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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第三章/愛を知るまで
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ep41.自分勝手な《トリステッツァ視点》


 醜い感情を笑顔で隠して、挨拶を交わします。


 皇帝陛下との挨拶もそこそこに、わたくしは敢えて、第二皇子殿下と魔法帝国の元皇女、エステル様にお部屋の案内をお願いしました。


 わざと第二王子殿下の近くに行き、距離を近づけますが、エステル様の表情は微動だにせずでした。

 またまたわざとお二人の話題を出しても、エステル様は口を挟まずただお話を聞いているご様子でした。



 けれど唯一、エステル様の表情が歪んだのは、第二皇子殿下の呼び方のお話をした時。

 その時だけは、ほんの少し不安気な表情をしていました。


 その日は、これ以上の接触をすることも、近寄ることもしませんでした。

 時間はたっぷりあるのですから、そう焦らずとも、すぐに第二王子殿下は呪術にかかります。


 後日、わたくしは絵を描いたので見て欲しいとお願いしました。

 2人だけではいけないと言うのでウィルも一緒です。

 ウィルがいれば安心でした。

 わたくしが呪術を使うことを知っている唯一の人でしたから。


「それで、絵というのは、どこに?」


「えっと、こちらなのですが…」


 わたくしがその【()】を見せると、第二王子殿下の瞳が虚になりました。

 その瞳の奥には、しっかりと呪術の模様が描かれています。


「ねぇ、アイザック様?この後、わたくしのお部屋でお茶でもしましょう?」


「………はい…王女殿下」


「まあ、もっと親しい名前で呼ばれても良いのですよ?トリステッツァと、お呼びください」


「……分かりました。トリステッツァ…」


 呪術というのは、紙に呪術式を描き、その式(陣)を相手に見せることによって、完成します。


 つまり、呪術式を見た今の彼、第二王子殿下は、わたくしの描いた呪中内にいるということになります。


 …初めて人にかけた呪術は、成功でした。


 呪術は禁忌とされているだけあり、応用の幅がとても広いです。

 わたくしが描いた呪術式は【トリステッツァ・シャーロットの意向に従う】というもの。

 

 わざと範囲を広げて、命令出来る範囲を大きくしました。


【婚約者に合わないよう行動しなさい】


【わたくしのことだけを考えなさい】


【婚約者のことは忘れなさい】


【婚約者は放っておきなさい】


【今まで婚約者に接してきたようにわたくしに接しなさい】


【深く考えることはやめなさい】


 全てが適用されていきます。


 ですがその分、もし呪いが解けた場合、反動は重たくなるでしょう。

 何を代償にするかは、呪いが解けてから分かりますが、おそらく命でしょう。


 そもそも呪いは本来解くことは出来ませんから、あまり心配していませんでした。

 唯一他人が呪いを解く方法があるとすれば、わたくしが死ぬか、第二皇子殿下が死ぬかのどちらかです。


 きっとどちらも成されることはないだろうと、わたくしは安心しきっていました。


 トユク帝国の暮らしは、祖国でもないのに心地が良くて、あっという間に時が流れていきました。


 そんなある日、わたくしは謁見の間に座らせられました。

 何か嫌なことが起こる予感がすると、そんな気がしました。


 そして案の定。


 わたくしのしていたことがバレる事態となりました。

 しかも、裏切ったのは1番側にいた、唯一無二の幼馴染であるウィルでした。


(もう、全部どうでもいいわ…)


 バレて、処刑されるか、呪いで殺されるか、何にせよ、わたくしは死ぬ。

 だったら、もう気の赴くままにして、死んでやる、と…。

 思いました。


「《アイザック・ブランドンに命令する。この国の第一皇子とウィル・ブロワを殺しなさい》…ふふっ、救ってあげたのに、アナタも私を裏切るのだから、同罪よね」


 身近にいる存在で、まさか裏切るなんて思わなかったわたくしの幼馴染。


 もう、あなたも殺して、わたくしも楽になりたい。 裏切るのなら、あの世でもわたくしの側で一生こき使ってやりますわ。

 そんな思いから、命令しました。


 その後、わたくしはすぐに取り押さえられましたが、どうでも良かったです。

 今更生を望んだところで、生きる理由も、気力も、わたくしにはありませんでした。




 なのに…




 エステル様は近づいて来るのです。


その温かく、一度差し伸べられて、その手を掴んでしまえば自ら離すことが出来なくなる、そんな温かい手のひら。


 その手は、わたくしを陥れようとする欲にまみれているのか、それとも本気でわたくしを助けようとしているのか、全く分からないのです。

 だって、取り乱しても良いこの状況で、エステル様は全く動じていないのですから。



 まあどちらにせよ、わたくしは、その手を取ることが恐ろしいと感じたことに変わりはありませんでした。

 だから命じたのです。


 「《アイザック・ブランドンに命令するっ…!》」と、そこまで言ったところで、口を抑えられました。


 ですが残念。

 呪術というのは、かけた本人が願えば叶うもの。

 一度既に、呪術の効果が及ぶ範囲をわたくしの意向に設定しています。

 つまり、口に出さなくても良いということです。


 今まで口に出していたのは、この【願えば叶う】という強みを隠したかったからです。

 わたくしは続きをお願いしました。


(《第一皇子ではなくウィル・ブロワを先に殺しなさい…、そして、第一皇子とウィル・ブロワを殺した後に、わたくしも殺すのよ》)



 願ったその瞬間、第二皇子殿下はエステル様とウィルの眼前まで迫っていました。



 …わたくしが第一皇子殿下ではなく、第二王子殿下に呪術をかけたのは、魔法で死ぬのが怖かったから。


 だって、痛いかもしれないじゃないですか。

 だったら、剣で、痛みを感じる前に死にたかった、そんな思いで、わたくしは命令しました。


(わたくしを裏切った言い訳はあの世でたくさん聞きましょう。そして、一緒に殺してしまう第一皇子殿下には、あの世でこれでもかというほど土下座して、謝罪をしましょう)


 だけどわたくしには、ウィルの…唯一の幼馴染が刺されるところを見るだけの度胸はありませんでした。 自分が言ったのにも関わらず、どこまでいっても自分勝手なわたくしに、自ら呆れを覚えました。


 結局、わたくしは目を瞑ることを選びました。

 すると、グサッと、肉を切る音がわたくしの耳に届きます。


 ですが、血を吐く音、呻く声、本当に切られたのはウィルなのかと疑問に思いました。

 ウィルが発声する声にしては、高いような気がしたのです。


 わたくしは、恐る恐る閉じていた瞳を開けました。


 そうして、わたくしの視界に1番に入ってきたのは、 エステル様の腹部に、剣が突き刺さっているところでした。


「どうして…!何故…!?」と、ウィルが言葉を発します。

 わたくしも、どうして身を挺してまでわたくしの執事を庇ったのか、検討がつきませんでした。

 ところが、エステル様は苦しそうに笑みを浮かべながら言うのです。


「…王女殿下を救うには、唯一の幼馴染である、あなたが、生きていないと…ね?」


(わたくしを救う……?それは、本気で言っていたの…?)


 目の前で刺されたエステル様は、第一皇子殿下に魔法を使いました。

 見たことのない魔法でした。


 それがどんな属性で、どこまでのことを成せるのかは分かりませんでしたが、少なくとも、呪術で縛られている行動をも制御する力を、エステル様は持っていました。


 ハッと我に返ると、わたくしはまた仮面を被ります。


「あははハハ!知らなかったのね!言葉にしなくても、心の中で思うだけで呪いは発動するの!」

 


 高笑い。



 どこに笑える要素があるのか、わたくし自身も分かりません。

 わたくしは、これまでの人生の時を経て、表情をつくることだけは得意になっていたのです。


 ですがエステル様は、どこまで言っても優しい言葉をかけてきます。



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