【後日談4-2】謎ノート
『服がねえといえば、ムニエルもなんだよな。必要最低限に毛が生えた程度は持ってるけど、多分、女の子にしては服の枚数、少ないよな。可愛い格好のムニエルには興味あるし、いくつか買ってやりたいけど、どんなのが似合うんだろ。あいにく、女性の服には詳しくないからな。まあ、そもそもムニエルの服なんだから、ムニエルに選ばせればいいのかもしれないけど』
のんびりとそんなことを考える関原だが、あいにくムニエルもファッションに疎い。
きっと、関原が一緒に見てやることになるだろう。
ムニエルの隣にやってきたまま、関原も何となくタンスの中を眺める。
「やっぱり、ボロばっかだな」
関原が苦笑していると、不意に、底の方から一冊、真っ白なノートが出てきた。
「あれ? これは何ですか?」
「あっ! それは、まっ! ムニエル!!」
ノートに心当たりしかない関原がギョッと目を丸くしてムニエルを制止しようとするが、残念ながら、好奇心に駆られた彼女の方が一瞬、動きが早い。
慌てふためく関原にキョトンとしたまま、パカッとノート開く。
すると、中から一枚、四つ折りにされたA4の紙が転げて地面に落ちた。
中身を確認すれば、そこには、優しく微笑む女の子の絵が描かれていた。
純白の髪に白銀の目、大きな翼を持つ女性は、天使だった頃のムニエルに瓜二つである。
「これは、私? 本物よりも可愛らしいくらいの美少女ですね。涼君が描いたんですか?」
「そうだよ。別にいいだろ。大人しくノートと絵を俺に返せ」
耳を真っ赤にした関原が粗雑にムニエルへ手を伸ばす。
しかし、ムニエルは冷静に身をひるがえすと、軽やかに関原の手を逃れた。
「嫌ですよ。せっかく涼君が描いた私なんですから。大切にとっておきます。でも、どうしてこれを? 涼君、お絵かきが趣味でしたっけ?」
不思議そうに首を傾げたまま、しっかりノートと絵を胸に抱くムニエルを、関原が何とも言えない複雑そうな表情で睨みつける。
「違ぇよ。それは、ただ……」
「ただ?」
「何でもいいだろ! ちょっと暇で描いただけだ! いいから返せって」
「でも、だって、気になります。涼君がそんなに取り乱してまで隠したいノートなんて。もしかして、アレですか? デ○ノート的な? あとは、私の悪口とかいっぱい書いてあるノートなんですか?」
嫌な予想を口にするムニエルの表情が曇る。
ムニエル的には、一緒に暮らしているのだから、関原が自分に対して多少の不満を持っていても、不思議ではないが、できれば、その詳細な内容は内緒にしていてほしいと思っていた。
しょぼんと落ち込むムニエルに、関原が慌てて首を横に振る。
「馬鹿! そういうんじゃねえよ! 俺は不満があったら口頭で伝える派だし!」
「じゃあ、なんですか?」
「それは……」
再び関原が口を閉ざす。
眉間にしわを寄せ、グムム、と少し考え込むと、関原は、
「中について、何も感想を言わねえなら読んでもいいぞ」
と、ぶっきらぼうに告げ、そっぽを向いた。