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ep48.出会った時から



 まだ目覚めたばかりの私は無理をするわけにもいかず、数日はまだベッドに監禁の状態となった。


 そんな状態で何日か過ごし、食事を少しずつ食べられる量が増えてきたある日、お母様と話をした時からずっと気になっていた人を部屋に呼んだ。


 その人は、ベッドのすぐ側にある一人掛けの椅子に座っている。


「まさか、どこか痛みますか?」


 心の底から心配そうに聞いてくれるこの人は、医者が向ける目ともう一つ、別のものが、ずっとあった。


 あっちの世界でお母様と会った時、確信した。


「いえ、メイハムさんが処方してくださった薬のおかげで、今は大丈夫です。それより、確認したいことがあるのです」


「なんでしょうか?」


「メイハムさんは、私のお母様の兄、もしくは、弟にあたる方ですか…?」


「…っ!?……何故急に…どうして、そう思われたのです?」

 

 始めて疑問に感じたのは、私に対して初対面から優しいメイハムさんの態度だった。

 みんな魔法帝国から来た人間だからと軽蔑している中、メイハムさんだけは、私に優しく接してくれた。


 しかしこれだけだと、全く気付かなかっただろう。


 ただただ優しいお医者様だったのかもしれない。


 他に似ていたことと言えば、私と同じブロンドベージュの髪色くらい。


 瞳の色は、私は魔法帝国の皇帝の藤色と、お母様の翡翠色の両方から色を取った水浅葱色で、メイハムさんは翡翠色。


 他は、私も自分の顔をまじまじと見るわけではなかったので、あまり分からなかった。


「実は…、眠っている間、あの世とこの世の狭間のような場所で、私のお母様に会いました…」


「えっ……」


「お母様の瞳と髪色、メイハムさんの瞳と髪色、全く同じなんです。顔立ちも、よく似ていらっしゃいます。偶然にしては、同じところが多すぎると思いませんか?」


「…ですがそれは、仮説に過ぎませんよね?私はただの…「では」」


 私はメイハムさんの言葉を遮って、核心を突くための言葉を発する。


「あなたの姓を教えてください。メイハムさん」


 メイハムさんは自分を名乗る時、姓を言わずに下の名前だけで済ませていた。

 特に教えられなかったからといって困るような事でもなかったため聞かないでおいた。


 しかし、今回ばかりはそうはいかない。

 事実を明らかにしたいのだ。


 私は、お母様の姓を知っているから。



(もし、メイハムさんがお母様の血縁者なら、私は謝らなければいけないから…)



 私の真実を知りたい思いが伝わったのか、メイハムさんは切なげな表情で、諦めたような顔をした。


「……メイハム・ヴィリアーズ…これが、私の名前です。第二皇子妃殿下」


「ぁ…」


 こんなに近くに、血が繋がっている、お母様の大事な家族がいたのだ。


 どうして、気が付かなかったのだろう。

 今目の前にいる人は、ずっと私の身体を案じてくれていたのに。



「…レクシー・ヴィリアーズ……お母様の、お名前ですよね…?」


 私の記憶が間違っていなければ、乳母が私に与えた情報が正しければ、お母様の名前は【レクシー】だ。

 

 私の問いに、メイハムさんは、涙を堪えるかのように目を細め、ゆっくりと頷いた。



「レクシーは、私の妹です。エステル様を見た時に、すぐに分かりました。エステル様は、レクシーが産んだ。この子は、レクシーの、私にとっても、最後の宝なのかもしれないと、そう思いました」


(私が…宝…?どうして?)


「私を産んで、お母様は亡くなってしまったのですよ?なのにどうして、メイハムさんが宝だと思うのですか…?私が、お母様を殺したようなものなのに…」


 メイハムさんの顔が見れなかった。


 どんな顔で、今私の方を見ているのだろうか。

 どんな言葉を、発するのだろうか。



 まだ牢に入る前は、魔法帝国の貴族たちに。

 牢に入ってからは、日々牢の番をサボる衛兵たちに、散々言われてきた。



 『魔法をまともに扱うことすら出来ない【出来損ない】のために皇帝陛下の愛人の一人が亡くなった』


『名前にそぐわない【欠陥品】』


『他人の命を落とす【忌むべき】拙劣な人間』



 数え上げればキリがない。

 私の記憶力はおかしいのか、一度見聞きしたことは大抵忘れることがない。


 薄れる記憶はあるものの、それでも大まかな部分は覚えている。


 メイハムさんは、きっとお母様が私のせいで亡くなってしまったことを知っているはずだ。


 だから、罵倒しても罵ってもいいはずなのに、メイハムさんから一向に言葉が返ってこない。

 

だからと言って顔を上げる勇気もない。


 何故こんなにも怖く感じるのか、理由は明白だった。

 また乳母のように、『私が忌むべき人間』だと分かった途端に、ずっと仲良くしてくれていた人が豹変することを、恐れてしまっている。


 時間的にはまだあまり経っていない。

 にも関わらず、沈黙のたった数秒の時間が、何十秒にも何分にも感じられる。


 怖いという思いを、かけられている布団をぎゅっと握ることによってどうにか不安を消そうと試みていると、メイハムさんは私の手の上に自分の手を重ねた。


 そして、優しい、気遣った声で、メイハムさんは言う。


「エステル様を産む選択をしたのはレクシーです。それに元々、レクシーは身体が弱かったのです。ですから、自分か新しい命、どちらかを選ばなければいけないことは、きっとレクシーも分かっていたと思いますよ。…エステル様、お顔を見せて頂けますか?」


 メイハムさんに言われて、私は恐る恐る顔を上げる。

 するとそこには、私が想像していたものとは違う、陽だまりのような穏やかさを持つメイハムさんがいた。


 軽蔑の目も、忌まわしそうな態度もない。

 話す前と変わらない、いつものメイハムさんだ。


 その様子に、私は酷く安堵した。



 嫌われるのが怖くなるほどに、私はここが、この人ことも、魔法帝国のみんなが、大好きなんだ。




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