ep8. 元皇女の実力
戦闘シーンなので3話投稿にします
もう1話は、20時に投稿予定です
「『エステルの名におきて命ず。我に火を自在に操り、朱雀創りいだす際の力を与へたまへ。また、同時に龍創りいだすほどの水の力を我に与へたまへ。かくて虎創りいだす雷の力を与へたまへ。この三つの力は果てには天へと昇り大いなる神木へと移ろふ。その時、地面には花々咲き乱れ草々の地面がきはにわたることならむ』」
魔力に神経を集中させ、感覚を研ぎ澄ませる。
耳だけを魔法士たちの方へ向けていると、どよめきの声が聞こえてきた。
反応を聞く限り今のところ順調なようだ。
炎で朱雀の幻影を、水で龍の幻影を、雷で虎の幻影を創り出す。
それから3体の生き物は絡まり合いながら一筋の線へとなり、やがて3色は一直線に交わった。
各々の光が高く高く天井まで上がり、その3色の光は弾け、今度は大きな御神木へ変化させた。
同時にただの床だった地面は花々や草が生い茂る草原へと変える。
神木の葉や地面の草同士が擦り合う音は優しい音であった。
けれど、私の魔法はまだ終わりではない。
「『花々が、月が、星が、日が、麗しく輝かば、定めて暗闇はあり。暗闇があればこそ光は生まれ、光があればこそ闇は生まるれ。闇がゆめゆめ悪しきものならずといふことを忘るべからず。闇を捨つべからず。かたみ慈しみ合ふことに光はよりいとど輝かむ。いかでか我が願ひに応へたまへ』」
唱えると、私の言ったもの以外が暗闇に包まれた。
けれど確かな輝きを見せる月と太陽のおかげで視界が完全に暗くなったわけではなかった。
それどころか、より幻想的で目に焼き付くような景色が広がった。
それまで太陽と月以外に強く光を発するものが無かったのが、上を見上げれば無数に輝きを放つ星の数々、下を見れば花でさえも光を発していた。
真っ暗にも関わらず上で闇を照らす太陽と、草原の向こうに見える湖の幻影に映る朧げでありながらも美しさを維持させている満月は、不思議なことに違和感を感じなかった。
誰もがその景色に見惚れた。
しばらくして魔法が消え、元の魔塔に戻ると、魔塔全体から大きな歓声と拍手が舞い降りた。
「凄すぎる…」
「あんなに綺麗な魔法どうやって…!」
「どうして5代属性と希少属性までも使えるんだ…?」
色んな感想があちこちから聞こえてくる中、一際目立った拍手の音が鳴り響いた。
「はっは、これはたまげた。すごい素質ですな。魔法帝国の皇女殿下、エステル殿」
「お褒めに預かり光栄です。…魔塔主様」
「……ほぉ?私が魔当主だと名乗った覚えはないが…」
「魔塔主様にも見えてると思いますが、私にも魔力の大きさと波が見えます。その波が安定している人ほど凄いお人です。魔塔の中でも、貴方が極めて魔力の波が少なかった。これで理由になりましたでしょうか」
魔塔主は目を見開いてそれから真剣な眼差しで告げた。
魔力というのは魔法に触れることをやめなかった熟練者だけが、波と大きさを見ることが出来る。
ただ属性までは分からないのが難点。
「お主の年齢は」
「十三です」
「………十三で魔力の波が見えるほど洗練された魔力を身に纏ってる魔法士はいなかった…。私でも二十を越えてから魔力の波を見るようになったと言うのに…一体どんな境遇で育ったのだ…?」
(あっ…、ここまで言うつもりではなかったのに。余計な詮索をされるのも好きじゃない。私がこの人たちに魔法を教えるのはこの国と命を生かしてくれた皇族のためだし…)
どう誤魔化そうかと考えていると、第二皇子から呟くように言った。
『…言わなくていい』
『はい……ありがとうございます。第二皇子殿下』
第二皇子に感謝しながら、私は余裕ある笑みを浮かべた。
「…私のことはどうでも良いのです。それよりも、私は皆さんの心が知りたいです。私に魔法を教わっても良いと言う方は挙手をしてはくださいませんか」
すると、1ヶ月前もこれを披露する前もずっと誰も学びたがらなかった魔法士たちが全員ではないものの、一斉に手を上げ始めた。
しかし、魔塔主は少し納得のいかない様子だ。
「…待ちなさい。お主の魔法を綺麗に見せる術と知識は認めよう。だが、まだ戦闘しているところを一度も見ていない。このままではどの程度の強さを誇るのか分からんだろう。そこでどうだ。私と手合わせをしないか。勝つことが出来れば、自ずと皆お主から魔法を学びたがるだろう」
「…分かりました。では訓練場で模擬戦をしましょう。勝利の条件を教えてください」
「ふむ、そうだな…魔法を相手の体に当てることが出来れば勝ちとしよう」
「分かりました。では皆さんも連れて移動しましょう」
瞬間、私は空間魔法でみんなを一斉にテレポートさせた。
魔塔主には鼻で笑われた。
言いたいことは分かる。
戦闘前にそんなに多くの魔力を消費しても良いのかと問いたいのだろう。
(ただ私も、伊達にずっと死にかけてきたわけじゃない。食べ物に飢え、人に飢え、感情に飢えていた。そんな私が唯一抗うために身に付けた魔法の実力を馬鹿にされるのは、あまりいい思いは湧かないよね)
「ここで良いですか?」
「ああ、良いだろう。では互いに位置に着こう」
私と魔塔主は少し離れて、それぞれ魔法を使う準備を始めた。
『本当に戦うのか…?叔父上は魔塔主だから当たり前だがかなり強いぞ』
『私からは攻撃するつもりはありません。するとしても撃たれた魔法を相殺する時くらいです』
『いや…それでは勝てないのでは…』
『負けるつもりもありませんが、勝つつもりも私にはありません』
『…?』
変わらず魔法で姿を隠したままの第二皇子とテレパシーで会話をする。
初めて会った時と比べると、大分お喋りになったのではないかと思う。
その事実と以前の様子を比べると、多少は信頼してもらえたように思う。
その事実を噛み締めていると、魔塔主は嘲笑を隠しもせず鼻にかけたような表情をした。
「そこの魔法士に審判をお願いしよう」
「分かりました。ではアメリアさん、よろしくお願いしますね」
守衛部のアメリアさんはかなり魔法士の中でも上位の強さを誇る人物だ。
この1ヶ月、例えどれだけ無視されようが耳に入る情報は聞き漏らさないよう細心の注意を払っていた。
特に名前は何度も聞く名前であればよく覚えていた。
アメリアさんは模擬戦を見る人たちに被害が及ばないよう広範囲に防御を張った。
「それでは…試合、開始です」
そして試合は始まった。
開始の合図と共に、私たちは同時に魔法を放った。
何の属性を使うのか分からなかった私は、どの属性にも対応出来る聖属性の魔力玉を放った。
対して魔塔主が放った属性は闇魔法。互いが互いの魔力玉を相殺し合いなかなか体に当たることが出来ない。
すると突如として、空から光の矢が豪速でこっちへ来た。私は慎重にバリアを張る。
(どうりで魔法士としてのレベルが他の魔法士と違うわけだ…)
「魔塔主様は、皇族だったのですね…」
「ああ、お見事だ。よく防いだな。かなり魔力を感じにくくしたのだが…」
「希代魔法を2属性も扱うなんて所業は皇族にしかなし得ませんから分かりやすいです。それに私も、伊達に13年生きてきたわけではありませんから」
私の存在を本当に消そうとする人間は山ほどいた。
牢屋に追いやるだけでは飽き足らず、弱い魔法士や暗殺者を寄越して私を殺そうとする。
牢の前に立つ見張りの衛兵は決まって何もしなかった。
まるで誰もいないかのように振る舞う衛兵は、衛兵としては最悪だったが、私にとっては都合が良かった。
衛兵を眠らせてから、魔法士や暗殺者を撃退して帰還させた。
もちろん敵襲への口止めは忘れずに。
衛兵は何故生きているのか不思議そうだったが、おそらく頭の中で夢だったのだと結論づけたのだろう。
いつものように衛兵は牢の前に立っていた。
いつだって自分の身は自分で守ってきた私だ。
そう簡単に魔法であろうが直接であろうが触れさせない。




