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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep14.試練


「…っ…、第一皇子殿下、第二皇子殿下、エステル様、ティータイムを妨げてしまい大変申し訳ありません…!ですが、とても急を要することなので…」


 執事の顔色を見ながら話を聞いていると、普通ではないことだけは伝わった。

 それは第一皇子にも第二皇子にも伝わっていた。


 せっかく側近らしき人の、オールバックにセットしてあった髪型が乱れるほどなのだ。


 皇族や貴族は勿論、身だしなみを常に整えておかなければいけない。

 威厳だったり舐められないようにしたりと様々ではあるけど、貴族や皇族はそれが当たり前。


 それには貴族や皇族に仕える人たちも含まれている。


 しかし、今目の前にいる側近は、身だしなみに気を遣えないほど焦っているということ。


 それも伝えなければいけないこと。


 ということは、第一皇子と第二皇子に関連することだろう。


「分かったから、落ち着け。息を整えてから話せ」


「その話は、エステルが聞いても良いの?」


 第一皇子は、私の気になっていたことを聞いてくれた。

 皇室の事情を元敵国の皇女に聞かれるのは何かまずいのではないだろうか。


 しかし、私の予想とは少し違っていた返答が側近らしき人から返ってきた。


「…エステル様は、魔法がお詳しいとお聞きしました。もしかすると、エステル様のお力も必要になるかもしれないのです」


(私の力…?私が魔法を使えることを知っている人は皇族くらい。その中でも最も私の魔法の実力を知っている人は…)


「魔塔主様からお聞きになられたのですね?」


「…!はい。お察しの通りでございます。実は…、皇后陛下が、流行病にかかってしまわれました…」


「「…っ!」」


 流行病…、1週間前、魔塔でも研究と薬の開発が行われていたものだ。

 ただ原因も不明なため、今の所薬を作る手段もなければ、症状を緩和させる術もない。


 そんな病に皇后陛下がかかってしまった。

 その事実を国民が知れば、国民の不安が大きくなってしまう。


「第一皇子殿下、第二皇子殿下、皇后陛下の症状を見る許可を、私にくださいませんか」


「もちろんだ。一緒に来て欲しい。叔父上と君が頼みの綱だから」


 私からお願いしたはずなのに、第一皇子も第二皇子も、逆に懇願するような目で訴えるように言われた。


 私たちは急いで皇后陛下のいる部屋へと向かった。 ノックをすると護衛騎士と思われる人が扉を開けて中へと入れてくれた。


 部屋には皇帝陛下が椅子に座り、皇后陛下の手を祈るように握っている光景が目に入った。


「…お前たちか……」


「母上の容態は…?」


「…症状が重いそうだ…。耐えるか耐えられないかは、本人の体力次第だと医者に言われた」


 虚な目で答える皇帝陛下は今すぐにでも壊れてしまいそうだった。

 ずっと、良い関係だと思っていた。


 互いを大切に思い、自分のことのように辛くなるほどに愛している。


 そういったことに恵まれなかった分、私は初めてこう言った光景を目の当たりにした。


 私には初めからなかった。

 存在しなかった。


 なかったからこそ、失う悲しみは分からない。

 私があると勘違いしていたものは、元々無かったものだったから。


 けれど皇帝陛下は、自分で掴み取った。

 皇后陛下というこの世で1番大切な人を。

 

 その大切な人が、今生死の狭間にいて、何も出来ない無力感を味合わされて、それは一体、どれだけ辛いことなのだろう。


「…皇帝陛下…」


「…!どうして其方がここにいる」


 どうやら私には気がついていなかったようで、理由の分からない敵意で私を威嚇した。


「申し訳ありません。私が連れてきました。魔法でお助けになれるのではないかと」


「…はぁ…いくら魔法が使えるとは言え此奴は13だ。子供の遊びに付き合っているほど、今の私には余裕などないぞ」


(子供の、遊び…?私の魔法は、そんなふうに思われていたの?一応記憶の共有はしたよね……?)


「父上、いくらなんでもその言葉は…」


「彼女は凄腕の立派な魔法師です。その言葉は取り消してください」


 第二皇子が言ってくれるが、声は届いていない。

 虚な目で睨みを効かせる皇帝陛下は、自我があるのかさえ不安になった。


「煩い…、元は魔法帝国の忌々しいやつではないか。気を遣う必要がどこにある?それとも、皇后を此奴が救ってくれるとでも言いたいのか?13の子供が?夢物語もここまでくると我が息子とはいえ腹立たしいな」


 裁判の日以来会っていなかった皇帝は、1度目の対面の時と随分違っていた。

 きっと初めて会った方が本来の人格だと信じていたい。


 今は、本人が言っている通り余裕がないだけ。

 自分に言い聞かせ、私は一度深呼吸をしてとある提案をする。




「…皇帝陛下。私に少しだけ、時間をください。その期間内に、必ず皇后陛下を治す術を見つけて参ります」


「…それが叶えられなければ?」


「死刑にしてください」


「「…!?」」


 これくらい言わなければ、皇帝陛下は聞く耳すらも持たないだろう。

 こればかりは仕方がない。


 これなら、私が提案したことだから、理不尽な死でもない。


「皇帝陛下に嘘をついたのですから当然のことです」


 私の知る貴族の関係とはこういうものだった気がする。


 忠誠を誓っている相手、皇帝陛下に嘘をついた場合、反逆罪として処刑されているのを見たことがあった。


 これも、私が期間内に治療方法を見つけられなければ、それは皇帝陛下に嘘を付いたという不敬によって殺される。

 ただそれだけ。


「…良かろう。期間は3日だ。皇子たちの手助けはなしだ。お前だけで方法を見つけろ。息子たちには各々で治療方法を見つけてもらう。明日から3日間だけ皇后の部屋へ入ることも許可してやる。その間に出来なければ其方は処刑、良いな?」


「はい。承りました」


 これで恩返しになるのなら、私はなんだってしてみせよう。


(恩返しもして、戦利品としての価値も無くなったら、私は、どうしたらいいんだろ…)


 死ぬ理由も、生きる理由もない今の私に、自分に対してのその問いは、難しすぎた。


◇◇◇


 

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