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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep4. 皇女の魔法

 ここはトユク帝国という名前の国であることを、エミリーに教えてもらった私は、今日も朝から温かいパン粥と、コンソメスープとを口に入れていた。


 エミリー曰く、私のお腹の調子が悪いので、固形のものはあまり食べてはいけないそう。


「すみません、少しずつ食事も美味しいものに変えていきましょうね」


「…はい。ですが、今のままで構いません。1日に3食頂けてることがありがたいので」


 トユク帝国はいい場所だった。


 貴族のおじさんやおばさんたちの煩い声が祖国よりもずっと少ない。

 遊んでばかりじゃない貴族なのだと尊敬の念を抱いた。


 1週間もいれば分かる。

 ここは魔法が使えないからと言って蔑み貶し、卑しいと言う人間はいないのだと。


 そして不安になる。

私はこんな扱いを受けてもいい存在ではない。


 それが例え()()()使()()()としても、少なくともこの国で衣食住を保障されるほど価値のある人間ではないことは明らかだった。


 エミリーが持ってきてくれたお粥とコンソメスープを食べていると、ノックが鳴った。


「今、入っても大丈夫か」


 聞き覚えのある声がドアの奥から聞こえてきて、そこからは以前のような殺意は込もっていなかった。


「エステル、どういたしますか?」


「私は大丈夫です。どうぞお入りくださいませ」


「ああ、失礼する」


 入ってきた彼は初めて見た血濡れた姿とは違い、白で統一された正装らしき服装だった。


「突然ですまないが、この後裁判が開かれる。朝食を済ませたら着いてきてくれ」


「第二皇子殿下…!それはあまりに急すぎでは「エミリー」」


 エミリーの言葉を遮ったのは、裁判の議題とされるであろう私だった。


 これでエミリーが彼に歯向かっていなくなるのは私としてもほんの少し寂しくなる。

 せっかく初めて私と向き合って話してくれた人間が私のために放った言葉でいなくなるのは嫌だった。


「私は大丈夫です。すぐ向かいましょう」


「…お前、俺が第二皇子だと聞いて驚かないのか…」


「ある程度は予想していました。皇宮に連れて行くことが出来て私の生死を決めるほどの権力者と言えば皇族くらいです」


「…そうか。食べないのなら行くぞ」


「はい」


 こうして第二皇子に連れられ私が向かった場所は玉座の間らしき場所だった。


 そこには玉座に座っている皇帝と皇后、そして彼が第二皇子と言っていたことから、目の前にいるのは第一皇子だと推測出来た。


 部屋を出る際に手枷をかけられ、ここから逃げ出す術は一つもない。

 そもそも逃げ出すつもりも毛頭ないので手枷も好きにつけてもらって構わないけど。


 彼は私の半歩斜め前に出ている。


「其方が魔法帝国の第四皇女。エステル・グローヴナーだな?」


「はい。トユク帝国の太陽と月、その尊い御子息にご挨拶申し上げます。相応しくない姿でのご拝観、何卒お許し頂きたく存じます」


「良い。面を上げよ」


 顔を上げて皇帝陛下の方を見ると品定めをするような瞳で、見覚えのある目でこちらを見ていた。


 今回の裁判で認められなければ私は死ぬし、認められれば価値がある限り生かされるのだろう。


 けど、どうでも良かった。

 私の死に悲しむ人間など元々誰もいないのだから。 私自身も悲しくはない。


 皇帝陛下の品定めをする目は、まだ地上にいた頃に、幼い頃からずっと向けられていた視線だ。


「今から其方に質問をする。嘘をついた場合はここで切る。死にたくないのなら嘘偽りなく答えよ」


(どうだろ…、死にたいか生きたいかなんて分かんないのに、死にたくないならなんて言われても…まあ、嘘をつく理由もないよね…)


「…分かりました」


「ふむ…良い心がけだ。ではまず一つ目だ。お前の出生とこれまでのことを事細かく話せ」


「分かりました。私は……」


 こうして私が覚えている限り、私自身のことについて話した。


 後言っていないこと…。


 それを言わなくとも、多分これは私しか知らないことなので言う必要もないだろう。


 だからこれは、エミリーのためだ。

 私に優しくしてくれたエミリーが少しでもこの国で良い扱いを受けるように。


 エミリーが私の素性を明らかにしようと動いていることは知っている。

 だから、少しでもエミリーを立てるように話す。


「後もう一つ、きっとどれだけ調べても出てこない私の秘密があります」


「それを其方が自ら言ってもいいのか?」


「はい。後々バレて殺されるのは後味が悪いので。それと、エミリーにも申し訳が立ちません」


「ほう…?もう侍女に情が湧いたか」


「情…ですか。彼女に私のせいで辛い目にあってほしくないということが情なのであれば、そうなのでしょう」


「…それで、其方の秘密と言うのは?」


 どこか品定めをする目が緩んだような瞳で、純粋に気になるような視線を向けて聞いてきた。


 私も私で、初めに来た時より遥かにリラックスして言うことが出来た。

 これで死刑を言い渡されようが、後悔は何一つなかった。


「先程私は魔法帝国で魔法が使えない人間としての扱いを受けてきましたが、私は魔法を扱えます」


「「「「…__っ!!?」」」」



 この事実には周りにいる皇族と国を成り立たせる主要貴族数人皆が驚きを隠せなかったようだ。


 同時に、周りの表情を見て確信出来た。

 私のことについては予め調べられてあったようだ。 だから私のことについて何を話しても驚きはしなかった。


 全てに納得がいく。


 辻褄も合う。


 大方エミリーも【影】の一員で確定だろう。


 影の存在は私も皇族のため、知っていて当然なことだった。

 影という存在はどの国にも共通して存在する、皇族の右腕のようだ。


「何故魔法が扱えない人間として認定された?」


「私にも分かりかねます。おそらく魔塔で調べた魔法師が新人だったのか、それとも私の魔法属性が特殊だったからのどちらかかと」


「魔法の属性は」


「無属性です」


「無属性…?」


 聞いたことがない属性に、また皇帝たちの品定めのような瞳が戻ってきた。


 妥当な反応だと思う。

 私も無属性なんて聞いたことがない。

 無属性…どの属性にも属さない異様なもの。

 警戒するのも無理はなかった。


「はい。そして私の扱える魔法は言霊の魔法です」


「詳しく話せ」


「話すよりも見せた方が早いかと。…そうですね。では、先話した私の過去の記憶を少しだけ皆様に共有します。そうすれば信じていただけますでしょうか」


「…信じよう」


「分かりました。では、皆さんは私の魔力を拒否しないようよろしくお願いします」


「分かった」


「『エステルの名におきて命ず。我が思ひ出を指すほどなる人に俱にせむ。我が願ひに応へたまへ』」


 真っ直ぐ立ったまま目を瞑り言葉を唱える。

 ただ言葉を唱えるだけで叶えることは出来ない。


 適切な魔力、皆に記憶を見せたい願いと、自分なら見せることが出来るという想像力など、色々なことが合わさり魔法は初めて成功する。


 集中していると、言葉に魔力が籠る気が伝わる。


 これが言霊だ。


 この言霊を指定する人間の体を包み込むイメージで放つ。


 そうして…


「……どう、でしょうか…?成功しているかは本人に聞かなければ分かりませんので、ご返答をお願いします。失敗していればもう一度やり直します」


「…………いや、共有出来ている……。ご苦労だった。部屋に戻ってアイザックが向かうまで待っていてくれ」


「…?アイザック…というのは…」


「俺の名前だ。…部屋まで送ろう」


「…!かしこまりました。第二皇子殿下、ありがとうございます」


 一度お辞儀をして玉座の間から出ると、一気に足の力が抜けそうになった。

 知らないうちに緊張していたのかもしれない。


「!、大丈夫か…?」


「…大丈夫です。お気になさらないでください」


「………そうか…」


 どこかしょんぼりしたような表情を見せながら、部屋まで送ってくれた。


「また結果が決まった時に来る。……もっと食べろ」


「…?はい。仰せのままに」


「…!っ……」


 彼は傷ついたような表情をして扉を閉めた。

 瞬間、私は床に突っ伏した。

 これは皇族の人たちに言わなかったことだ。


 言ったとしても利益をもたらさないことだから言わなくても良いと判断した。


 私の言霊の魔法は強力な魔法だ。

 故に代償もある。


 使う魔法が五代属性で実現出来ないものであればあるほど、日常から大きくかけ離れるほど、反動が大きくなる。


 例えば、水や火などの五代属性の魔法を生み出すことはこの世界では簡単なことなので、私も重い代償なく魔力を消費するだけに止めることが出来る。


 ただし、今回のような私にしか出来ないことをする場合、その代償は比較的に跳ね上がる。


 高熱、腹痛、頭痛、使う魔法によって代償は様々だ。


 今回の代償はまだマシな方だった。

 【重い頭痛】これはまだ軽度のもの。


 これが重症になると魔力回路が破裂して致命傷になる。

 それほどに私の魔法は強力だが代償も大きい。


 何故私自身が、重い代償があることを知っているのかは明白だろう。

 私がその重い代償を魔法を使って受けたことがあるからだ。

 本当に死を覚悟した瞬間だった。


 高熱に身体の節々が痛み、流石にあの時は医者を呼ばれた。

 ただ治療も何もかも全て地下牢で行っていたけど。


 今は木で出来ている冷たい床が心地良いとさえ感じる。


「エス…、テル…?」

 

(しまっ、た…。忘れてた…。そこにいたんだ…)


「…っ、大丈夫です。少し、冷たい床に身体を預けたくなっただけで…。だから…「エステル」」


「…っ!」


「無理しないでください。殿下方には内緒にしてほしいのですよね」


「…!はい…すみ、ません。明日には回復してます、から」


 エミリーは首をフリフリと横に振った。


「ゆっくり休んでください。今はまだまだ身体が弱っている状態なのですから」


 エミリーはそうやって私を甘やかそうとしてくれる。


 でも、私はそんな立場にはない。


 これから沢山この国のために動かないといけない、もしくは死ぬかもしれない中で、誰かの温もりを知るなんて嫌だ。


「いえ。本当に大丈夫です。…エミリーにも言いますが、私は魔法が使えます。それと、これはほんの少し疲れが出ただけです。なので翌日にはすぐに治りますから、だからどうか、皇族の方々には…」


「エステル、大丈夫。大丈夫ですよ。約束です。誰にも言いません。安心して今は眠ってください」


「…あり、がとう。ございます…」


 布団に運ばれた私は、その記憶を最後に私の意識は暗闇の中へ落ちていった。



5/8日はここまでです!

気に入って頂けたら是非是非続きもお楽しみください

1日に2話ずつ、朝夜6時に投稿予定です m(_ _)m

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