【後日談6-4】邂逅
「じゃ、取り敢えず、まずは俺の高校に行くか。確か、来た道を少し戻ってだな……」
過去の記憶を漁りながら、ムニエルの手を引く。
クルリと後ろを振り返ると、そこには、関原よりも一回りほど年を取って見える中年の男性が立っていた。
男性は水の入ったバケツと雑巾などの入ったレジ袋を持っている。
「うわっ! なん……先輩?」
初めは知らぬうちに背後に人間が立っていたことにギョッとして、目を丸くしていた関原だったが、やがて、男性の顔に「先輩」の面影を見ると、酷く懐かしそうな、泣きだしそうな顔でパキリと固まった。
訝しげな表情で関原たちを見つめていた男性も、何か思い出すことがあったらしい。
「関原?」
呟くように問いを出すと、バケツを持ったまま関原たちの方へ軽く駆け出した。
「キャッ!」
タプンと揺れたバケツの水が零れて、少し、ムニエルの真っ白いワンピースの端にかかる。
「おわっ! 悪いな、嬢ちゃん! 一回バケツ、下に置くわ」
男性は気さくな態度でバケツを地面に置くと、それから、真っ直ぐ関原の方へ歩み寄り、バンと背中を叩いた。
「なんだ、お前、随分とデカくなっちまって。いや、高校の時と、そんなに背は変わってねーか? 何にせよ、久しぶりだな!」
バンバンと背中を叩く男性が、快活で打算の無い笑みを浮かべ、嬉しそうに言葉を重ねる。
面食らっていた関原も男性につられて少しずつ動き出し、「っす」と、小さく頷いた。
「変わんねーな、その微妙な相槌」
関原の声を聞いた男性は笑顔だ。
「先輩、あの、今日は掃除でもする予定だったんすか?」
「ん? そうだけど、なんで分かっ……ああ、これで分かったのか。そうだよ。従業員には、いっつも店内とか掃除してもらってるんだけどさ、限界ってあるから。自分で、ちょっと掃除しようと思ったんだよ」
足元をチラリと見てから店を見る男性は、やる気に満ちた表情をしている。
「そっすか。先輩、相変わらずっすね。確か、正社員になったんですっけ? でも、だからって、よくやるなって思うっすけど。別に、細かい掃除とか社員の義務じゃないっすし」
「お前は相変わらず生意気だな。いいんだよ。店が綺麗だと俺が嬉しいからって、それで自主的に掃除してるだけなんだから。それに、今はもう、俺の店だしな!」
呆れる関原を呆れた表情で見つめ返して、それから、ドヤ顔になる男性は非常に誇らしげだ。
フンと胸を張る男性に関原が目を丸くした。
「先輩、店長になったんすか!?」
「まあな。お前が辞めて、すぐに正社員になってさ、その三年後だったかな? そのくらいに店長になったんだよ。いや~、正社員になってからは目が回るような忙しさが続いてさ、お前にも手伝ってほしかったな~」
言葉を口にする先輩は軽く冗談を飛ばしているだけの様子だが、関原の方は当時を思い出して、申し訳がなさそうに、「すみません」と謝罪した。