ゴミの山
数時間の格闘の末、荒れていた室内は随分と片付き、綺麗になった。
窓やフローリングなどはツヤツヤと輝いていて、もはや、鏡のようである。
額の汗を拭って室内を見回すムニエルは満足そうに笑んでいて、その横顔はどことなく誇らしげである。
『お布団も干しましたし、完璧です! 涼君、驚きますよ~!』
ムフフと嬉しそうに笑うと、それからムニエルは最後の仕上げをするべく、部屋の隅に固めておいた複数個のゴミ袋を見た。
『それにしても、凄い量ですね。涼君のお部屋、殺風景だから、そんなにゴミは出ないと思っていたのに』
75リットルのゴミ袋は形が変わるほど歪に膨らんでいて、積み上げられたソレは、まるで山のようだ。
ムニエルは、足の踏み場もなかったゴミ屋敷を清掃した時と大きく差のないゴミの量に首を傾げていた。
『まあ、中には私が出したごみも結構ありますからね。汚れた雑巾とか、フローリングワックスのボトルとか。涼君の部屋から出たゴミ、と考えれば、そんなに多くも無いのかもしれません。さて、くだらない事を気にしていないで、涼君が帰ってくる前に、さっさとゴミを片付けちゃいますか』
ムニエルは掃除用具を取り出した時のように空中に円を描くと、それから、金色に輝く魔法陣を出現させた。
『行き先は、現在の対象者用の倉庫、すなわち、涼君の倉庫ですね。私の出したゴミはゴミ処理場に送るとして、涼君の部屋から出た物は倉庫に送っておきましょう。一見するとゴミでも、対象者にとっては宝物なんてこと、今までもザラにありましたし』
孤独対策課に与えられている魔法陣は、取り寄せ機能付きの物だけではない。
天使たちは、それぞれ、仕事に関する道具や資料をしまっておく大きな倉庫と、そこに鑑賞するための魔法陣も与えられていた。
ムニエルの場合は倉庫内をザックリと分割して、整理整頓を心がけながら、なるべく綺麗に、すぐに必要なものを探し出せる状態にして使用している。
だが、天使の中には彼女の姉のように倉庫内を物で混沌とさせ、ゴチャゴチャに中身を織り交ぜながら使用している者もいた。
人間に与える無償の愛や異、どこまでも澄んだ清らかな心、優しいと評するにはあまりある性質など、天使として共通する特徴はいくつかあるが、天使にもそれぞれ個別の性格が存在する。
そういった側面が倉庫の使い方ひとつにも反映されているのだろう。
『さて、もうひと頑張りですよ!』
ムニエルは大きなゴミ袋を一つ抱え、持ち上げると、勢いよく魔法陣の中に投げ込んだ。
みるみるうちに、ゴミ袋の山も瓦解して、存在を消していく。
しかし、最後の一つだけ、袋の結び目が甘かったのか、掴みあげた拍子に口が開いて中身がドサドサと床の上に落っこちてしまった。
ムニエルは、油断したなぁ、と苦笑いをして露出したゴミをかき集めようと床に屈んだのだが、改めて袋から出てしまった物品を確認すると、忌々しそうに顔を歪めた。
『よりにもよって、一番処分したかったものがしぶとく残るとは……』
ムニエルがキツく睨みつけているソレは、大量の錠剤だった。