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ep50.代償と



 私がメイハムさんやアイザック様に伝えられていた内容は、【内臓の傷が治りきっていないから、治癒魔法と薬による治療を行う】という内容だった。


 けれど、内臓の傷なら、私は痛みをもう既に知っていた。


 魔法帝国の牢で過ごして、刺客を寄越されたとき、内臓が傷ついたことはいくらでもあった。

 治るまでに時間が必要なことも知っている。


 ただ私の中では、何回も傷付いていくうちに、喉の奥から声が出るほどの痛みではなくなっていた。

 もちろん初めは、痛みに悶えて、苦しんでいた時もあった。


 声を張り上げて、夜に眠れないほどの痛さに襲われることもあった。


 でもそれも、全部昔のこと。


 今は大抵の痛みに声を出すこともなければ、気付けないこともある。

 だからこその今だと思うけど…。

 

 だから、きっとそうなのだろうと、思っていた。


 私は普通の人が扱える魔法を優に超えている。

 私が使う言霊の魔法は、常人の魔法士が起こせる事象と離れているものであるほど代償が大きくなる。



 私が今回起こした言霊の魔法は、呪術をかけた本人が死ぬか、自らが解くしか方法はない。

 

 王女に解く意思は無かったから仕方なかったとはいえ、魔法では到底解除不可能なものを解除したのだから、当然の結果ではあった。


 むしろ生きていることが、本当に奇跡だ。


「なんとなくですが、やっぱりそうなのですね」


「…エステルの魔法には、代償が来るだろう…?その代償のうちの一つが魔力回路が壊れることだと思う。エステルは…辛くはないのか?」


 アイザック様は自分を追い詰めるような表情をする。

 私が決めたことだから、あまり気負ってほしくはないけど、彼の性格上仕方ないのかもしれない。


「大丈夫です。絶対治らないわけではありませんから。…もし治らなかったら、私は捨てられますか?」


「なっ…!まさか、そんなことするわけないだろう」


「だったら大丈夫です。怖くもないですし辛くもありません。愛する人も家族も側にいてくれるので」


 私が言うと、幾分か辛そうな表情が和らいだ。

 内臓の傷は薬で治している最中。

 魔力回路は自分の魔力か同属性の魔力を持ってでしか治せないため、時間は多くかかるだろう。


 それでも私は、魔法が使えなくなることよりも、愛してる人や家族が離れてしまうことの方が余程怖い。

 だから今こうして、アイザック様が『そんなことするわけない』と言ってくれたことが嬉しかった。



 私は握られていない方の手でアイザック様の頭を優しく撫でた。

 すると、少し俯きがちだったアイザック様の瞳は私を写した。


 綺麗なラピスラズリの色をした青は、愛してるという事実だけで私の好きな色を帯びているような気がしてならないのだ。


 そんな瞳の色をした人は、優しい笑みを浮かべた。


「絶対に離れない。もしエステルが魔法を使えないことによって何か言ってくる輩がいるなら俺がどうとでもしてやる」


「いえ、他貴族からすると、妥当なことですよ」


 アイザック様はつい数秒前まで浮かべていた微笑みを消して、不機嫌そうな顔へと表情を変えた。


 


「そんなことは万が一にもない。今やエステルはこの国の英雄だぞ?」


「えっ…、何故でしょう…私が何かした覚えは…」


「何言ってる?この国の流行病の治療法を見つけて、皇后を治療し、俺の致命傷も治して生かし、更には国悪影響を与えようとするイリーガル王国からも守って救ってくれたんだぞ?これ以上に英雄と呼ばれる理由などないだろう」

 

 知らぬ間にそんなことになっていたとはつゆ知らず。


 確かに初めは価値を証明するために働いてたけど、心安らぐ場所となってからはこの人たちのために、この人たちが守る国のために、何かしたいと思うようになったことが多かった。



それでも、私が英雄だと讃えられる言われはないと思っていると、私の気持ちを見透かしたのか、とある提案をしてきた。


「…そうだな……、メイハムから外に出る許可を貰ったら、少し外に出てみるか。出ると言っても馬車から王都の様子を見るだけだが…国民も俺たちも、みんなエステルが目を覚ますことをずっと望んでいたんだ。…本当に生きてくれて良かった……」



(アイザック様は私がみんなを救った英雄だと言うけれど…)



「……本当に救われたのは、私の方ですよ」



「?、何か言ったか?」


「いえ、何も。では、それまでに私も治療に専念しますね」


「ああ、そうしてくれ。休むことはエステルの今の仕事だ。じゃあ、俺は訓練に行ってくるよ。また夜に来るな」


「はい、分かりました」


 アイザック様が部屋を出ると、私はエミリーに持ってきてもらっていた幾つかの本を手に取り、読み始めた。


◇◇◇

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