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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第三章/愛を知るまで
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ep30.新しい日常


 それからまた時が過ぎ、アイザック様と婚約して、半年が過ぎようとしていた。

 トユク帝国に来て早一年になる。


 時が過ぎるのはなんとも早いもので、もうそんなに経ったのかと、かなり衝撃を受けている。


 大切な人たちが出来たことに、嬉しい気持ちと、こんなに楽しい時間を過ごしていてはいつか失うのではないかという怖さもあった。

 そんな中でも安心していられるのは、やはりアイザック様の力が大きいのだろう。


 アイザック様の怪我も完治して、またいつもの日常に戻り、会える頻度も減ってしまうなと少し寂しく思っていたのも束の間で、婚約を結んでからは皇帝陛下と皇后陛下に、社交界に励んで来なさいと言われ、一緒にいる時間は多くなった気がする。


 妃教育を受けつつ、休憩の時間や社交の時間はアイザック様と一緒にいることが多い。

 初めは絶えなかったアイザック様の【冷血王子】という噂も、私と一緒に社交界に参加しているうちに【愛妻家】に変わったそうだ。


 全くもって恥ずかしいが、妻という部分以外に否定出来ないので、ただ恥ずかしくなることしか出来ない。


 それに、妻にならないかと問われれば、そうではない。

 まだ時期が早いだけのこと。



 だからか、社交界の噂で悪い気など全くしないし、アイザック様に至っては満更でもなさそうなので良かったのかなとも思う。


 社交界にはこの半年で随分と慣れた。


 アイザック様は、やはり噂がどんなものであろうとも、その地位と名誉、顔立ちで彼の側にいたいがために側妃になろうと私に声をかけてくるものも多くいた。


 けれど、元々様々な噂、悪い声に慣れていた私にとって、貴族令嬢のお世辞など、全てお見通しだった。


 アイザック様は、私以外の妃などいらないと断言しており、それも【愛妻家】と言われる理由の1つとなっていた。


 それがとても嬉しかったことは、私の心の中にそっと留めておいた。


 元々貴族は多くの愛人を持つ人が多かった。

 現に、私もその愛人から生まれた人間なので、一応皇女ではあるものの、名ばかりであった。


 だからこそあの仕打ちが出来たんだろう。


 その上、私に魔法が使えないと6歳の時に判明したのが、祖国の人間が私をいないものとして扱う引き金となったのだろう。


 これは、どうしようもない事実だった。


 初めはこの【無属性】を少し恨む日もあった。

 私が勘違いをされなければ、せめて話くらいは聞いてくれたのではないかと。


 一度だけでも、優しい目で見てくれたのではないかと。


 けれど、それも昔の話で。

 牢に入れられてから、その考えはドロドロとした場所へ捨てた。


 そもそも、魔法の有無で人の価値が決まるなんてことはあってはならないと思ったから。

 だから何が何でも、魔法帝国で私の魔法は隠し通してやると、ある日心に決めていた。


 今は、この魔法に感謝している。


 私を地獄から解放してくれて、大切な人がたくさん出来て、その人たちを守る力もくれて、何より、愛する人が出来たことが、とても、とても嬉しい。


 愛する人を守る力も、支える力も全部アイザック様がくれた。


 人は心が原動力だから。

 その原動力をくれたのは、紛れもなくアイザック様だ。


「何を考えている?」


「っ…!」


 低く心地の良い声が、私の耳元で囁いてくきた。

 大好きで、愛おしい。

 

 その声の方へ振り向くと、やっぱり、私の愛おしく大切な人がいた。


 多分、アイザック様の書斎で休憩していた私が、

ぼーっとしていたことを気にしてくれていたのだろう。


 相も変わらず優しい人だ。


 現に、少し心配そうに見てくれるのが分かる。


「昔のことと、アイザック様のことを考えておりました」


「俺のこと…?」


「はい。アイザック様と出会えて、愛する人が出来て良かったなと」


 思ったことを口にする。


 アイザック様が部下を庇って倒れたあの日、気持ちは思った時に伝えないと後悔すると学んだ。


 どれほど怖かったか、恐ろしかったか、今考えても背筋が冷える。


 一方アイザック様は、不意打ちを喰らった顔をして、その後私の隣に座り、包み込むよう抱きしめた。


「何故そんな愛おしいことを言う。仕事が出来ないだろう」


「思ったことは口にしないと後悔すると、学んだので、ちゃんと言葉にしておかないと。気持ちを自覚した今、もう離れられては私は生きてはいけないので」


「それはいけないな。エステルを失うわけにはいかない。俺の光。俺の唯一の愛しい人だ。絶対に離すものか」


 これを聞くと、やっぱり愛妻家だなと思う一方で、私も中々なのでは?とも思う。


「私も、私の唯一無二のアイザック様なのです。失うわけにはいきません」


「俺を越えないでくれ、示しが付かないじゃないか」


 そんな軽口を交わしながら、書斎のソファに座り休憩していると、扉を3回ノックする音が聞こえた。


「私だ。アイザック」


「……どうぞ」


「失礼するぞ」


 アイザック様はすぐさま扉越しに誰がいるのか分かり、あからさまに不機嫌となった。


 私も声を聞いた瞬間に、誰か分かった。

 アイザック様を【アイザック】と呼べる人物は、皇宮の中でも限られていたから。


 扉が開かれると、やはり、扉の先には皇帝陛下がいた。

 皇帝陛下は私たちの様子を見ると、どこか慈しみのある表情をした。


「おや、邪魔だったか。また出直してもいいが、今日はエステルにも聞いてもらった方がいい案件でな」


「……聞きましょう」


 アイザック様は少し不満気ながらも、私たちの向かい側に皇帝陛下が座ったことで、スイッチが切り替わったようだ。


 仕事をしている時と休憩の時間でのアイザック様の様子はかなり違う。

 家族なら分かるかもしれないが、その他の人には分からないだろう。

 

 ほんの少し眉間に皺が寄るのだ。


 私だけが知っているわけではないと思うけれど、少しだけ彼のクセを知れて嬉しい自分がいた。


 また、皇帝陛下も同様なクセがあるみたいだ。


「それで、話なのだが、今年の交流相手国についてだ」


「?、それがどうかされたのですか?」


 交流相手国というのは名前の通り、年に一度行われる、他国との交流会のこと。


 私の祖国でも行われていたものだった。

 幼少の頃見た来客の人たちは、皆あまり良い顔をしていなかったのを覚えている。


「うむ。今年の交流国はイリーガル王国だ」


「…!以前話していたものでしょうか」


 私はピンと来ず、取り敢えず話を聞いている一方で、アイザック様は以前に皇帝陛下と話をしていたようだ。


 両者難しい顔を浮かべていた。


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