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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep17.皇帝陛下

 

 まさか本当に、やってのけるとは思わなかった。


 皇女に言った通り、あれは夢物語だった。

 流行している病の原因はどれだけ時間が経とうとも見つからなかった。


 なのに、彼女が魔法を唱えた途端、白い光が私たちを覆った。


 もう一度見ると、そこには以前より明らかに顔色が悪いように見える皇女と、病にかかる前と変わらないように見えたカトリーナがいた。


 だが、「皇后陛下の病は、完治しました」そう言われ、にわかには信じられなかったので近づくと、先までゼェゼェと苦しそうな呼吸をしていたカトリーナはスゥスゥと可愛らしい呼吸をしていた。


 その事実が嬉しくて名前を呼ぶと、その呼びかけに答えるようにカトリーナの手に力が籠ったのが分かった。


「リーナ…、私は其方がいなければ生きていけない。今までもこれからも、だからお願いだ。健康でいてくれ。健康でいてくれたら、後は全て私がやるから…」


「ごめんなさい、テオ様。ご心配をおかけてして。テオ様が救ってくださったのですか…?」


「…いや、私は何も出来なかった。救ったのはエステル、魔法帝国の皇女だ。エステル、こっちに…、……?」




 名前を呼んで、

 部屋を見渡して、





 初めて、少女がいないことに気が付いた。




「今彼女はどこへ?お礼を伝えたいのですが…」


「すまない。少し皇女を探してくるから、待っていてくれ。多分息子たちが来るから、ちゃんと慰めるのだぞ?とてもリーナのことを心配していたからな」


「ふふ、分かりました」



 またカトリーナの笑顔を見れたことが嬉しく私も少女にお礼を言おうと廊下を見渡した。


 つい先のことだ。


 まだあまり遠くへは行っていないだろうと、廊下を探しながら歩く。



 すると、歩いている途中、何かに足が引っかかってしまった。


 誰か何かを置いたままにしているのかとランタンを地面へ照らすと、そこにはぐったりとしている少女の姿があった。


「何…!?エステル…!エステル…!」


 何度名前を呼んでも一向に意識が戻る気配はなく、荒い息遣いをたててグッタリとしている。

 慌てて医務室へ駆け急いだ。


「こんな夜遅くに珍しいですね…てっ、皇帝陛下?どうされたので…す……」


 医者のメイハムが顔を出すと、すぐに私の抱えている方に視線を向けた。


「エステルを見てくれ…」


「申し訳ありませんが、こちらまでお運び頂けますか?詳しく見る必要がありそうですので。とにかくまた明日、こちらまで来ていただけますか?陛下も無関係ではないのですよね?」


「ああ、明日向かおう。…少女を、よろしく頼む…」


 そう言い残し部屋を出て、私は皇后の部屋へと向かう。

 そんな中、やっと、私自身が少女に放った言葉を自覚した。


「…ああ、私はなんてことを…」


 我に返ってみれば、言うべきではなかった数々の言葉を少女に向けて放っていた。



 子供の遊び?



 どこが子供の遊びだと言うのだろう。


 カトリーナの魔力量は膨大だ。


 私の魔力量をも上回るほどの膨大な魔力を持つ。


 だが少女はその魔力量を上回る分の魔力水を自ら飲み、カトリーナを助けてくれた。


 今すぐにでも謝罪をしたい。

 ルーカスが言っていた。

 


 エステルが見せた記憶はほんの一部に過ぎないと…………。



 あれこれと考えているうちに、気が付けばエヴァリーナの部屋の前まで戻ってきていた。

 扉をゆっくり開けると、そこにはベッドから上半身を起こして、2人の息子の頭を優しく撫でている様子があった。


 扉の音で気が付いたのか、ルーカスとアイザック、カトリーナも、こちらに視線を向けた。


「お帰りなさい、テオ様。彼女は見つかりましたか?」


「………ああ……」


「…まさか、エステルに何かあったのですか…?」


 どう口を開こうか悩んでいると、その前に言葉を発したのはアイザックだった。


 今まで騎士として動いてきたせいか、アイザックのこういった感は的確だ。


(これは…怒られてしまうな…)


 私は事の顛末を話した。

 カトリーナには1から、ルーカスとアイザックにはここで起きたことの終始を。


 話し終えると、思った通り、ルーカスとアイザックは怒りの表情を滲ませていた。

 それでも何も出来なかった自身のことも咎めているように思えた。


 そんな表情をさせてしまっていることに、申し訳なさも感じた。


 2人は少女の様子を見に行ってくると部屋を駆け出した。


 きっとカトリーナにも失望されてしまうだろう。

 それだけのことを、私は少女に言ったのだ。


「…テオドール様、こちらへいらしてください」


「…っ、ああ」


 何と言われるだろう。


 常に父と母が隠居してからは…特に、父と母が亡くなってからは、常に皇帝という存在が頼れるものだというイメージを守る行動をしてきた。 


 だが少女や家族からすれば、そんなものは脆い仮面でしかないのだろう。


 ゆっくりと、カトリーナの方へ歩きベッドの側に置いてある椅子に腰をかけた。

 すると、「そっちじゃありませんよ」とベッドの上に座らされた。


 今から何をされるのだろうと身構えていると、返ってきたのは温かいばかりの抱擁だった。


「私が倒れてしまったせいで、貴方に酷い事を言わせてしまいましたね。貴方が私をどれだけ愛してくださっているかは知っているのに…」


(何故、カトリーナが謝る…)


「違う…悪いのは私だ。自分の感情すら制御出来ずに、傷つける言葉ばかり言ったんだ…」


「けれど、感情を制御出来なかったのは、私が倒れてしまったせいでしょう…?」


「そうだが、そうじゃない。しっかり頼むべきだった。こんな脅迫じみたものではなく、皇帝としてでもなく、1人の男として、俺は少女にちゃんと依頼するべきだった…」


 感情が昂り、一人称が本来のものへと戻ってしまう。

 

 皇帝という立場になってからは【私】と心がけていたが、カトリーナの前では【俺】と、当たり前のように言っていた。


 抱きしめながら言葉を紡ぐカトリーナは、いつも温かい。


「そうですね。エステルが目を覚ましたら必ず謝罪をするのですよ。それと、もうあの部屋に閉じ込める必要はないでしょう。十二分にエステルがこの国のために尽くしてくれていること、貴方も気付いているのでは?」


 やはりカトリーナには敵わない。

 私の唯一無二であり、私を1人の人間として見てくれるもの。




 …いや、カトリーナだけじゃなかった。





 エステルも、皇帝として見ていれば私に発言することなど出来なかったはずだ。

 エステルも、私を1人の女性を愛する一人間として見てくれていた。


 感謝こそされど罵倒される覚えはなかったはずなのに。


「…ああ、すぐに部屋を移動しよう。少女の部屋を作る。それから、家族として迎え入れたい…。彼女も立派な皇家の一員だ。決して部外者扱いはさせない。何せ、俺とリーナの恩人なのだからな」


「ふふ、それはいい案ね。これからは母親として彼女に出来ることが増えそうで嬉しいわ」


「ああ、私も父として、あの少女…エステルに返しきれない恩を少しでも償っていこう…」


 カトリーナと言葉を交わした後、いつもは夫婦の寝室で一緒に寝ていたのを、今日はカトリーナの部屋で一緒に眠ることにした。


 抱きしめると、クスクスと笑いながら「暑いです」と言う。

 この幸せは当たり前ではないのだと再認識するのと同時に、彼女に続いて、私も思わず笑みが漏れてしまう。

 

 それほどに、この時間が愛おしかった。


 ただ一つの憂いを除いて…………。


◇◇◇

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