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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep7. プライド


「エステル…」


「…帝国の星にご挨拶申し上げます」


「挨拶は良い。…兄上から聞いた。魔法士に魔法のレベルを上げてもらうために君に向かわせてるのだと。君に与えられた課題も…」


「…!第二皇子殿下に私のことを知ってもらえてるとは、誠に光栄です」


 口から勝手に出てくるその決まり文句のような言葉は、まだ魔法帝国が存在していた時に散々言わされた言葉だった。

 感情が籠っていないと分かればすぐに鞭打ちだったので礼儀に関わる言葉は言われ慣れていた。


 だからなのか、どれだけ私の表情や感情が無くても、それは心からの言葉に聞こえるらしい。


 第二皇子も違和感は感じなかったようだ。

 ただ、どこか納得のいかない表情をしていた。

 


「…嫌じゃないのか?」


 おそらく、魔法を教えることに関して書かれているのだろう。


 なら、私の答えは一つだ。


「いいえ。どうせ救ってもらった命で、その恩が第二皇子殿下にあるのだとすれば、私はこの国と、解放してくださった殿下に恩を返していく所存です。これもまた、恩返しの一つだと思っております。【魔法士たちを強くさせる】。必ず成し遂げますので、もう少しだけお待ち頂くよう、第一皇子殿下にお伝えください」


 魔法を教える時間帯は十六時から十八時のニ時間。

 なのだが、現在の時間は十五時だ。

 一人でも多くの魔法士が説得によって心を動かせたらと思って早く行っているが結果は著しい。


「…俺も着いて行こう」


「えっ、ですが、殿下はお仕事もあるでしょうしお忙しいのでは…。無理をしてはお身体にさわります」


「お前は、俺に身体の心配をするのか?」


「っ!申し訳ありません。出過ぎた真似を致しました」


 彼にとっての地雷だったのだろうかと咄嗟に謝ると、我に帰ったかのように否定した。


「っ、違う、怒っているわけじゃない。少し驚いただけだ。それと、仕事はもう片付いている。無理もしていない。魔法士たちには気付かれないよう行くから、いつも通りにしろ」


「わ、分かりました…」


 結局謎の第二皇子の圧に負け、一緒に着いてきてもらうことになった。


 一緒にいるところを誰かに見られてしまうのはまずい、というか、良からぬ噂…主に、エコ贔屓しているのではないかと、勘違いされてしまうかもしれないので、第二皇子に魔法をかけることにした。


「これは?」


『周りから姿は見えず、今はテレパシーで会話している状態です。私に話しかけたい時にほんの少し魔力を送ってくだされば会話出来ますよ』


『なるほど、それはすごいな』


 さっそく魔力を送ってきたみたいだ。


 これで一緒に行動することに問題が無くなったことで、いつもならただ長い廊下を歩くだけだったのが少しだけ楽しい時間となった。


『あ、第一皇子殿下、少しお聞きしたいことがあるのですが』


『なんだ?』


『第二皇子殿下は、第一皇子殿下のことをかなりお慕いしていますよね』


『何故そう思う…?』


 1ヶ月ぶりに話すと言うのに、しかも最後に見たのは、ぶっきらぼうで、まだ少し冷たいような彼であったはずなのに、今はほのぼのとした会話をしていることにどこか不思議さを感じる。


 初めて会った時の氷点下の瞳ではなく、どこか温かさを感じる眼をしているような気がした。


『私が陛下の御前まで来た時、隣で少しだけ第二皇子殿下のお顔が見えたのですが、どこか優しいお顔をしていた気がして』


『…本当に凄いな…。そうだな。俺も皇族としての教育は受けてきたが、兄の方が全て上だった。そんな兄を尊敬もしているし、嫉妬もしているかもしれない』


 第二皇子から聞く初めての心からの言葉に、少し憂いの表情が見えた気がした。


『それでもきっと、第二皇子殿下は第一皇子殿下のことを嫌っていないことは伝わります。それと、立場上比べてしまうのは仕方がありませんが、第二皇子殿下がなさって来た努力とその過程は、唯一無二だと思いますよ』


『…!そうだな…。兄上のことは嫌いでもない』


『私、第二皇子殿下の、表情で素直に感情を表現してくださるところ、とても落ち着くんです。貴族としては分かりませんが、私は、一緒にいて安心します』


(主に()()()()()ですけど)


『…そうか』


 こうして、何気ない会話をしながら、あっという間に魔塔に着いた。

 と、いうことで。


 第二皇子に見られながら私は今日も日課となっている魔法士たちに話しかけた。


「はぁ、また来たのか?良い加減諦めてくれ。敵国の魔法なんざ知りたくないね」


 受付の魔法士に開口一番にこのセリフを言われるのももう慣れた。


(使う魔法はみんな同じなんだけどなぁ…)


 ちなみに、第二皇子は周りから察知されないよう魔法をかけているので誰からも認知されていない。


 誰の耳元でどれだけ話をしようが周りの魔法士たちには全く見えないし聞こえない。


『…いつもこんな感じなのか……?』


『そうです。もう決まり文句のようなものですね』


 テレパシーで互いに会話をしていると、いつも一番初めに行く場所へ着いた。


「こんにちは。今日はどんな研究をしていらっしゃるのですか?」


「………」

「………」

「………」


「あー、なるほど。確かに水魔法の応用で平民の方にも冷たい水が飲めるようになれば、もっとこの地が豊かになりますよね。ではこんな案はどうでしょう?」


 魔塔の開発部に顔を出して今日も勝手に見て勝手に色んな案を話す。

 開発部の魔法士も他の部の魔法士もみんな無視だが、私の言った意見が気に入ればたまに採用して取り入れてくれてることを、私は知っている。


 非道になりきれないのも、この国の良さだろう。


「あ、思い出しました。今日の17時から見せたいものがあるので、良ければエントランスに顔を覗かせてください。それでは」


 案をいくつか提案した後、颯爽と去ると、第二皇子が話をしだした。


『おい…まさかこんな状況がずっと続いてるんじゃないよな…』


 (まさか、な?)と言った表情で見てくるが、そのまさかである。


『ずっとですよ?』


『……すまない』


『?、第二皇子殿下が謝られることありません。私は魔法帝国の出なので仕方ありませんよ』


 次に会話しながらやってきた場所は研究部。


 魔法をいくつ同時に放てるのか。

 どの魔法とどの魔法を組み合わせれば幅広く応用出来るのかなど、色々なことを研究している部だ。


「こんにちは。今日はどんな魔法の研究をしていらっしゃるのですか?」


「………」

「………」

「………」


 ここまで来ればもう慣れである。


「ふむふむ、なるほど。【5代属性以外の魔法はどうやって派生していったのか】【治癒魔法はどうすれば魔力の消費を抑えて簡単に使えるようになるのか】とはまた難しいお題ですね。私の方でもいくつか考察を立てておきましょう。あ、それと今日の17時に見せたいものがあるので、良ければ顔を覗かせてください。それでは」


 第二皇子は呆れたのか、何も言わなくなっていた。



 それはさておき、ラストを飾るのが守ることを専門にした守衛部と戦うことを専門にした戦闘部、治癒を専門にした治療部の3つ。


 一番レベルを上げなければいけないのはこの部だろう。

 何せ、いざ戦うとなった時に前衛に出るのは主にこの3つの部なのだから。


 しかしこの部は自分の部に誇りを持ってしている人が多いので部外者である私が何を言っても自分のやり方を貫き通す。


 今のままだと何度私が魔塔を訪れたところで意味はないだろう。


「きっと今日も何を言っても無視だと思うので簡潔に言いますね。今日の17時から見せたいものがありますので【必ず】顔を出してくださいね」


 全ての部に声をかけ、本当に見に来るかは賭けだったけど。

 思いの外、多くの魔法士たちが集まってくれた。


『今から何をするつもりだ?』


『今から始めますので第二皇子殿下も良ければご一緒に楽しんでください』


 隣にいる第二皇子には説明するより見てもらった方が早いと思ったので敢えて説明せずに始めた。


「本日はお集まり頂きありがとうございます。どうか皆さんにとって少しでも魔法を綺麗だ、カッコいいものだと思ってもらえるよう、そして私と一緒に魔法を学びたいと思ってもらえるように尽力しますので最後まで見て頂けると幸いです。それでは」


 私はみんなを視線から外して目を瞑り魔力を自分の中心に集めた。






 そして私は、言霊の魔法を使う。






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