【後日談5-6】炙り出された罪人
「なんだよ、ムニエル。そんな顔してさ。びっくりしたのか?」
ムニエルの表情を見て、関原が軽く笑う。
ややあって、ムニエルはコクリと頷いた。
「涼君は、ずっと、手に入った時から、しば吉のこと大好きなんだと思ってましたから。でも、違ったんですね」
「そうだよ。でもさ、好きになるきっかけがあったんだ。思い出したのは、さっきなんだけど。俺の家さ、すごくちっちゃい頃、誰か知らないけど、すごく綺麗な女性がお昼にだけ来る時があったんだ。その人が、本当に優しくて、俺にオヤツとか作ってくれたんだ。見知らぬ小汚いガキを、不衛生な状態じゃよくないからって洗ってくれて、たくさん話しかけてくれたんだ。でも、俺、どうしてか、その人、人間じゃないんじゃないかと思って、それに、あんまりにも綺麗だったから緊張もしちゃってさ、ロクに返事できなかったんだ。でも、そしたら、その人、黙り込む俺のためにさ、器用にしば吉を操って、しば吉を通して、俺と遊んでくれるようになったんだよ」
過去を思い出す関原が懐かしそうに言葉を紡ぐ。
その隣で、ムニエルはやっぱり目を丸くしていた。
『涼君、しば吉の代わりに私が喋ってるって知ってたんですか!? 本体は魔法で操っていたというのに……やはり、子どもは侮れませんね!』
ムニエルは顔に心が映し出される。
彼女の表情をひっそり盗み見た関原が、コッソリ、バレないように口角を上げる。
「俺、しば吉のふりして言葉を出す、その人の顔が大好きだったんだ。言葉とリンクして笑ったり、悲しそうな顔したり、俺を、心配してくれたりしてさ。すごく、満たされた。そんで、その人が帰ってからも、その人のことが名残惜しくて、しば吉だって、本当にしゃべったらって、それで多分、しば吉で人形遊びをするようになった。遊んでる間だけ、しば吉が生きてるみたいに感じられたから。物じゃなくなったんだ。俺にとってしば吉は、ちゃんと親友になった。それからは、俺、しば吉にあたらなくなったよ」
幼い関原にとって、ムニエルとの記憶は何よりも愛おしく、大切なものだった。
彼女が去ってからも、何度も甘い記憶を思い出して、誰かに愛されたという事実を反芻した。
だが、そうしてムニエルのいない日々を何日も過ごすと、もう愛されていないことを突きつけられるようで、苦しくて、悲しくて、寂しくて堪らなくなった。
気が付いたら、関原は記憶ごとムニエルを失っていた。
そして、しば吉と仲良しになった記憶だけを持ち越して、日々を生きていた。
関原が、そっとムニエルの頬に触れる。
「ムニエルなんだろ? 俺のところに来てくれてたのは」
言葉は問いだが、瞳には確信が満ちている。
綺麗な目に当てられて、ムニエルの背中に罪悪の冷や汗が流れた。




