表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独対策課  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/127

【後日談6-2】行こう!

「涼君」


 ムニエルが血管の浮く関原の手の甲に自分の手のひらを添える。

 関原がハッとした様子でムニエルの顔を見て、それから、すぐに顔を背けた。

 食い縛るような表情は、泣き出しそうにも見える。


「涼君」


 再度、優しく声をかけて、関原の頭を撫でようとてを伸ばす。


 今はもう、飛べないから、ムニエルは彼のためにかかとを浮かせて、精一杯、腕を伸ばした。


 しかし、そうやって向かわせた手のひらを、関原はフイッとそっぽを向いて拒否した。


「涼君?」


 問う言葉は、幼子に話しかけるかのようだ。

 関原が、空いていた手のひらをギュッと握りしめる。


「今、優しくすんな」


 ぶっきらぼうに出された声は酷く固い。


 それでも、ムニエルは無視をして、彼の額に指先をくっつけ、擦るようにして頭を撫でた。


 額やこめかみの辺りを往復する肌がくすぐったい。


「お前、ほんと俺の言うこと聞かねーな。撫でるなって」


「嫌ですよ。私は撫でたいですから。それにしても、涼君は大きいですねぇ。手が届きません。屈んでいただけると、助かるのですが」


「嫌だよ。ムニエルがちっこいのが悪いんだから」


 関原は、相変わらず顔を背けたままだが、それ以上の抵抗はせずに、静かにムニエルに頭を撫でられ続けていた。


 やがて、数分の時が経つと、関原の目元に涙がたまって、それが頬へ伝うようになった。


 行き場のない雫が、静かに床へ落ちていく。


「こうなるから、嫌だったんだ」


 震える肩に嗚咽混じりの声。


 固い声は涙でふやけて、酷く弱る反面、やわらかくなっている。


 関原は、文句をいう反面、ムニエルに甘えていた。


 ムニエルがあきれたように笑う。


「涼君は、お馬鹿さんですね。むしろ、泣けるなら泣いた方がいいのに。ほら、涼君、おいで。抱っこしてあげますよ」


 撫でるのをやめたムニエルが、大きく腕を開いて関原が収まるのを待つ。

 すると、少し迷った彼がムニエルの方へ寄っていって、覆い被さるようにして彼女を抱き締めた。


「なんか、私が抱っこされてるみたいですね」


 関原の胸の中にすっぽり収まって、ムニエルが笑う。


「俺は、抱き締められるのより、抱き締める方が好きだから」


 独り言のように言葉をこぼして、小さく、強く肩を震わせる。

 凍えるような背を何度も撫でられると、心地がよくて、泣いているだけの状態に身を任せたくなって、関原は黙りこくったまま、嗚咽をこぼし続けた。



「先輩さ、多分だけど、まだ、あん時のバイト先で働いてんだよ。なんか、俺が働いてた時、あの人、正社員になるみたいな話が出てたから」


 ひとしきり泣いた関原が、かすれた声で言う。


「会いに行きたいんですか?」


「うん。今さら、変かな」


「いいと思いますよ。私も、私のかわいい涼君を傷つけた、とびきりの恩人の顔、拝んでみたいですから」


 大輪の花のように笑うムニエルに、関原が目を丸くする。


「ムニエルもついてくるのか?」


「駄目ですか?」


 コテンと首をかしげるムニエルは、キョトンとしていて、自分が関原についていかないことなど、考えてもみなかった様子だ。


 関原はムニエルの態度に少し笑って、それから、ふるふると首を横に振った。


「いや、いいよ。一緒に行こう」


 関原は、しば吉を持ったまま、もう一度、ギュッとムニエルを抱き締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ