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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第三章/愛を知るまで
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ep42.温かな手《トリステッツァ視点》


「大丈夫です。必ず貴方を救います。どうか今だけは、私を信じて、私の魔力を受け入れてください」


 今からわたくしに何かするのか。

 エステル様の魔力を受け入れた先に何があるのか。 分からないことがとてつもない恐怖に感じます。


 わたくしが暴言を吐くと、エステル様はより強く、わたくしを抱きしめました。

 まるで、わたくしの吐く暴言が、全て恐怖によるものだと分かっているかのように。






 そしてエステル様は、言いました………。







「ウィルは、あなたを救うために、イリーガル王国という、地獄から、救うために、私に、情報をくれたのです。そんな、ウィルのためにも、あなたが、呪いで死ぬなんてこと、あってはいけないでしょう…」




(えっ………?ウィルは、わたくしを裏切ったわけではなかったの?寧ろ、わたくしを救うために…?だとしたら、わたくしは、救ってくれようとしたウィルにとんでもないことを…!)



 エステル様に言われてウィルの顔を見ると、ウィルは、涙を流していました。


 今まで、ウィルの涙はこれまで一度たりとも見たことはありませんでした。

 それどころかウィルは、いつもわたくしの泣き言を、何も言わずに聞いてくれる存在でした。


 そんなウィルが今、涙を流しているなんて、とても、信じられる光景ではありませんでした。

 動揺しているわたくしに、エステル様は更に追い討ちをかけてきます。


「もう、頑張らなくても…良いですよ。善意を、受け入れること、最初はとても、難しいですよね。詳しくは言えません、が、私も、そうでしたから」

 

 声にならない声が、漏れました。


 どうして分からなかったのでしょう。


 もしエステル様が、温かい家族に囲まれて育った皇女であれば、こんな危険な場所に、自ら飛び込んだりはしないことを…。


 普通に、幸せに生きてきた人は、善意を受け取ることが怖いと思うことも、ないということを。

 


 会う場所が違えば、わたくしたちは同じ気持ちを共有出来る、支え合える存在となれていたのかもしれない。

 いや寧ろ、わたくしが勝手な嫉妬心や敵対心を向けなければ、エステル様とは良い関係でいられたでしょう。


 そんな機会を、わたくしは自ら台無しにしました。 なのに、今この場で殺していいはずのわたくしに、どうして優しい目を向けるのでしょうか。


「ですが、初めて、人の優しさを受け取った時、優しさを…与えてくれた、人の方が…嬉しそうな顔を、していたのです。だから、あなたも、人の優しさに甘えても、良いのですよ」



 その言葉が、わたくしの心の奥底の、扉の鍵となりました。

 暗い感情という部屋から出てきたわたくしは、エステル様の手を、取ってしまったのです。


 初めて、頼ることを許されたような気分でした。


 すると、エステル様はとても優し気な声で、「ありがとう」と言うのです。


(訳が分かりません。それはこちらのセリフです。なのに、どうして貴女が言うのですか…!)


 そう思っていた時、身体の中にあった呪術による縛りが、急に解け始めているのを感じました。


「あなた何を…!?」


 本当に何をされたのか分からなかったわたくしは、そう聞きました。


 すると、エステル様は「どうせ死にゆくものの命です。どうか罪悪感を、覚えないでくださいね」と、言われました。


 わたくしの心臓あたりに出ていた光が収まると、剣が邪魔なために、腕だけで抱きしめてくださっていたエステル様はわたくしから腕を離しました。


 エステル様は立ち上がると、覚束ない足取りで第二皇子殿下の方へと向かいました。

 その際にも、エステル様の歩いた後を、赤黒い血がポタタと床へ落ちていました。

 その行先は、紛れもない、第二皇子殿下の元でした。


 その床へと滴るエステル様の血の塊は、エステル様の今までの生き方のようにも思えてきて…。


(敵国と確定した王女を助けようと身を犠牲にするのはどうして?わたくしが操ったとはいえ、自分を刺した相手の元へ躊躇なく行くのはどうしてなの?)


 わたくしと同じ、もしくはそれ以上の環境下で生きてきたエステル様なら、分かるでしょう。


 人間の狡猾さ、愚かしさ、醜さ。


 その全てを見ても尚、エステル様は人を助けるのですか。


 自問自答をしても、もちろん返答が来ることはありません。


 わたくしは最後まで見届けることが出来ないまま、貴族牢へと入れられてしまいました。

 ただでさえ腹部に剣が刺さっていたエステル様は、わたくしの呪術の代償も受け入れてしまいました。


 


 そして、エステル様は呪術を解かれるてしまわれるでしょう。

 わたくしが今までしてきた命令の数の分、代償は重たくなっていきます。


 




(エステル様………)




 どれくらい時間が経ったのか、時計もなければ窓もないこの牢は、ある意味地獄なのでしょう。

 でも、何故か安心してしまっている自分がいました。


 もう家族の命令に従わなくても良いのだと思うと。これから先ずっと、わたくしを見ない家族に囚われて生きていかなければいけないのだと思うと、今の方がずっと良いと思ってしまいました。



 早く死刑を執行してほしいと思いながら、流れる時間を、エステル様が生きていることの確認と、わたくしの死刑宣告にウィルだけは巻き込まないようにお願いしなければと考えながら、過ごしました。



 祖国では寝る間を惜しんで呪術の勉強をしていた分、惰眠を貪って過ごしていました。

 ですが、熟睡は出来ませんでした。


 …ずっと、エステル様のことが頭の大部分を支配するのです。


 唯一時間が分かるのは、決まった時間に送られて来る食事の時間だけです。

 ちゃんと3食用意されていて、飢え死にすることはなさそうです。


 どれだけの時間が過ぎたのか、数えるのをやめた頃、わたくしは第二皇子殿下にお呼び出しを喰らいました。

 

 久しぶりに見た第二王子殿下は、目の下にクマが出来ていて、頬がやつれている気がしました。


 呼ばれた理由に予想はついていて、わたくしの罪状と、罰の内容を話されるのだと思います。

 もちろん、死刑しかないでしょうが、それでも、私は甘んじて受け入れます。


 それだけのことを、したのですから…。


(ただ、…エステル様がどうなったかだけは、…知りたい……。それくらいなら、許されるでしょうか…)


◇◇◇

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