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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep3. 第二皇子《アイザック視点》

◇◇◇


「どうだった?」


 俺は侍女兼監視役の侍女に今日連れ帰った【戦利品】の様子を聞いた。


 元々は皇族の首を全て持ち帰るところを、【死】という単語を聞いた途端に目を輝かせる魔法帝国の皇女の姿を見て、殺せなかったことが発端だ。


 貴族がお金にがめつく、高い地位を維持するために足掻き、大きな名誉を手に入れるために欲をかくのは、全て自分のためであり、生きることに喜びを見出すためであると言うのに。


 皇女だった女は、無頓着であった。


 貴族の好きな地位も名誉も富も、人なら誰しもが望む【生】でさえも、女は何も求めなかった。


 殺すことをやめた時も、別にどうでも良いような。 全てをどこかの誰かに預けている女の意思のなさが俺の何かを刺激した。


 だが、その全てが演技の可能性もあった。


 あの国の人間はみな狡猾だから、女も演技をしているだけなのではないかと、そう思い、侍女兼監視役として配置したのが俺の【影】として普段動いている彼女、エミリーだった。


「エステル様は、相当酷い扱いを受けていたようです…。身体はとても見られる状態の細さではありませんでしたし、鞭の後が古いものから新しいものまで見られました。私に対して【さん】をつけ、エステル様はご自分のことを【様】をつけないでほしいとも言っていました。()()()肌に触れても何も言わず、()()()冷水を浴びた時でさえも何も言わずに私をフォローするような言葉しか発さず、怒っても良い場面でも怒ることはありませんでした。お食事の際もお腹に優しいものを用意して食べさせてみたのですが、半分ほどしか食べられず、完食はされませんでした」


 皇族らしからぬ言動に俺は驚かざるを得なかった。 やはり俺と会話した時の内容も演技ではなかったということ。


 そして皇女の名前がエステルであることを、俺は初めて知った。


「ご苦労だった。下がって良い」


「…第ニ王子殿下」


「ん?なんだ」


「エステル様を本当に、あの帝国の人間と同じ人間として扱っても良いのでしょうか…」


「…何が言いたい」


「エステル様の身辺調査を私に任せては頂けないでしょうか」


 エミリーが今回のようなことを言うのは珍しい。

 普段【影】として忠実に動くので尚のこと。


 ただ今回は、エミリーの過去の姿と皇女の姿が重なってしまったのだろう。


 ならば多めに見るべきだ。


「情が移ったか?」


「…申し訳ありません」


「別に謝って欲しいわけではない。ならば責任を持って調査しろ。いいな?」


「…!寛大な御心に感謝いたします」


「…用が済んだなら戻れ」


「それでは、失礼いたします」


 エミリーが戻ると、【影】の一員の一人である男を呼んだ。


「ローガン」


「ここに」


「エミリーが皇女のことを調べるときに不正がないよう動向してくれ。頼めるな」


「仰せのままに」


 情が移って肩入れするような不正が行われては困る。


 公正に行かなければ判断を誤りかねない。

 一度の判断が国を揺るがす立場にあるのだから、それくらいはしなければ皇族としての面目がない。


 俺が連れ帰ってしまった以上、これを兄と父母、つまり、第一皇子と皇帝、皇后に報告し、エステルが生存しこの国にとって価値がある人間だということを認めさせなければいけない。


「何故こうも面倒臭いことを持ち帰ってしまったんだ…?」


 呟く声で自問するが答えはなかった。


 翌翌日、俺は皇族会議に出席した。


「さて、さっそくだが本題に移るぞ。あれはなんだ」


「魔法帝国の第四皇女です」


「どのような経緯で連れてくることになったのかしら?あなたの人への無情さから魔法帝国の皇族の首切りを任せたはずなのだけど」


 こうなるから嫌なのだ。


 俺の父母は俺を家族ではなく皇族という類で見ていると思う。


 勉強に座学は全くと言って良いほど向いておらず、剣だけはずば抜けて出来た。


 兄上を出陣させなかった辺り、俺のことを使い捨ての駒としか見ていないことは明白だろうな。


「ご期待に添えられず申し訳ありません。取り敢えず、事の経緯を話してもよろしいでしょうか」


「そうだね。まずはアイザックの言い分から聞こうか」


 最も食えないのは、兄のルーカスだ。


 常に笑顔を貼り付けて声の抑揚がない。


 一番何を考えているか分からない人である。


 …だからと言って嫌いでないのが余計腹立たしい。


「ありがとうございます。では」


 こうして俺は事の顛末を話した。


 今の所エステルについては殆どわかっていない。

 ただ出会った場所が地下牢で、存在が消された皇女であることを話すと、誰でも自然と興味は湧いてくるようだ。


「なるほどな…、生も死もどうでもいい人間か…」


「あなた…これは流石に…」


 父母が何やら真剣に考え込んでいるのを他所に、ルーカスは俺の方を見ていた。


「何か?」


「いや、その子に会えないものかと思ってね」


「何故です?」


「はは、質問ばかりは嫌だなぁ。そうだね、強いて言うなら、アイザックに温情を与えられている子が、どんな子か気になったからだよ」


 別に俺だって完全に情がないわけではない。

 父母も兄も、俺のことを勘違いしすぎだ。


 だが、それとこれとは別に、実際に会ってもらった方が良いのも事実だった。


 俺がどうすれば良いものかと考えていると、父母は何かを決心したようにこちらに開き直った。


「アイザック」


「なんでしょうか」


「裁判を開こうと思う」


「裁判…ですか」


 犯罪者でもなんでもない子をそんなものに晒してしまうのかと、俺はほんの少し心配になった。


 そう…少しだけ…


「ええ。魔法帝国の皇女を生かすか、それとも斬首刑にでもするか。全てはそこで決めましょう」


「では一つ、提案があります。父上、母上」


「言ってみろ、ルーカス」


 意外にも、ここで口を開いたのは兄のルーカスだった。


「予め出来るだけ多くの情報を得て、その情報と魔法帝国の皇女の言ったことが全て同じで嘘偽りがなければ生かすというのはどうでしょうか」


(…あまりにも容赦がなさすぎるのではないだろうか……。嘘をつかなければいけない立場にもある人間だろう…。そんな内容にすれば、皇女は殆ど死刑が確定するようなもの…)


 誰よりも非情な善者の皮を被った兄上とは、本当に敵になりたくない。


「……わかった。そうしよう。嘘をついた場合は反逆の意があるとして翌日斬首刑に処す。異論はないな?」


 結局あの後、何も言えず会議は終わった。


 皇女に申し訳ないとほんの少し感じた。

 【生】をちらつかせておきながら、【死】が確定したようなことにこれからなってしまう。


(…いや、違う。これで良い。最低で極悪の、あの魔法帝国の人間に、情を抱いてはいけない…)


 自室の書斎に広げられている皇女の資料を目にしながら、俺はその資料をくしゃりと潰して、自分の髪を投げやりに掴んだ。


◇◇◇

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