【後日談6-8】懐古
しば吉を話題にあげてからもポツポツと会話をして、やがて、満足した関原はムニエルを連れて店を後にした。
「よかったんですか? もっとお喋りしなくても」
黙々と道を歩く関原に、ムニエルが心配そうな表情で問いかける。
坂井と話をしたのは長いようで短く、一時間に満たない程度だった。
関原は親しい人間には、お喋りであるし、色々と複雑な感情を持つ恩人と言葉を交わすのには、時が少なすぎたのではないかと、ムニエルは不安になったのだ。
しかし、関原は少し考える間もなく、フルフルと首を横に振った。
「いいんだよ。もう、話したいことは済んだ」
「でも、あの、忘れられちゃってましたね」
「何が……ああ、しば吉のことか。いいんだよ、もう。きっと、俺が落ち込みすぎただけで、その程度のことだったんだ」
「でも、いいんですか?」
問われて、関原は少し押し黙った後、仕方がないなとムニエルに苦笑いを向けた。
「本当に、もういいんだよ。そう思えるようになった。ふて腐れたりとかじゃなくて、心から、そう思えるようになったんだ」
爽やかに笑う関原に、ムニエルは納得がいくような、あるいは、いかないような、曖昧な表情を浮かべていた。
「思いの外、早く坂井さんに会えたから、時間も余ったな。せっかくだから、デートして帰ろう」
「いいですね。どこに行きましょうか。涼君の高校は、ちょっと見てみたいです」
「そうだな。外から高校を見て、それから、ちょっとした喫茶店に入ろう。おすすめの場所があるんだ」
何故か、ちょっぴり照れて頬を掻く関原に、ムニエルはコクリとうなずいて笑顔になった。
数年前、関原が通っていた県立高校は、もちろん今も健在だ。
今は、ちょうど放課後のようで、帰宅部や本日は部活等のない学生が、ぞろぞろと校門から出てくる。
それなりの偏差値で、それなりの規模の、一応、進学校を、関原は当時も昔も好いていなかった。
だが、それでも、学校から出てくる制服姿の生徒を見ると懐かしさを覚えて、学校の敷地外まで聞こえる吹奏楽の音を聞くと、一時的に高校生に戻ったような不思議な感覚がした。
ボーッとしがちになる関原に、ムニエルが優しく微笑む。
「懐かしいですか?」
「まあな。もう、高校の頃なんて忘れたと思ってたのに、それでも……」
「高校、好きだったのかもしれませんね」
無邪気な笑みを向けられて、関原は軽く首を横に振った。
「いや、それはねーよ。でも、思ったより嫌いじゃなかったんだと思う」
「それは良かったです」
関原にニコッと笑いかけると、それから、ムニエルは、「かわいいですね」と、楽しげに下校していく生徒たちを眺めた。
きっと、ムニエルには学校という存在さえ新鮮で、面白くて堪らないものなのだろう。
『私の面倒見た、あの子たちも、こうして楽しく学校に通ったでしょうか』
少し大きくなった子供たちを、大人に近づく変化の目まぐるしい彼、彼女らを、ムニエルは成長を見守る天使だった名残で、愛おしそうに見つめた。