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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第二章/ 愛に気付き伝えるまで
25/54

ep24.いつもの一日(?)~3~






「っ__!?」








「ふふ、私だっていくつになっても、恋バナは聞きたいものよ?それで、あなたの想いは聞かせてくれるのかしら?」


「…私の想い…は、…アイザック様のことを……お慕い、していると思います…」


 ただ、これが恋愛なのか、それとも尊敬の念なのかは、私にも未だ分からず。

 一方、皇后陛下は目を輝かせて両手を合わせた。


「あら…!そうなのね…!なら、その想いは、どうしてアイザックに伝えないの?エステルに何か思う事があるから、言うのを躊躇っているんでしょう?」


 さも当然のように言い当てる皇后陛下には、時折り怖さを感じることさえあるほどに的確だ。

 だからこそ皇后の地位まで上り詰めたのだろう。


 女性としても、人としても尊敬できる皇后陛下に、嘘をつくことはしたくなかった。


 なので私は、考えていることの一部を話すことにした。


「…私は、元は敵国の皇女です。それはどんな過去を持っていたとしても、覆りません。そんな私が、アイザック様の隣にいるのは分不相応だと思うのです。アイザック様はとてもお優しい方ですから、そんなのは関係ないと、仰ってくださいます。ですが、現実と焦点を合わせたとき、それはきっと、理想でしかないのだと思い知らされてしまう気がして…。だったら、互いに思いを伝えない方が良いのではないかと、考えてしまいます……。」


 初めて、私がずっと抱えていた不安を口にした。

 すると皇后陛下は苦笑して、「仕方のない子ね」と、慈悲溢れる目を向けた。


「あなたは外に出る機会が無かったし、私たちもまだ許可出来ないせいで、外のあなたの評判を知らないのよね。今度新聞を持ってきてあげるわ。きっと驚くから。アイザックはあなたが来てから変わったわ。今はとても優しいけれど、以前は【冷血王子】とさえ呼ばれていたんだから。本当よ?」


 皇后陛下はクスクス静かに笑みを溢す。


 その思い出さえも美しいと思っているように。


「あの子が笑うことも少なかった。けどね、あなたが来てから変わったのよ。あなたがあの子にとっての光なの、エステル。だから自信を持ちなさい。愛されてる自信、愛する自信。2つのピースがはまったときに、ようやく愛は通じ合うの。これは、私から教えられることよ」


「…!」


(ああ…、皇帝陛下が皇后陛下を大切に、愛する理由がよく分かった。2人とも自身があるんだ。それだけじゃない。この御方は、ずっと包み込むような優しさをくれる…)


 その温かさから抜け出せなくなって、愛さざるを得なくなる。


「ありがとうございます、皇后陛下。私、皇后陛下のような優しくて聡明な人になりたいです」


「ふふ、嬉しいこと言ってくれるわね。なら、これからもたくさんお話しないとね?」


「っ!はい…!」


 こうして、皇后陛下とのお茶会は幕を閉じた。


 先輩が言うことは、やはりとても頼もしく、希望のあるものだと感じた。





 皇后陛下とお茶を一緒にした後は、決まって魔塔に行く。

 魔塔にも、私の身体を心配してくれる家族や友人のような人がいるから。


「ピートさん、こんにちは」


「…!エステル様!どうぞ中へお入りください!」


 私が感情を分かるようになって、色んな表情をするようになってから、魔法士たちとの仲が一段と良くなった。

 どうしてかと聞いてみたところ、アメリアさんが言うには『エステル様が笑うようになる以前もかっこいい御方でしたが、質問されるのはお嫌ではないかと皆思っていたのです。それが今では愛らしい笑顔をされるものですから、エステル様の笑顔を一目見ようと集まるのだと思いますよ』とのこと。


 そのときは意味がイマイチよく分かっておらず、『そうなのですね(?)』と返事をしてしまったので、今日は開発部と研究部の様子を見た後、それを詳しく聞く日にした。


 ちなみに、戦いメインの3つの部に関しては午前中にみっちり訓練するのでこの時間は質問がある人だけということになっている。

 今日は誰もいないので、そのままアメリアさんの、ところへ向かった。


「エステル様!お待ちしてました!」


「アメリアさん、お時間は大丈夫ですか?」


「もちろんです!今日のためのお時間はバッチリ取ってあります!」


「ありがとうございます」


 余程楽しみにしてくれていたであろうアメリアさんは両手拳をグッと握って可愛らしいポーズをする。


 ボブで少し癖っ毛なのか、毛先だけパーマがかかっていた。

 デザートはもう楽しんでしまったのでお茶だけ頂いて、私はずっと聞きたかったことのうちの1つを聞いた。


 …テレパシーで。


『あの、アメリアさん』


『…!?』


『これはテレパシーです。すみません、こうして会話しないと、聞かれるかと思いまして…』


「?」


 アメリアさんは気付いていないのだろうか。

 それとも気付いていて敢えて知らないふりをしているのだろうか。


 少なくとも、今まで祖国の家族の視界にすら入ることのなかった私にはこの視線はむず痒い。


『どうしてみなさん、こちらを覗き見しているのでしょう…』


 私は魔力の波を感じることが出来るため、範囲は決まっているが、大体どの位置に人がいるのかを把握することが出来る。


 


 …のだけど、この部屋のドアや窓から複数人の魔力を感じる。



『ふふっ、エステル様。エステル様さえ良ければ、このままでも構いませんか?きっと、みんなエステル様の笑顔を見たくてやって来てるのですよ』


 どうにか笑いを堪えながらテレパシーを通じて話すアメリアさんはとても楽しそうに見えた。


『安心してください。エステル様。会話の内容は聞かれないよう防音の魔法を張っておりますから、テレパシーで会話なさらなくても大丈夫ですよ』


 結局、アメリアさんが楽しそうならばまあいいかと言う思考に至り、テレパシーを解除してら私が本来話したかったことを聞いた。


「その、アメリアさんが以前言ってくださった…愛らしい…というのは、女性から女性にも、思うものなのですか…?」


「愛らしい…ですか?もちろん思います。ですがどうしてですか?」


「えっと…、女性が男性に思う【愛】と、女性が女性に思う【愛】の違いを教えて頂きたくて…」


 こんなことを聞くのは初めてなので、気恥ずかしいやら何やらでしどろもどろになっていると、私の両手をアメリアさんがぎゅっと握った。


「〜〜っ!エステル様可愛すぎますよぉ…!」


 こちらは真剣に聞いているのに可愛いと言われてしまっては、もうお手上げだ。

 少し不満気に口を尖らせると、アメリアさんは私の手を離して、今度は自分の顔を覆った。


 しばらくして落ち着いたのか、ふぅ、と一呼吸置いてから柔らかい表情で口を開いた。


「それは色々ありますが、私たちが抱いているエステル様への愛は、可愛い、守りたい、という気持ちに近いですね。そして、男性が女性に、もしくは、女性が男性に抱く愛は、もし互いに異性として意識しているのならば、守りたい、愛おしい、支えたい、大事にしたい、一緒にいたいなどの感情だと思います。ですがそれは、互いに1人の女性として、男性として意識しているのなら、一定に性別で決めるものでもありません。愛というのは人によって違いますからね。エステル様も、エステル様の愛を見つけると、いつか腑に落ちると思いますよ。もしも…………なら、…………〜〜………!」


「っ!」


 普段の明るいアメリアさんからどんどんと大人っぽい発言が出てくるので、思わず目を見張ってしまった。


 みんな私よりも人生経験が上だなとしみじみ思う。 それは当たり前なのだけど。


「ありがとうございます、アメリアさん。愛、少しだけ分かった気がします」


「えへへ、お役に立てて何よりです!」


 愛嬌たっぷりで笑顔を作って見せるアメリアさんに、私も釣られて微笑む。

 少し前まで想像もしなかった穏やかな生活に包まれているこの時間が尊くて、大切なものだと思った。


 それからも、また別の話をした。

 アメリアさんの話を聞いたり、私の話をしてほしいと頼まれて少しだけ話したり。


 私は、誰かの話を聞いているときの方が、楽しいと思えた。



 魔塔を後にするころには、すっかり夕日も沈みかけている時間だった。

 自室で夕食を食べて、お風呂に入って、眠るための用意を済ませてベッドに入る。


 ふわふわで柔らかいベッドは私をすっぽりと包み込んだ。

 そして、布団に潜って考える。

 

(私がアイザック様に抱いている【愛】は一体どんな愛なんだろう…)



 私を救ってくれた人。



 解放してくれた人。 



 居場所をくれた人。



 何より、愛をくれた人。



 これは、家族としての愛なのだろうか。

 それとも友人、はたまた、1人の男性として、彼が好きなのか。


(アメリアさんが言ってたっけ、もし好きな人に、他に想い人がいたら、どんな気持ちになるかを考えたら、きっと分かるって…)


 アイザック様がもし、誰か素敵な女性を見つけたら…。それは多分、応援する。

 けれどこれは多分、私の【行動】であって、【気持ち】ではない。







   _____……あっ…_____










(嫌……。アイザック様が素敵な女性を見つけて、私がそれを傍観する立場だったなら、きっとそれは、思っている以上に寂しい…。……欲張りになっちゃったなぁ…)


 考えて、今更ながらにはっきりしてしまった。


 私は、失うのが怖かっただけに過ぎなかった。


 得てもいないものを、いつか失うのではと怯えて、ずっと彼を待たせて。




 もう、逃げてはいけない。


 ここで逃げるのは、絶対に違う。


 ただもう少しだけ、言葉を用意する時間が欲しい。



 ずっと待ってくれていた、彼に見合う言葉を。


 探して、見つけて、伝えて、遠回りをしながら、ピースをはめるのだ。


 そうしてようやく愛は形を成していくと、教えてもらったから。


(アメリアさんのおかげだなぁ…、次、行くときは、お礼…しな、いと……)


 自分の気持ちも分かり、決意も固まったからなのか、意識は暗闇の中へと微睡んでいった。


◇◇◇

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