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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
22/54

ep21.これからも

 

 自分の妻と息子が、敵国の皇女のことでどちらが好きかと争っていることが気に入らなかったのだろうか、咳払いをしてこちらにツカツカと歩いてきた。


 目の前まで来ると、それが祖国の者と重なって、思わず肩をビクッと震わせてしまう。

 いち早くその様子に気付いたアイザック様は、また私の頭を撫でてくれる。


 皇帝陛下も、そんな私を少し心配してくれている、ような気がした。


「………皇帝陛下…?」


「…すまなかった……。あなたを脅して、心無い言葉を多く浴びせてしまった。…カトリーナを救ってくれて、心から感謝している。本当にありがとう。どうか、これからはその恩を返させてほしい」


 正直、また何か言われることを覚悟していた。


 途中で倒れてはいけなかったから。

 部屋へ戻って、また次の日からいつも通りの日常を過ごさないと、異変があっては気付かれるから。


 けれど、今目の前にいる皇帝陛下の目には、後悔と、慈しみの感情がある気がした。


「いえ、私は今、ここに住まわせて頂いている恩を返しているだけです。ですので気にしないでください。大事な方が亡くなるかもしれない危機に迫るのは、とても辛いことだと思いますから」


 つい最近まで、それが分からなかった。

 けれど今なら理解出来る。

 

 もし、皇族のみんなや魔法士たちが、瀕死の状態に陥ったなら、私も必死になってしまうだろう。



 だから、気にしなくていい。

 そう伝えたはずなのだけど…。



「…いいや、私の妻を救ってくれたのだ。本当なら、どんな願いでも叶えてやれるくらいのことをしてくれたのだが、息子たちに、エステルなら遠慮してしまうと言われてな。せめて、今のこの部屋は受け取ってはくれまいか」





(…………えっ___?)






「この部屋、でしょうか」



「ああ、ここは其方のための部屋だ。長い間、物置のような部屋に住まわせてしまってすまなかった。この部屋は其方の好きなようにしてくれて構わない。そのための出費も全てこちらで負担する。これだけで恩返しをしたつもりはないが、まずはこの部屋で過ごしてくれると嬉しい」


 ここの人たちは、私が断ろうとするとみんな悲しそうに微笑む。

 どうやらこの表情には弱いようだ。


 元々は私が救ってもらったのだから、こんなに豪華な部屋も、そのための出費もなくていいのに。

 皇帝陛下は、受け取るまで私に申し訳なさを抱いてしまうだろうから。


「…分かりました。ですが、私は敵国だった皇族です。そんな人間に、謝られる必要はありません。私も怒っておりませんし、当然のことだったと思っています。………ですが、皇帝陛下がよろしいのであれば、お部屋、使わせて頂きますね」


「…!ああ、好きなように使ってくれ。家具も内装も、好きなように変えてくれていいからな」


 なんだかまるで娘にでもなったような気分になってしまう。


 皇帝陛下に感謝を述べると、続いて、近くまで来てくれたのは魔塔主のレイモンド様だった。


「エステル…、無理はしないよう言わなかったかな」


「…すみません……」




(何も言えない…)



「お主はもっと自覚した方がいい。お主が危険な目に遭えば、悲しむ者がいるということを。私もその一人だ。本当に、肝が冷えた……。ほら、お主の教え子たちを見てみろ。みんな涙目だ」


 レイモンド様の言う通り魔法士たちの方に目をやると、涙目の人や実際涙を流している人もいた。


 私が死んで悲しむ人なんて、いたとしてもエミリーだけだと思っていた。


(いたんだ…、こんなに近くに…)



「すみません、みなさん…ご心配をおかけして…」


「っ!ぅぅ〜…、悪かったと思っているなら、ゆっくり休んで元気になったら、魔塔に来てください…!」


 そう言ってくれたのは防御に長けているアメリアさんだった。

 1番熱心に習おうとしてくれる、私の教え子。


「はい。しばらくは行けませんが、必ず魔塔に行きますね」


 何故か余計に泣いてしまった。


 どう宥めようかと迷っていると、白衣を着たメイハムさんが、手を合わせて、半ば呆れながら私の寝ていたベッドまで来てくれた。


「はいはい、お話しはここまでですよ」


 メイハムさんはそう言いながら私の額に手を当てた。

 メイハムさんの手が冷んやりしていて気持ちいい。


「ほら、エステル様、熱が上がっています。もう少し休んでくださいね」


 私を布団に横にして、来てくれた人を返すと、「布団から出ては行けませんからね。絶対安静です。また少ししたら見に来ますから」と言ってメイハムさんも部屋を出て行った。


 豪華な部屋に、豪華なベッド、ここにいるのは、二人だけ。


「………その、ごめんなさい…」


「…っ〜〜_、エステル…私がどうして怒っているのか分かっていますか」


「はい…」


 エミリーが怒っている。

 多分、私が見た中で1番彼女は私の状態に色んな感情を抱いている。


『休んでほしい』『無理をしないでほしい』というエミリーの言葉を聞かなかったのだから、嫌われてしまうだろうか。


(仕方がないことだよね…エミリーがあんなに私の心配をしてくれていたのに、聞かなかったのは私だ…)


 いつもは目を合わせて話すのが当たり前だったのに、今日は中々目を合わせられない。

 目を合わせた時、エミリーが冷たい目で私を見ていたら、きっと私は耐えられないと思う。


 少しの間お互い話さずにいると、額がひんやりと冷たくなるのを感じた。


「気持ちいいですか?」


 その言葉に私が思わずエミリーの方を向くと、エミリーは冷たい目をしていなかった。



寧ろ、私のために…




「…泣いて、いるのですか…?」


「当たり前ですよ…、主人が辛い目にあっているのに、悲しまない従順な従者がどこにいるのですか…」


「…!ごめんなさい、エミリー。私が間違っていました。エミリーが泣いていると、どうしていいか分からなくなります。どうしたら泣き止んでくれますか」


 普段は冷静で、感情を表に出すこともないエミリーが、私のしたことで泣いてしまっている。


 私の気持ちが温かくなったことをエミリーにもすれば、泣き止んでくれるだろうか。

 

 もう一度私が上半身を起こすと、「エステル…!」と呼んでエミリーは私を寝かそうとするが、私の方が早かった。


 ギューっと、あまり力の入らない腕で、エミリーを包み込むように抱きしめた。


「こうすれば、私は温かかったです。幸せな気持ちになりました。エミリーが抱きしめてくれた時も、幸せでした。だから今度は、私がエミリーを幸せな気持ちにしたいです」


「っ…、エステル…あなたには敵いません。私の主はずっと、エステルです。エステルのことはこの身に変えてでもお守りします。だからどうか、ずっと()()()()()のお側に、いさせてください」


「…!!」



 エミリーの、けじめのようなものが見えた。



 ならば、私もけじめを見せるべきだろう。



 エミリーが、私を主だと言ったのだから。



「エミリーにも自分の身を第一に考えてほしいですが、分かりました。こちらこそお願いします。私の側にエミリーがいてくれると、私も嬉しいです。……これからもよろしくね、エミリー」


「…っ__!!はい…!エステル様!」


◇◇◇

 








第一章、これにて完結です!

最後まで見てくださった皆様、本当にありがとうございます!

皆さんの閲覧数が励みになりますm(_ _)m

第二章もどうぞ温かい目で見守って頂けると嬉しいです!


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