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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第二章/ 愛に気付き伝えるまで
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ep27.不穏な予感の的中 ~3~《???視点有り》


「どうしたの?何かあった?」


 扉を開けながら聞くと、扉の前にいたのはアメリアさんだった。


 ところが、いつも笑顔なアメリアさんの顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。


「…っ、ぅ…、皇女殿下…!第二皇子、殿下…が…、他の、騎士を庇って…っ、刺されてっ…」


 ここで、私は妙な引っかかりを覚えた。


「……あなた、誰?」


「えっ…?私はアメリアですよ…!」


 アメリアさんに見える()()は、必死に取り繕おうとしている。


 もしも、今ここに立っているのが私ではなく他の誰かならば、気づかなかったかもしれない。


 何故なら、目の前にいる人は、変装と声に関して、少しの遜色もないのだから。


 ただ、相手が悪かった。

 私から見える目の前の人は、一度少しの違和感さえ持ってじえば、全くの別人にしか見えない。


「そう、正体を明かす気がないのなら、私が陛下を呼ぶまで大人しくしていてもらうわよ」


 アメリアさんは私のことを【皇女殿下】だなんて言わない。つまり、…刺客だ。


 他にも色々と判別ポイントはあったけど、一番確信を持ったのはここだ。


 すると、目の前のアメリアさんに化けた誰かは姿を変えた。


 流石に目を見張った。


 ……変装を解いた目の前の人は、執事の装いをした男性だった……。


(皇宮で見たことがない…。これで侵入者だというのは確定したかな)


「……ああ、凄い。姿は完璧だったのに。流石は聡明な()()()()()()皇女殿下。しかしすみません。僕はこんなところで捕まるわけにはいかないので、これにて失礼。あ、そうそう。僕は偽物でしたが、情報は本物ですので、助けるなら急いだ方がいいですよ。………貴方ならきっと…」


 最後に聞こえないボソッとした声を言い残し、余裕そうな笑みを見せた男は姿を消した。

 テレポートだ。

 つまり、魔法は空間系。希代属性だ。


 あの男の、洗練されていて落ち着いた魔力の波。

 希代属性の中でも稀に見る空間魔法の使い手。

 これはただの侵入者じゃない。


 ここで後を追うのは適当ではないだろう。


(優先すべきはもっと別のこと…!)


 私は急いで部屋を出た。


 みんなのいる場所まで行くと、人だかりが出来ている所が一つ。



 動悸が激しい。


 ただの私の杞憂であってくれ。


 刺客の嘘であってくれ。



 そう切に願いながら騎士と魔法士の人だかりを掻き分けてその中心まで行く。


 するとそこには、血まみれになっている騎士と、血まみれの騎士の傷を圧迫して何とか血を止めようと泣きながら必死になっている騎士、そして治癒担当の魔法士が総動員で治癒魔法をかけている。

 

 ただ、額には汗が滲み、魔法士たちも限界が来ているようにも見えた。


 血が止まる気配は一向になく、今もどくどくと、臓器で言うならば腎臓の辺りから……。


 血が地面に広がっていた。


 致命傷であることは、誰が見ても明らかだった。



「…!!どいてください」


「…っ、エステル様!どうか助けてください…!第二皇子殿下が…!」


 …ああ……。

 やはり、血まみれの騎士は、アイザック様だった。

 1番嫌な予感が、ピタリと当たってしまった。


「すみません!僕のせいで…!僕を庇って殿下がっ…」


 おそらくアイザック様が庇ったであろう騎士が、過呼吸気味に訴える。

 その騎士の背中を摩りながら、優しく、圧を与えないように言った。


「うん。分かった。分かったよ。大丈夫。深呼吸して、あなたも落ち着いて。大丈夫だから」


 騎士の呼吸が安定してきたので、私はみんなへと意識を移す。


「…私は、今日戦った人を誰1人として死なせる気はありません。第二皇子殿下のことも、必ず助けます。だから安心して、あなたも、みなさんも怪我の手当を受けて来てください」


「っ…!はいっ…、すみませんっ、ありがとう、ございますっ…」


 怪我をしている騎士が魔法士たちの所へ行くのを片目に見ながら、アイザック様の治癒を開始した。


「『エステルの名におきて命ず。アイザックといふおもておこしある騎士を救ふため、致命傷となる腹部の傷を治癒す。助からぬ可能性は万が一にもあらぬものとす。そのための代償は厭はず。いかでか我が願ひに応へたまへ』」

 

 アイザック様の傷の部分を中心に光りが強くなり、その光はやがてアイザック様を包み込むように球を描いた。


 球が消えると、私の視界には、正しく呼吸のリズムを刻むアイザック様が横たわっていた。

 代償が来ないうちに、アイザック様を私室のベッドに運んでもらうよう指示を出していく。




 ところが…









「ゴフッ…………っ、………?」









 喉から込み上げてきた何かは、やがて私の口から出て来た。

 それは赤黒いもので少し鉄の匂いがする。


「何…これ…」


「エステル様!」


 膝から崩れ落ちる私を支えたのは、先とは違う、本物のアメリアさんだった。


「ごめ…な、さ」


「話してはいけません…!これってもしかして、先の魔法の影響ですか…?そうなら、瞬きを2回してください」


 私が話さないでいいように瞬きで受け答えをしようとしてくれているのだろう。

 確かに話すのはきつかったので、私は瞬きを2回した。


「…!そんな…とにかくお医者様を…!」


 おそらく、私がアイザック様の死ぬ確率を0%にしたことに対する代償。

 それは、アイザック様の受けた傷を半分ほど引き受けること…だと思う。


(また、メイハムさんに怒られちゃうなぁ…)


 朦朧とする意識の中どうにか傷を受けずに済んだ騎士に医務室まで運んでもらったのだが、…案の定、鋭い眼光がこちらを凝視してきた。


「…エステル様……」


「………すみ、ません……」


「はぁ…いいえ、今回は仕方のないことです。お話は大体聞いていますよ。…ですが、ご自分の身は案じてくださいと、言いましたよね?」


 返す言葉もありませんと思いながら、大人しくメイハムさんからの治療を受ける。


「今から睡眠を施す薬を飲んでもらいます。おそらく1日ほど眠ってもらうことになるかと。良かったとは言えませんが、まだ身体に見える傷で安心しました。これならばすぐに治せるので、一先ずエステル様は眠りましょうね」


 そうニコニコされながら言われると、もう逆らう術も選択肢も、私の中にはなかった。


 アイザック様の様子が気になったけど、魔法はかけて呼吸も安定していたので多分大丈夫なはず…。


 言われるがまま睡眠を促す薬を飲むと、5分もしないうちに私の意識は微睡んでいった。



◇◇◇



(エステルは、姉を亡くした私にとっての最後の宝なのに…お前まで失ってしまったら、私は……)


 私が私であることに、心の底から感謝をした。


 子供の頃の自分が勉強熱心で、本当に良かった。


(だが、エステルの自分の身を大事にしない癖は、本当に早く治さないと、いつか取り返しのつかないことになりかねない……。…エステルだけは、必ず守り切ってみせる)


 

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