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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第二章/ 愛に気付き伝えるまで
24/54

ep23.いつもの一日 ~2~

 

 昼食の後は、書斎で古代書や、この国の歴史が書かれてある本を読み漁る事が多い。

 というのも、魔獣が都市に降りてくる件数が年々多くなっていること、それを教えてもらってから、この国の本を読むようになった。


 書斎は綺麗に整頓されており、どこがどのコーナーなのか分かりやすくなっている。

 迷う事なく歴史、古代書が置かれている方へと向かうと、いつもは出会わないところで、第一皇子と会った。


「やあ、奇遇だね。調べ物?」


「はい、最近の魔獣の出現頻度が多いと聞いたので、少し調べようかと」


「そっか。相変わらず君は聡明だね」


「いえ、ここに住まわせて頂いているのですから、これくらいはさせてください。ところで殿下は何用でここへいらしたのですか?」


 毎日書斎は行っている私とは違い、第一皇子が普段ここへ来るのは見たことがないので聞いてみると、顔色を変えずに答えた。


「私も同じかな。国民の不安が高まってきてるからね。いくら騎士団や魔法士団が強くなっているからと言って原因が分からなければ魔獣の数は年々増えて行くだろうから」


 今や第一皇子は兄のような存在だ。


 本人がそう思ってほしいと言ってくれたので、心の中で兄だと思うことにした。

 次期皇帝としてのやるべきことを率先して動き、把握する能力は純粋に尊敬するところだった。


「早く解決して、この国のみんなが平和に安心して暮らせるようにしないとですね」


「うん。国民を幸せに出来るように、頑張ろうね」


 互いにもう読み終わっている本を教え合い、まだ読んでいない本を手に取った。

 私はその場で、第一皇子は自室に戻って読み始めた。


 1時間くらい読み始めたところで、気になるところが出来てしまったため、皇帝陛下に言われた通り、聞きに行くことにした。


 ノックをすると、『入れ』と命じられたので入ると、皇帝陛下は書類に目を通している最中だった。


「皇帝陛下…、今はお忙しそうですので、後にして…「いいや」」


「おいでエステル。私もちょうど休憩したかったからちょうどいいタイミングだった」


 どうやら私を侍従の人と勘違いしていたみたいだ。


 皇帝陛下は手招きした。


 侍従が紅茶を持ってきてくれたので一口含むと、皇帝陛下は柔らかい顔をした。

 やはり根を詰めていたようだ。


「陛下、私が言えたことではありませんが、ご無理をなさらないでください」


「…!ありがとう、エステル。其方はいつも優しいな。それで、聞きたいことがあって来たのだろう?見せてみなさい」


 皇帝陛下のその声は祖国で冷たかった実父のものとはまるで違っていて、とても優しい、娘のように接してくれていることが分かる声色だった。


 隣で本を覗き込む皇帝陛下に、私は分かるように『ここです』と指で指し示した。

 すると、皇帝陛下は顎に手を当ててしばらく考えた後、口を開いた。


「これは、黒竜に関する古代書だな。迷信として千年に一度、黒竜がこの地に舞い降りるとされているんだ」


「……陛下、黒竜が舞い降りる前の、この国に現れる際の特徴は覚えていますか?」


 なんだかあまり、いい予感がしない。


 千年…、それがいつからの千年なのかも分からない。

 けれどこの黒竜の資料は、私の祖国にもあった気がするのだ。


 祖国で本を読んだのはもう随分前なのでどれも確かなものではないけれど、これを迷信として見逃すのはダメな気がする。


「ふむ…あまり重要視していなかったから覚えていないが、もしかして、何か気になる事があるのか?」


「はい…、黒竜についての資料、私の祖国でも見たような気がするのです。…お願いします。この件について、独自で調べる許可を頂けませんか。決してご迷惑はおかけしないと約束致します」

 

 頭を下げて皇帝陛下の返事を待っていると、返ってきたのは、頭上に重なる大きくて安心する、少しだけシワのある手だった。

 

「頭を上げなさい。もちろん、エステルの好きにするといい。迷惑をかけないなどと寂しいことを言うな。あのような発言をした手前、エステルからすれば図々しいとは思うのだが、私にとってはもう、其方は娘のような存在なのだ。まだ親離れをしないでくれまいか」


「…っ!!」


 まさか皇帝陛下からそんなことを言われると思っていなかった私は、ほんの少しだけ重たい頭なんて気にならないくらい、勢いよく頭を上げた。


 瞬間、皇帝陛下と目が合うと、父親とはこういう人なのだろうかと思うほどに、慈しみで溢れている瞳をしていた。


(みんな、私に優しすぎるわ…)


「…図々しいだなんて、思っていません。寧ろ、私などが娘でよろしいのですか。私はきっと、陛下に甘えすぎてしまいます」


「『など』ではない。エステルだから、本当の娘のようだと思うのだ。それに、辛く苦しい思いをしてきた娘を甘やかすのは、父親の特権だ」


 私が想像する父親は、いらない娘は容赦なく切り捨て、いないものとして扱い、鬱陶しければ払い除ける、そんな人だった。


 けれどそれももう、過去の話になるのだろう。


 何故なら目の前には、こんなにも優しい父親がいるのだから。


「ありがとうございます…!…では私も、娘として()()()が疲れている時は、休憩に誘わなければいけませんね」


「…!ははっ、全く。これだから私の可愛い娘はモテてしまうのだな」


 短く笑った後も、クツクツと笑う皇帝陛下は第二皇子にどことなく似ていて、改めて2人が親子であることを実感した。


 この本と、追加でエミリーに特定の本を探してきてもらうことにして、私は皇帝陛下がいる部屋を後にした。

 次に私が向かったのは皇后陛下のお部屋。


「失礼します。エステルです。入ってもよろしいですか?」


「ええ、いらっしゃい、エステル」


「お招き頂きありがとうございます、皇后陛下」


「ふふ、そんなにかしこまらないで。座って待っててね」


 皇后陛下は貴族にしては珍しく、自分でお茶を入れる御方だ。

 しかもそれがとても美味しいのだ。


 お茶は入れる人間によって味が違うと言うけれど、全くもってその通りだということを、この国に来て学んだ。


 エミリーが入れる紅茶は濃厚で、紅茶で満足出来るような味になっており、皇后陛下の入れる紅茶はお菓子の前後に飲むとちょうどいい、さっぱりとした味わいになっている。


 どちらも私の大好きな紅茶だ。


「お待たせ、今日はこれを用意して見たの。パリ・ブレストって言うデザートみたい。これをエステルと食べたくて」


「ありがとうございます、皇后陛下。とても美味しそうですね…!」


「そうよね!エステルはいつも可愛い反応を見せてくれるから紹介し甲斐があるわ!」


 すっかり元気になった皇后陛下を見ていると、私も幸せな気持ちになる。

 皇后陛下はどうやらデザートが好きなようで、時間がある時は、今もたまに皇帝陛下と一緒に食べるのだとか。


「私…そんなに分かりやすいでしょうか…?」


「ええ、私たちの前では気を緩めてくれてるのが分かるくらいにはね。最近よく笑ってくれるようになったこと、とても嬉しいのよ?」


「…そうなのですか…?」


「ええ!あなたの表情、とても可愛らしいのだから、遠慮しないで出しなさい」


 皇后陛下は手際よく用意して私に話を振ってくれる。


 紅茶と皇后陛下お勧めのデザートの用意が終わると、席に着いて、皇后陛下の「食べましょうか」という合図で食べ始めた。




 一口分に切り分けて口の中へ入れると、パイ生地がザクザクと音を立てる。

 同時に、パイ生地に挟まれていたふんわりとしたクリームが美味しさを際立たせた。


「…っ〜!美味しいですね、皇后陛下」


「ええ、とても美味しいわ。紹介して正解だったわね」


「皇后陛下のおかげで、また1つ美味しいデザートが見つかりました」


 祖国にいた頃はデザートは数える程しか食べた事がなかった。


 そもそもデザートというものは本で見た程度の知識しかなかったのだ。

 言わば名前だけ知っている存在。


 幼い時は誕生日の時以外にデザートは無かった。


 今思えば、これも乳母が自分以外に味方はいないのだと洗脳しようとしているのだろうと分かる。


 皇后陛下と初めてお茶をした時は、何故呼ばれたのか、こんなに位の高い人とお茶をしていいのかと、そればかり考えていたせいで味なんて殆ど感じなかったけど。


 皇后陛下が純粋な想いでデザートを一緒に食べたいのだと分かってからは、緊張も和らいで普通に食べられるようになった。


「エステルは嬉しいことばかり言ってくれるのね、またお茶に誘ってもいいかしら」


「皇后陛下が宜しければ是非」


「あら、ありがとう。あ、そうだわ。エステル」


「どうかしましたか?」



 突如思い出したように手を合わせて、何故か生温かい視線が飛んできた。






「アイザックのこと、どう思ってるの?」





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