた。

「キャッ! 涼君!」

 驚いたムニエルが、可愛らしい悲鳴を上げて、フローリングの上に倒れ込む。

 後頭部は関原の腕にしっかりとガードされていて、無事だが、代わりに、しっかりと抱き込まれているので四肢の自由を失っていた。

「ちょっと、涼君、スケベさんですよ~!」

 モゾモゾと動く関原が、ムニエルの体をまさぐるように触れ、彼女の豊かな胸に顔を埋め込む。

 ムニエルは、胸元に触れると息が少しだけくすぐったくて、急に甘えてくる関原がかわいくて、はしゃいだような声を上げた。

 ギュッと関原の頭を抱き締めれば、彼はムニエルの胸元で緩く頭を振る。

「疲れた。なんか、分からないけど、すごく消耗した」

 寝落ち寸前の子供のような声で、関原がポツポツと言葉を出す。

「今日、行ったのは、涼君の良い思い出と悪い思い出がたくさん眠る場所ですから」

「そう、だな。でも、さっきまで、平気だったのに」

「私と同じですよ。家に帰ってきたから、安心したんです。クタクタになってベッドに潜り込んだ時みたいに、疲れが一気に押し寄せちゃったんですよ」

 ムニエルが優しく頭を撫でれば、規則的だった関原の吐息が、整ったままに段々、小さくなる。

『そろそろ、眠るでしょうか』

 ムニエルが、そんなことを思った時、不意に関原の両腕に込められる力が強くなって、ギュッと彼女を抱き締めた。

「涼君?」

 どうしたのかと、関原の顔を覗き込む。

 しかし、あいにく彼はムニエルの胸に顔を埋めたままで、その表情をうかがい知ることはできなかった。

 関原が、ムニエルの胸に顔を埋めたまま、口を開く。

「ムニエルも、寝ろ」

「私もですか?」

 問いかけに、彼がコクリと頷いた。

「甘えん坊ですね」

 ムニエルが、くすぐったそうに笑う。

 それから、二人は畳んであった布団を敷きなおして、その上に寝転び、そっと目を閉じた。

『涼君、ないてる?』

 関原ほど消耗していないとはいえ、ムニエルも疲れているのは事実だ。

 そのため、関原を抱き締めて布団に横になれば、すぐに眠気がやってきて、微睡むようになったのだが、そうしていると、自分に抱きついて上下する彼の肩が気になるようになった。

 意識を向けてみれば、自信の胸も湿っているような感じがする。

『怒り、寂しさ、苦しさ、安心、喜び。涙に起因する感情は様々です。涼君は今、どんな心地で泣いているのでしょうか』

 ふと、関原の心を写す本があったらと思ったが、ムニエルはすぐに首を横に振った。

『私はもう、天使ではありません。涼君の心を知るには、直接、言葉を交わすしかない。多少、不便ですが、そこに好ましさも感じている。すぐに本があったらと思ってしまうのは、よくない癖ですね。それに、きっと本を見ても、今日の涼君の心は分かりませんよ。本人も預かり知らぬ感情は、本に反映されないのですから』

 ムニエルが、そっと彼の頭を撫でる。

『たくさん泣いてください、涼君。人間はきっと、泣きたい時は、たくさん涙をこぼした方がいい生き物なのですから』

 嗚咽をこぼし始める関原に、ムニエルは優しくは微笑んで、彼の頭へキスを押し付けた。

 本当は、関原が眠るまで起きていたかったが、彼の体温につられて熱くなるからだが眠気に耐えられず、ムニエルはあっさり意識を手放した。

 ムニエルが眠りこけた数分後、関原も安心して、意識を柔い眠りの中に沈め込んだ。

 二人は、ふんわり、温かい水の中にプカプカ浮かぶような心地で夜中まで眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ