【後日談3-3】三大欲求副作用の最後
焦った様子で言い訳がましい言葉を口にするムニエルに、関原が呆れたような笑みを浮かべる。
「それだけって、お前、なんというか、結構スケベなんだな。でも、別に、それなら夜中にコソコソする必要ねーだろ。ムニエルが嗅いでくるの自体は、珍しい話じゃねえんだから」
「それは、そうですが。でも、だって……」
「まあ、いいや、要するに夜中、急に甘えたくなっただけなのな。変な酔い方しておかしくなったとか、風邪ひいたとか、そういうんじゃなくて良かったよ」
ホッとした関原がムニエルの隣に潜り込もうと毛布を引っ張る。
それを、彼女はグイっと引っ張り返して拒否をした。
「おい、ムニエル?」
訝しげな表情で問いかけながら、グイグイと毛布を引っ張る。
しかし、ムニエルの反応は変わらない。
「ヤです」
再度拒否をすると、彼女はフルフルと首を横に振った。
「なんで駄目なんだよ。俺も布団で寝たいんだけど」
「だって、私、涼君が隣に来たら、多分、悪い事しちゃうので」
「悪い事ってなんだ? 俺のこと、ぶん殴ったりするのか?」
「そんなことしないですよ。ただ、その、ヤラシイこと、しちゃうので」
モジモジと恥ずかしそうなムニエルに、関原がギョッと丸い目を見開く。
「ヤラシ……はぁ!? ムニエルが!? 俺に!?」
夜中なので声は押さえているものの、ピョンと飛び出た言葉には多分に驚きが乗っかっていて、勢いも強かった。
毛布の中でムニエルがコクリと小さく頷く。
「さっきだって、しかけたの知ってますよね。そんなに驚かなくても良いじゃないですか」
プゥッと頬を膨らませるムニエルは、少しむくれていた。
「確かに。でも、意外で……え? なに? ムニエル、もしかしてシたいの?」
「うぅ……涼君、人間の三大欲求って知ってますか?」
「知ってるよ。食欲だろ。もう一つは睡眠欲、あとは……性欲か」
ハッとした表情の関原に対し、ムニエルが微かに頷く。
人間になった元天使たちは、多くの副作用にさらされるようになる。
三大欲求の異様な増加は、副作用の中でも強力で、ほとんどの天使たちが免れることのできない現象だった。
バレたのが恥ずかしいのか、あるいは、発散されないソレが渦巻いて体内で暴れているのか。
ムニエルの火照りは酷くなって、濡れた口元からは湿った熱交じりの呼気が、忙しなく吐かれている。
関原にロクでもないことをしないように、というのもあるが、自分の状態を関原に知られたくないというのもあって、ムニエルは余計に布団に閉じこもってしまっていたのだ。