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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep6. 課題と処刑


「どうぞお入りください。第一皇子殿下」


 ゆっくり扉が開く音がすると、第一皇子は薄く笑みを浮かべながら部屋へ入ってきた。


 その表情はどこか楽しそうで、私を観察する瞳のように感じられた。


「凄いや。ドア越しに私が第一皇子だなんて、よく分かったね」


「私の存在を知っている人自体が少ないので」


「あー、なるほどね。ところで、どうして私がここに来たか分かる?」


 第一皇子は第二皇子や他の人間のように魔力を立てない。

 そのため、第一皇子がどんな目的で来たのか探りようがなかった。


 魔法を使ってもいいけど、使った瞬間にバレてしまうだろうし、信用も同時に失ってしまうかもしれない。


(今は様子見の方が良さそう)


「いいえ、裁判の判決は1日で決まらないと思いますし、私にはその案件以外にここへ来る理由が見当たりません」


「やっぱり君は聡いね。その通りだよ。今日ここへ来たのは裁判の結果を伝えるためじゃない。少し私について来てくれないかな。内容は歩きながら説明するよ」


「…分かりました」


「エステル…」


「エミリー、大丈夫ですから、そんなに心配しないでください」


 エミリーは何を根拠にと思っているだろうか。


 だが根拠はある。

 これは私の経験談だ。


 私のことを殺したい、誰かを殺してやりたいと思っている人は、大抵がその人を前にすると体内にある魔力が乱れる。

 

 彼にはそれがないから、おそらくだけど私のことを今すぐにどうこうする気はないはずだ。

 けれどこの人は魔力が揺らがないから油断をしてはいけない。


 仮に何かをされても、対応出来るようにいつでも言霊の魔法を唱えられるようにしておくのがベストだろう。


「じゃあ行こうか」


「はい」


 皇宮の廊下はシャンデリアや豪華な装飾が使われていていつ見てもとても煌びやか。

 それでいて飾りの主張が激しいわけでもないので目が痛くならないのが美点。


 第一皇子は私の歩幅に合わせて歩いてくれているのか、男性にしては少しゆっくりとしたスピードだった。


 そうして連れてこられた場所は、見た目や構造は違うものの、明らかに私のあまり良い思い出はない場所だった。


「あの…ここは…」


「ああ、うん。魔塔だよ。君にはここでしばらくの間働いてもらうから」


「働く…?」


「うん。それは魔塔のみんなも集めて説明しようか」


 受付らしき場所の前でひそひそと会話をしてから、ついに受付の前に立つと、受付の人はぎょっとした顔をした。


「第一皇子殿下…!?」


「うん。ちょっとみんなに言いたいことがあるから、集合させてくれるかな」


「はい!今すぐに」


 慌てた様子で魔塔にいる魔法士に急ぎ報告をし始めた。

 それから5分もしないうちに魔法士たちが集まったことに驚きを隠せなかった。


 どうやらトユク帝国の魔法士たちは団結力があるらしい。


 と、ここで第一皇子が口を開いた。


「集まってくれてありがとう。みんなどうして集めたか気になるよね。理由は私の隣にいる少女だよ」


 ニコリと貼り付けたような笑みを浮かべながら第一皇子が言うと、魔法士たちはザワザワとし始めた。


 トユク帝国には、【魔法士】と【魔法師】がいることをエミリーから聞いた。


 【魔法士】は魔法を習っている途中で、簡単に言うと見習いとか、そんなイメージ。

 反対に【魔法師】は、魔法を教える側に回ったり、圧倒的に使える魔法の数が多く応用の幅が聞く人たちのことを差すみたい。



「先に言っておくと、この少女は魔法帝国に囚われていた皇女殿下。境遇は省くけど、まあそれは本人から聞いてね。少なくとも良い環境じゃなかったから」



 私は第一皇子の言葉を聞いて顔には出さないものの内心驚いた。


 私の体調と引き換えに多少の無理をした甲斐はあったということだ。


 記憶の共有や人に介する魔法は酷く体力や魔力の消耗が激しい。

 それでも私が多少の頭痛で済んだのは魔法の素質と魔力量が多かったからだろう。


 第一皇子は掴めない人ではあるものの、悪い人ではなかったみたい。


「それで本題だけど、君たち魔法士に魔法のレベルをあげてもらいたいと思ってる。それを明日からこの少女に手伝ってもらう。時間は1日2時間。いいね?」


 ここからは私も知らないので同時に聞かされたのだが、自分より動揺している人間がいると、自分は落ち着けるというのはどうやら本当なようだ。


 少しざわつく程度だったのが一気に声量を増して、今度は確かな反発へと変わった。


「何故敵国の幼き()皇女に教えを乞わなければならないのでしょうか?私たちの実力では不満でしょうか」


 1人の60代くらいの白髪頭で魔法の杖らしき大きな杖を持っている男性は第一皇子に聞いた。


 質問は確かに第一皇子へ向けたものだった。

 しかし、目線は睨みを聞かせながらこちらを見ていた。


 その目線も、魔法帝国で嫌と言うほど向けられた。 今更のことなので動揺すらしなかった。


「ふむ。納得がいかないのですね。ならこうしましょう。参加不参加は君たち【魔法士の自由】だ」


(えっ………)


 嫌な言葉が聞こえたような気がする。


 やめてほしいと願う私の思いに反して、第一皇子は私に枷という枷を足していく。


「そこでエステル。君に課題だ。ここにいる魔法士みんなに君から魔法を習いたいと思わせるんだ。出来なかったら死刑だよ。価値のない君を生かす意味はないからね」


 笑顔で平然と言っている第一皇子の言葉は一見優しいもののように聞こえる。

 言っていることはとても面倒くさく、私からしたらどうでも良い事実を並べているだけのことなのに。


 これは【課題】と言いながらも、脅しという名の命令だ。


「分かりました。尽力いたします」


 その次の日から私のとても面倒くさく憂鬱な日々が始まった。


 エミリーは私の身体も万全ではないのだからもう少し休んでからにしてはどうかと心配してくれた。

 けれど、これは頼まれたことだし、第二皇子に救ってもらった命はどうせならこの国の人たちのために使いたくなった。


 魔法の使いすぎで死のうが過労で倒れようが、私自身、私のことに興味がなかった。


「今日も行くのですか…?」


「はい。全く進捗はありませんけど、来ないよりはマシかなと。それに、今日は少し思考を変えてみようと思っているので」


「…いずれにせよ、少し休憩なされては…」


「いいえ。今休憩したら『こんなものか』ってすぐ処刑されちゃうと思います。私に情を持ってくれてるエミリーのためにも、今はまだ死ねません」


「エステル…ご無理はなさらないでください…」


 エミリーの心配は気持ちだけもらっておくことにした。

 『気持ちだけ』と言っても、それはとても大きい。

 おかげで今日の憂鬱な時間も乗り切れそうだ。


 第一皇子と魔塔に行った次の日から魔塔に行くまでの道だけ歩くことを許可された。


 かれこれ1ヶ月魔法の練習をしようと誘っているけど(なび)く気配は微塵もない。


 ほんの少しいつもより身体が重たいように感じたので、普段よりもゆっくりな足運びになっていた。


 魔塔に行くまでの廊下をゆったりと歩く中、1ヶ月ぶりに顔を見る人物がいた。




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