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【後日談6-6】素敵な彼女さん

「なんというか、すごい彼女だな」

 苦笑いを浮かべて、坂井が黒ずんだ外壁を磨く。

 脆く見える壁は意外と頑丈で、ガシガシとシッカリ磨いても崩れる気配はない。

「まあ、良くも悪くもムニエルって感じなんで、うちの彼女は。しかし、壁の汚れ、全然落ちないっすね」

「野ざらしの上に、年期が入ってるからな。なかなか厳しいわ」

「もう、ペンキかなんかで塗り直した方がいいんじゃないすか?」

「まあ、それもありだな。でもなー、俺みたいな素人が塗り直して、逆に外装を悪化させねーか心配なんだよ」

「業者呼んだらいいじゃないすか、業者」

「うちに、そんな金ねーよ」

 ポツポツと言葉を交わして壁を磨く。

 すぐに訪れる沈黙の中、坂井が苦笑いを浮かべて、少し遠くにいるムニエルを見た。

「せっかく彼女さんが俺と話ができるようにって、お膳立てしてくれたのに、お前は、ぜんぜん喋らねーな」

「まあ、なんか、逆にしゃべりにくいじゃないっすか、あそこまでされると。ああいうところ、マジで良くも悪くもムニエルなんすよ」

 関原が照れたように、あるいは困ったように頬を掻くと、坂井は「そうだろうな」と、頷いた。

「あれから5年近く、けっこう長い時間が経ったけどよ、お前、どうしてたんだ? ちゃんと就職できたのか?」

「そりゃ、まあ、就職ぐらいはしてますよ」

「今の若いのは、すぐに仕事を変えるっていうけど、そういうのは大丈夫か? そりゃ、ヤベー仕事環境とか、メンタルおかしくなっちまったなら、辞めちまった方がいいが、だからって簡単に見きりつけるのも、ちょっと怖いぞ」

「それも、まあ、大丈夫っす。いいとこじゃねーけど、いられる範囲なんで、辞めてねーっす。バイト先も二個目のとこは辞めなかったんで」

「そうか。お前、意外と根性あったもんな。悪かったよ、変な心配して」

「いいっすよ。俺、坂井さんが心配してくれるの、嫌いじゃなかったんで。唯一だったっすから。当時の俺を見てくれてたの」

 関原が、ほんのり耳を赤くして、ポリポリと照れたように頬を掻く。

 坂井は、ポツポツと真っ直ぐ言葉を出す関原に、目を丸くして驚いていた。

「お前、素直になったなあ!?」

「まあ、確かに。ムニエルがバカみたいに素直なんで、その影響っすね」

 チラリと遠くにいるムニエルを見る関原の表情は安らいでいて、瞳には愛おしそうな色が宿っている。

 高校時代に比べ、随分と険のとれた様子の関原に、やはり面食らっていた坂井だったが、彼の穏やかで満たされた表情を眺めてると、やがて、ホッとしたように笑った。

「やっぱ、いい彼女なんだな」

「まあ……」

 頷く関原の耳は、真っ赤になっていた。


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