【後日談3-5】あまあま
「ビゥ!」
まさか、最初に与えられる刺激が「噛む」だと思わなかったのだろう。
ムニエルが、小さく悲鳴を上げる。
驚きのままに豊かさからペッと関原を追い出すと、そのまま、クルッと後ろを向いて、自身の胸をギュッと抱きしめ、腕の中に羞恥を隠しこんだ。
脅かされた小動物のようなムニエルに、関原が悪戯っぽく笑う。
「怒んなって」
「怒ってないです。ただ、恥ずかしくて……噛むことないじゃないですか!」
「怒ってんじゃん。全く、ムニエルは利かん坊だな」
普段、自分が言われていることを、そっくりそのまま返してやれば、ムニエルは「むぅ」と頬を膨らませた。
むくれるムニエルを見て、やっぱり、関原が笑みを溢す。
「俺に性欲がないわけないだろ。ムニエルの手前、我慢してただけだ。人間になりたてで、自分自身にすら戸惑ってる無垢な女の子を、俺の欲で混乱させるわけにはいかないだろ。本当は触りたかったし、繋がりたかったよ」
「本当の本当ですか?」
「当たり前だろ。嘘ついてどうするんだ」
「良かった。そしたら涼君、あの、いっぱい触れてください」
「分かった。できるだけ、優しくするよ」
「優しくはしなくてもいいですけど、いっぱい、いっぱい遊んでください」
「遊ぶってお前、妙にヤラシイ言いかえするのな。それなら好きにさせてもらおうかな。でも、優しくもするよ。ほら、いい加減、こっち向きな」
頑なにそっぽを向くムニエルの肩を、関原が軽くつかんで揺らす。
「……電気」
毛布の隙間から差し込む光で、電灯が点いていることに気が付いたのだろう。
ポツリと言葉を出すと、関原が、仕方がないなと電気を消しに行った。
「布団の中は真っ暗なのに、電気が気になるのか」
「だって、どうせ毛布なんか、すぐアレして、コレして、大変なことになったら、ピュって、どこかに行っちゃいますし」
「恥ずかしいのか。もう、見られてるくせに」
「当たり前でしょう! もう! 私の体のことなんか、忘れてください!」
「やだよ!」
揶揄って笑う関原が、ムニエルの唇を柔らかく奪って甘く貪る。
興奮した彼女がキスに夢中になっている間に、そっと体に触れていく。
これ以降の関原は、急にムニエルを噛んで驚かせるなんてことはせず、優しく丁寧に彼女を扱った。
そして、一度だけ一緒になると、
「初めてだから、これくらいにしておこう」
と、ムニエルの頭を優しく撫でて、火照って汗まみれになる彼女の体を抱き締め、穏やかに瞳を閉じた。
ムニエルもコクリと頷いて、そっと関原を抱き返し、瞳を閉じたなら、優しくも激しい夜が静かに過ぎていったことだろう。
だが、食欲や睡眠欲の時と同様に、天使の副作用は、一度でも体が欲の発散方法を見つけると、止まれなくなる。
ムニエルは、体に渦巻く酷い熱を発散してくれる甘い快楽を見つけてしまった。
関原の方は、ある程度、欲をコントロールして、心地良い疲労感に身を任せ、眠ることができるが、酷い副作用に侵されたムニエルは、そうもいかない。
「涼君、寝ないでください。まだ、もうちょっと!」
子供がむずがるような、ちょっぴり泣きかけの甘え声を出すと、ムニエルは返事を聞く前に関原の唇に自身の唇を押し当て、彼を激しさに巻き込んだ。
クタクタになる体を、何度も襲って貪った。
副作用は数日続く。
この日以降、二日あった関原の休日は、恋人の熱で溶けてしまった。