【後日談6-5】そういう予定
実は関原、しば吉の件以来、男性と関わるのが苦しくなって、居酒屋にいけなくなって、バイトを飛んでいたのだ。
少ない人数で業務を回していた店だ。
急に関原と言う戦力を失った時は、それなりに大変だったことだろう。
誰にも、なにも言わず、無断でバイトを辞めてしまったことについて、関原は罪悪感を覚えていた。
少し前までの生意気な雰囲気を失い、しょぼんと落ち込む関原を見て、男性が苦笑いを浮かべた。
「まったく、お前は、変なところが真面目だな。いいよ。バイトが飛ぶのくらい、よくあることだ。特に、うちは忙しかったし、時給も高い方じゃなかったからな。それに、お前にも、なんか事情があったんだろ。バイトを辞める前の数日、明らかに様子が変だったし。声、かけてやれなくて悪かったよ」
謝る男性に関原は首を横に振った。
「いや、俺、多分あの時、坂井さんのこと避けてたんで。気にしなくていいっす」
「そうか。それなら、俺も気にするのやめるよ。だから、関原も、もう気にするな」
快活に笑う坂井に関原がコクリと頷いた。
その後も少しだけ談笑をして、それから、関原は坂井にムニエルを紹介した。
あの関原に彼女が!? なんて、驚かれたりもしつつ、過去、大切だった存在に宝物を打ち明ける彼は嬉しそうに照れ笑いを浮かべていた。
「坂井さん、俺、掃除手伝いますよ」
一応、坂井と話をするという目的は達成されたのだが、まだ、なんとなくしゃべり足りなくて、名残惜しくて、関原は掃除を口実に居酒屋に残ろうとした。
そんな彼に、坂井が渋い表情を浮かべる。
「俺はありがたいけど、彼女さんは大丈夫なのか? デートだったんだろ。それを、知らないオッサンとの掃除に付き合わせて、後から怒られても知らねーぞ」
軽く睨みがちになる坂井に、関原ではなく、ムニエルが首を横に振る。
「いいんですよ。元々、今日はそういう予定だったんです」
「そういう予定? どういうことだ? 店の掃除をしようとしてたってことか?」
「いえ、そうではなくて、今日は坂井さんに会いに来たんです。高校時代の恩人で、尊敬していた人に、涼君はたくさんお喋りしたいことがあるみたいだから。だから、今日は涼君が貴方とたくさん話せることが最優先なんです。坂井さん、お時間あるなら、涼くんのお話、聞いてあげてください」
ペコリと丁寧に頭を下げるムニエルに、坂井は目を丸くして固まっていた。