【後日談6-3】昔のバイト先
関原が昔、バイトで働いていたのは、チェーン店の居酒屋だ。
学校が終わってから、ほとんど毎日、午後五時から午後十一時過ぎまでを持久性の労働に費やしていた。
仕事は主に調理で、内容は仕込みと営業時間中の料理の作成、酒の準備全般だ。
加えて、面倒な酔っ払いの相手も関原の仕事だった。
体格がよく、目つきも悪い彼は、接客をすると客から要らない不興を買ってしまうことが多かったため、基本、調理場から出ず、裏方に徹していた。
だが、痩せた高校生相手だと酷く強気に出る酔っ払い相手には、関原ぐらいの不愛想さと無駄な気の強さがちょうど良かったのだ。
関原は、件の先輩以外には特に好かれておらず、どちらかというと煙たがられていた。
しかし、それでも手際の良さや、いざという時に物おじしない性格で、バイト先には重宝されていた。
愛していたわけではなかったが、それでも、高校時代の関原にとっての数少ない居場所だった。
バイト先の居酒屋は、今、彼の住んでいるアパートからは離れた場所にある。
自宅から車で出発して、適当なコインパーキングに駐車して、それから関原とムニエルは歩いて居酒屋まで向かった。
「この建物も、古くなったな」
塵や埃で汚れて黄ばみ、所々、黒っぽくなった居酒屋の外壁を眺めて思う。
おまけに、建物自体、何だか小さくなったように感じた。
「昔は綺麗な建物だったんですか?」
関原の隣に来たムニエルが、同じように壁を見つめて問いかける。
彼は少し考えてから、やがて、首を横に振った。
「いや、多分、昔からこうだったな。ただ、俺が店を見ていたのは、いつも夜だったから。それで、古くなった部分や汚くなった部分が見えてなかっただけだと思う」
「なるほど」
頷くムニエルが、何となく外壁に触れる。
経年劣化の著しいソレは、指先でなぞっただけでポロポロと崩れていってしまいそうだ。
「でも、やっぱり多少、劣化はしてると思いますよ。涼君が働いていた頃より」
「それは、まあ、確かにそうだな」
苦笑いをするムニエルに、関原も苦く笑って頷いた。
「涼君の先輩、本当にまだ、いらっしゃいますかね」
「どうだろうな。まあ、いなかったら、そん時はそん時だな」
「居酒屋の開店は、午後六時から。でも、今は午後一時ですね。空いちゃった時間はどうしましょうか」
「さあな。まあ、適当に、その辺を探索すればいいんじゃねーの? 外から、俺の母校でも見て、適当に飯でも食おう」
「そうですね」
コクリと頷いたムニエルが、関原の手をキュッと握った。
「なんだよ」
酷く手汗のかいた冷たい手でムニエルの手を握り返して、関原がぶっきらぼうに問う。
ムニエルが、素直じゃないなと笑った。
「緊張して、怖がって見えたので」
温かい手で握り直して、彼と恋人結びをする。
関原は少しの間、あっけにとられた後、「ありがとう」と真っ赤な耳で礼を言った。