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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
20/54

ep19.不思議な不思議な


◇◇◇



(熱い…、心臓が焼かれてるみたい…)

 

 横になっているという感覚しかない。


 目も開けられない。






 ただただ痛い。





 痛くて熱い。







 ひたすら来る心臓の痛みに耐えていると、どこからともなく声が聞こえてきた。




《エステル、私の可愛いエステル。大丈夫、じゃないわよね》


(誰…?)


「い"っ…、たッイ…」


《可哀想に。私の可愛いエステル。皇帝陛下も愛に溺れてしまうことがあるのねぇ…》

 

『あ、…なた、は…?』


《んー、秘密。今はあなたの様子を見にきた女神様だとでも思っておいて。大変だったわね。けど大丈夫よ。エステル、あなたを大切にしてくれる人がいるから、今は少しだけここで休みなさい?》

 

『はい…』


 身体の熱さと痛さで動ける身体ではなかったので、休みなさいと言われて助かった。


 それから自分のことを女神だと名乗る人は、しばらくの間私の前で子守唄のような、聞いていると安心する、安らぐような唄を歌ってくれた。


 時間の経つのを忘れるくらいに聴き入った声で、いつのまにか声は止んでいた。

 


《ほら、もう痛くないんじゃない?》



 女神様だと名乗る女性の言う通り、若干の身体の熱さは残るものの、いつの間にか心臓の痛みは消えていた。


《あなたを愛してやまない、心配する人たちが治してくれたのよ。私の出番はない方が良いから安心ね。ちなみに、私もあなたを愛してるから。忘れちゃダメよ。じゃあ、いってらっしゃい》



(愛してる…?私に愛をくれる人があっち(現実)にいるの……?)



 どうしてだかあまり離れたくなくて、けれど《いってらっしゃい》と言ってくれてるから、『いってきます』と、私もそう返すしかなかった。



 こうして、やっと目を開けられた。


(さっきのは、何…?ただの夢……?)


 私の今の状態で分かっていることは、大きなベッドに身を委ねているということだけ。


 身体が重たく頭痛がする。


 動かしにくい身体をなんとかして上半身を起こすと、ちょうど誰かが扉を開ける音が聞こえた。


 何故か天蓋付きのベッドで眠っていた私は、なんとか声を出して気が付いてもらおうと喉に力を入れるのだが、掠れた声が出てしまった。


 しかし、扉を開けた人はその声を聞き逃さなかったらしい。


 天蓋が開き、少しの間突っ立ったかと思うと、割れ物を扱うように優しく優しく、私を抱きしめた。


「良かった…エステル…、俺は…いつ目覚めるのかと…」


「???、えっと…」


「ごめん、もう少しだけ…。1週間も眠っていたんだ…。頼むから、もう無茶はするな。自分の身体のことを考えろ」


「…すみません」


 ケホッと私の喉が限界を迎えて咳き込んでしまうと、第二皇子は抱きしめるのをやめて水を汲んでくれた。

 ベッドの上に座りコップを渡してくれる。


 ゆっくり飲むと、身体に染み渡っていくのが渡った。


 本当に1週間も寝ていたのだと実感が湧く。

 だから身体が重くて頭痛がするのだと納得がいった。


「あの…」


「ん?」


 第二皇子は、私に理由分からぬ優しい微笑みでこっちを向いた。




 笑顔になるのはとても良いことだ。


 うん。


 けれど理由がこれっぽっちも分からない。





 ……いや、1つだけ、心当たりがあった。


「皇后陛下は、お元気になられましたか?」


「…、ああ、エステルのおかげで、すっかり元気だ。母上を救ってくれてありがとう」


 そう言って柔らかい笑みを向けながら私の頭を撫でる。

 ここの人は敵対心が無ければみんな温かい。


「いいえ、お元気になられたのなら良かったです……、やはり第二皇子殿下も、温かいですね」


「温かい?」


「はい。私を撫でてくださる時も、笑みを向けてくださるときも、お話ししてくださる時も、いつも心が温かくなるんです」



 この不思議な現象に、もう少しで名前が付きそうなところで、第二皇子は納得のいかない表情をする。



「……俺は、お前を殺そうとしたんだぞ…?そんな男の手が、温かいのか…?」


 第二皇子は撫でるのをやめて俯き、悔しそうな声で言う。


 その姿が何故だか寂しくて、布団に置いていた手をそっと第二皇子の頭に乗せて撫でる。

 第二皇子はガバッと顔を上げてこちらを凝視した。


「…温かいです。だって、今は殺そうとしていないではありませんか」


「…っ、だが…」


 第二皇子の言葉はそこで止まってしまったので、私は続きを紡ぎ始める。


「確かに、殺すと言っていました。ですが私にとっては、初めにも言った通りそれは解放を意味していました。私が大嫌いなあの国から解放して頂いてからも、どのみち私に生きる術は残されていませんでした。生きる理由も力もない私を殺そうとする殿下は、これまでの人生に対する私へのご褒美なのかと思ったほどです」


 あの時の心情を思い出しながら話す。


 第二皇子はどこか悔しそうで、拳を硬く握りしめていた。


「…エステル……俺は、きっと今『殺してほしい』と言われても、出来ないと思う…。エステル…死なないでくれ…お願いだ…生きてほしい…」


「えっ……、?…それはまだ、私が戦利品としてお役に立てるからですか?」




(生きて…欲しい…?どうして?戦利品として以外の価値なんてないのに…)







 おそらく本心で言われる言葉に大きく戸惑った。

 それは多分、この国に来て初めて感情を露わにした出来事だった。


 私の問いかけに、第二皇子は必死に否定する。


「違う…!あの時は本当にすまなかった…!国のイメージと偏見であなたを酷く傷つけた…俺は、あなたの人柄や、自分を犠牲にしてまで他者を思いやる、その心に惹かれたんだ」


「へっ…?」


「…ははっ、エステルの表情が変わるところを初めて見たな。……俺は、…エステルが好きだ。だが多分、エステルは【生かされているから生きている】状態に近い…違うか?」


 悲しそうに聞く第二皇子に違うと言いたかったが、否定出来ない、寧ろ限りなく私が思っていることに近い。


 私が首を横に振らないのを見て、自分の言ったことが合っていると分かったのだろう。

 眉をへの字に曲げて、泣きそうに微笑んだ。


「俺はエステルには自分の感情が分かるようになって欲しい。自分の感情を見つけて、それを顔に出して欲しい。確かに貴族としては顔に感情が出ないのは有利かもしれない…だが俺は、今まで無意識のうちに押し殺してきた笑いも、涙も、すべての感情を見せてほしい」


 第二皇子とは、会ってまだ経っていない。


 なのにこんなに真っ直ぐ、誠実に、私に向き合ってくれている。


 実の家族でさえ、私をいないもののように扱っていたのに。

 私はきっと、こんな温かい空間にいても良い人間ではないのに。


「エステル…星、輝くもの」


「?」


「君の名前の意味だ。きっとエステルの母君も、温かい人だった。こんなに綺麗な名前を与えるのだから」


「…!」


「だからエステルも、嬉しいときや楽しいときは笑えばいい。悲しいときや辛いとき、苦しいときは泣けばいい。それは誰にでも与えられた、当たり前の権利だ。だけど、お前は幼い頃にその権利を奪われた。すぐには受け入れられないかもしれないが、必ず幸せにする。あなたが同じ気持ちになるまで、どれだけでも待つ。だから、___俺に、あなたを好きでいる許可をくれないか?」




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