【後日談3-2】ちょっぴり悪いこと
部屋着のワンピースが意図的に捲り上げられることで、強制的に増した真っ白な肌の面積が眩しい。
下着から転げた上下の柔らかさが、呼吸と共にプルンと揺れる。
普段は隠れた太ももの際なんて、当然のように露わになっていて、緩やかな曲線が妙に色っぽい。
関原に見られたことを自覚した瞬間、元から細かく汗をかいていたのが、ブワッと噴き出すようになって、ムニエルは体の火照りをどこまでも酷くすると、
「りょ、涼君のおバカ! スケベ!」
と、大慌てで彼を詰って毛布の中に逃げ込んだ。
しかし、体を布の中に隠しても、既に関原はシッカリとムニエルの姿を見てしまっているわけで、彼の脳は九割ほど彼女の裸体に持っていかれていた。
『か、風邪で熱が上がって、体が熱くてしょうがなくって、俺の体で涼んでた、とか? あとは、やっぱ、熱すぎて脱いでたとか、そういうアレなのか? そういうアレなのか!?』
残り一割の脳で、何とか思考を回す。
だいぶ無理のある発想だったが、ムニエルが風邪をひいていると信じてやまない関原には、そのくらいしか考えることができなかった。
「な、お、おい、ムニエル。仕方がないよ。風邪の時は判断力が鈍るもんな。俺の体、冷たさそうだったんだもんな。大丈夫、大丈夫だから、俺も今見たのは忘れてやるからさ、だから、アレだ。まずは服を整えて、体冷やさないようにしてからさ、出てこいよ。そんで、容体を聞かせてくれ。場合によっては病院行かなきゃだろ」
布の上からムニエルの体を揺らす。
すると、ムニエルはモゾモゾ動いて関原と距離を取り、その上で顔だけを布の中から覗かせた。
「涼君、私が風邪ひいたって思ってるんですか?」
「ん? ああ。そうだよ。じゃなきゃ、こんな奇行をする理由も思いつかねーし」
「あいにく、風邪じゃないです」
「じゃあ、なんだ? あ! もしかして、酔っぱらったのか? ムニエルも、たまに晩酌するもんな! それで暑くなって、俺で涼みたくなったんだろ。でもな、あいにく、寝てる奴の体温はたけーんだ。誤算だったな、ムニエル。俺で涼をとるのは諦めて、扇風機でも使っとけ。今、持って来てやるからさ」
屈んでいた体を起こして物置の方へ向かう関原の服の裾を、ムニエルがキュッと握って制止する。
「なんだよ、ムニエル。暑くないのか?」
「暑いです」
「じゃあ、大人しく待ってろって。すぐに涼しくしてやるから」
「いや、あの、大丈夫です。そもそも、涼君で涼もうとしてたって言うのが、勘違いと言いますか、間違いですし、暑いのも、その、ムラムラと言いますか、エチチ……みたいな?」
ぽつぽつと言葉を出すムニエルの声は段々に萎んで、聞き取れないほどになっていく。
最後の方を聞きとることができなかった関原は、納得のいかない様子でムニエルの赤面を見つめた。
「何ゴチャゴチャ言ってんだ? 聞こえねーぞ。大体、俺の考えが見当はずれだって言うならさ、ムニエルは、夜中にゴソゴソ何やってたんだよ。ほぼ全裸に近い状態で俺に抱き着いてさ」
「えと、それは……」
言葉を渋るムニエルがモニモニと口を動かして俯く。
「何だよ。俺に言えないこと、してたのか?」
訝しむ関原の目つきが睨みがちになる。
ムニエルは責めがちな関原の態度にギョッとすると、大慌てで真っ赤な顔をブンブンと横に振った。
「そ、それはまだです! まだ、まだ、そんなに悪い事してません! ただ、その、ちょっと抱き着いて、背中にいっぱいキスしてただけです。あと、ちょっとだけ、背中を嗅いだだけです! まだ、それだけですから!」