【後日談4-1】断捨離
とある日の休日。
ムニエルは、急に断捨離に目覚めて、家の中をガサゴソと漁っていた。
品数の少ない自分の持ち物や冷蔵庫の中身、試供品が数点おかれている洗面所、いらないチラシが少し目立つリビングなんかは、とっくに片付けが終わってしまっている。
そのため、ムニエルは関原に許可を取った上で、彼の持ち物を確認していた。
傍らには、休みだからということで、のんびり酒を飲んで掃除を見守る関原もいる。
「涼君、これは捨てちゃっても大丈夫ですか?」
問いかけるムニエルが右手に握り締めているのは、はるか昔に買って着古し、穴をあけたまま放置していた関原の白いTシャツだ。
元は純白だったのが黄ばんでおり、とてもではないが着られない。
部屋着に降格するにしても、もっとマシなものがあるだろうとツッコミたくなるような代物だ。
誰から見ても立派なゴミである元白Tに、関原が苦笑いを浮かべた。
「そんなの、どう考えてもゴミだろ。いいよ、捨てちまって」
「は~い。かしこまりました~。それにしても、涼君、お洋服はけっこう溜め込むんですね。いや、溜め込むというより、新しい物を買わない?」
キョトンとするムニエルの左手には、衣類が数点入った大きなゴミ袋が握られている。
衣類はほとんどが関原の物で、まだ、漁るつもりのタンスには古びた洋服がいくつも入っている。
購入したのが数年前であるだけで、まだ状態が良く、着ることができる衣服もあるが、大抵は白Tのように部屋着に降格するか、それ以下の物ばかりである。
基本的に要らないものは捨てていた関原のタンスが着古しだらけで、ムニエルには、それが意外だった。
『もしかして、古物が好きなんでしょうか? 私は、まだ、ファッションに疎いですからね』
タンスの中身を検めて確認し、コテンと首を傾げる。
すると、関原が、まだ半分以上も中身の入った缶を持って、ムニエルの隣にやってきた。
タンスを覗く彼も、ちょっぴり苦笑いだ。
「学生の頃はともかく、大人になって忙しくなって、なんか常にくたびれるようになって、お洒落とかしなくなってたからな。仕事も基本スーツで、新しく服を買う必要もなくなってたし」
「なるほど。確かに、捨てていいよって言っていた白Tも、ちょっと前は着ていたようですし、お気に入りのパーカーも毛玉でモケモケですからね」
「うわっ! 本当だ。あー、そうだ。そうだったわ。だから、最近着てなかったんだ。でも、どうすっかな、これは捨てちまって、そろそろ、いい加減、新しいの買いに行くかな」
真っ黒いパーカーは厚手で形のしっかりした、デザインも可愛い、悪くない品だが、如何せん、わきの下やわき腹、裾元、肩や背中の一部など、まばらにできた毛玉が目立つ。
根気強く毛玉をとって、改めて洗濯をすれば、着ることはできるかもしれないが、そうしてもくたびれた布に染みつく、くたびれた印象はとりきれず、なんとも言えない仕上がりになってしまうだろう。
少なくとも、ただ着古しただけのパーカーをカッコいいとする感覚は、関原の中には無かった。
少し前までは己の見てくれなど、ほとんど気にしていなかったのだが、最近は、ムニエルと一緒に暮らして穏やかな日々を送っており、気力もだいぶ復活している。
お洒落をする元気も湧いてきて、むしろ、好みの服を着たいと思えるようになってきていた。