【番外編3-1】状態異常、発熱?
時折、外を走る車の排気音ばかりが目立つ深夜。
関原は、ムニエルと同じ布団に潜り込んで、スヤスヤと寝息を立てていた。
しかし、何か体に違和感を覚えると目を覚まし、薄く目を開けた。
常夜灯はつけているが、光は非常に弱い。
目を覚ましたばかりの、ぼやけた視界に入り込むのは闇ばかりだ。
『何も見えない、けど……』
寝惚けた身体が、数秒の間に、どんどん覚醒していく。
それに従って、やたらと背中が熱く、湿っていることに気が付いた。
若干の不快感があって、半無意識的に体を動かす。
だが、そうすると寝返りが打てないことに気が付いて、同時に、ムニエルが手足を自分の体に絡みつかせていることにも気が付いた。
『ムニエルに触れている部分が、やたらと熱い? なんか、妙な音もするし、呼吸も荒いみたいだし……』
五感を使って、どうやら起きて何かをしているらしいムニエルの様子を探る。
しかし、冷静に思考を回す関原に対して、ムニエルの方は彼が起きていないことにすら気が付いていないようだ。
モゾモゾと手を動かして、無遠慮に関原の肌に触れている。
関原が、後ろから回されたムニエルの腕をムニッとつまんだ。
「ムニエル、さっきから何やってんだ? なんか、背中ってか、全身が熱いんだけど」
寝惚けた、気だるい声で問いかけると、背中にビタッとくっついていたムニエルが、驚いてビクッと体を揺らした。
そーっと離れて関原に背を向け、眠ったふりをするムニエルに、彼が呆れた笑みを浮かべる。
「おい、ムニエル、流石に誤魔化せねえぞ。いったい何やってたんだよ」
今度は関原が後ろから、ムニエルの頬をムニムニとつつく。
そうすると、ムニエルの体が、やたらと汗ばんでいて、おまけに高熱になっていることに気が付いた。
常夜灯が暗いせいで分かりにくいが、熟れたリンゴのようになった頬を中心に、ムニエルの体は真っ赤に染まっている。
大きな目から零れ落ちたらしい涙で頬も湿って、泣き跡がついているのが、ムニムニと彼女をつつく指先から伝わった。
「ムニエル、お前、大丈夫かよ! 体、酷いことになってんぞ! いつからだ? 夜中でも、言ってくれりゃ、なんとか……かぜ薬だってあるし、ヤバいなら夜間診療やってる病院にだって連れてけるのに!」
焦った関原が、ムニエルの火照った口から転げた、小さな悲鳴のような制止を無視して、ガバッと身を起こす。
『今日は酒のんじまったから、病院に連れてくならタクシーだよな。夜間診療やってんのって、この辺だと、どこだ? クソ! ムニエルは体調不良とか隠すから、余計に気付くのが遅れちまった。言ってくれりゃ……いや、そんなこと、今は気にしてる場合じゃないか。とりあえず、ムニエルの様子を見て、スマホで病院調べて……』
何をするにも、取り敢えず室内の明かりをつけなくては。
関原が素早く室内灯のスイッチをいれ、部屋の中を白っぽい光で満たす。
そうすると、あられの無い姿になったムニエルの全身がシッカリ照らし出されて、二人の時間がバキッと固まった。