【後日談6-9】カフェデート
母校にも満足した関原がムニエルを連れて歩くのは、かつての帰り道だ。
自宅までの道のりの途中にある、小さなチェーン店のカフェに、関原は、
「良かった、まだ、あった」
と、安堵の笑みを浮かべている。
店内に入ると、ふわりと木材の香りがして、特に急いでいたわけでもなかった心が安らぐ。
こじんまりとした店内は、丸っこいランプから零れる優しい光に照らされていて、親しみやすい雰囲気で溢れている。
ムニエルと関原は、二人揃って席に着くと、ホッと息を吐き出した。
「感じの良いお店ですね」
店内を軽く見回して、ムニエルが笑う。
「そうだな。学生も多いし、けっこう騒がしいかと思ったが、席が基本的にボックス型になってるせいか、そんなに気になんねーし」
「私たちも、たくさんおしゃべりしても大丈夫ですね!」
「まあ、俺らが他人に迷惑かけるほど騒ぐってことは、ねーだろうけどな」
少し苦笑いの関原に、ムニエルがいたずらっぽく笑って、「そうですね」と頷く。
それから、関原は分厚い表紙で挟み込まれた数枚のメニュー表を見た。
「へー、こんなんあったんだ。けっこう腹減ってるし、どうすっかな」
ポツポツと独り言をこぼしてメニュー表を眺める関原の瞳は、どこか楽しげでワクワクとしている。
そんな彼を見て、ムニエルはコテンと首を傾げた。
「涼君は、あんまり、このカフェに来たことないんですか?」
ムニエルは、オススメのカフェがあるといって自分の手を引いた関原の口ぶりから、てっきり、店は学生時代の彼の行きつけなのだと思っていた。
しかし、彼の妙にソワソワとした態度や言動から、もしかして、店内に入ったのは今回が初めてなのではないかとすら、思ったのだ。
それを指摘してやれば、関原は一瞬だけ固まってから、照れた様子でコクリと頷いた。
「まあ、な。この店は、なんだろうな、憧れってほどじゃないんだけど、ただ、ふとした時に窓から覗く店内には、学生カップルみたいなやつらがたくさんいたから、それで、なんとなくだ。デートスポットなのかなって」
言葉を出せば出すほど恥ずかしくなっていくようで、関原の両耳が朱に染まっていく。
オレンジっぽい光に照らされて、耳の色は曖昧になっていたが、それでも、ムニエルには彼の様子が手に取るように分かった。
照れ屋な恋人がかわいくて、ムニエルはニヨニヨと微笑む。
「ほら、涼君、あ~ん」
パフェを一口分とって、彼の口元に近づけたり、頬についた汚れを拭ってやったり、ムニエルは甘いバカップルの態度を再現して、ちょっぴり関原をからかった。