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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep13.指導と謝罪

 

 続いて着いたのはこの前と同様、開発部。

 それはまた研究部と似たような反応を見せてくれた。


 そしてこちらでも何の開発をしているのかと聞いてみると、流行り病に関することだった。

 

「治療薬…ですか。なるほど…。もしかして、貴族に多い流行り病ですか?」


「…!はい…!もしかして、ご存知でしたか…?」


「はい、先ほど研究部の方から教えて頂きました。ところで、その流行り病というのは、どう言った症状なのか教えてもらうことは可能ですか?」


 ある程度の土台が整っていれば、情報収集の手間が省ける。


 開発部の魔法士たちも快諾してくれ、無事に症状の情報を手に入れることが出来た。


(流行り病のことを熱心に考えている2つの部については後で協力するとして、最後はここね。素直になってくれてたら嬉しいな…)


 なんてことを願いながら「こんにちは」と扉を開けると、待ってましたと言わんばかりにみんな一斉に扉の方、正確には私の方を向いた。


そして…


「「「エステル様…!!」」」


 あまりの勢いに一歩たじろぐと、人混みの中から一際(ひときわ)威厳のある見たことのある人が出てきた。


「やめなさい。エステルが困っておる。…よく来てくれたな…身体は何ともないか…?」


 昨日の模擬戦でのことを気にしてくれてることにほんの少しだけ驚いて、私はまた胸が温かくなったことに気がついた。


 だけど、まだ口には出来なかった。

 この感情が何なのかは私には分からなかったから。


「はい。大丈夫です。みなさんも、何事もなかったようで何よりです」


「…お主はもう少し自分のことを心配するべきだな。…まあ、それは追々してもらうとして。今日は、早速教えに来てくれたのか?」


「はい。みなさんが良ければですが」


「エステル、周りを見てみなさい。自分がどれだけ凄いことをして、今どれだけみんながエステルから魔法を学びたいか。見たらきっと分かる」


 どこか寂しげに言う声に疑問を持ったけど、魔塔主の言う通り周りを見渡した。


 するとどうだろう。


 この前まで私から魔法を学ぶ気などことさら無かったであろう魔法士たちは皆、私の方を向いて目を輝かせていた。


「…受け入れてくれてありがとうございます。みなさん」




「「「…っ!」」」




「エステル…」


 これは心からの言葉だった。


 他国の、しかも元々は敵国である皇女を受け入れるなど、難しい決断だっただろう。


 軽くお辞儀をして再度頭を上げると、先よりもうんと近くに魔塔主がいた。


 何かされるのだろうかと少し身構えていると、魔塔主のごつごつとした手のひらが私の頭の中心を捉えた。


 ポンポンと優しく。


(__また、温かい…)


 魔塔主の顔を視界に捉えようと見上げると、魔塔主は困ったように微笑んでいた。


「…魔塔主様の手は、とても温かいですね」


「…!そうか。ならば良かったよ。それと、私のことは徐々にでいいからレイモンドと呼んでくれたら嬉しい」


 そこまで言うといきなり気恥ずかしくなったのか、コホンと一度咳払いをして話題を戻してくれた。


 私も私でその言葉に何と返すのが正解なのか分からなかったので助かった。


「それで、魔法を教えにきてくれたのだったな」


「あ、はい。それでは気を取り直して。みなさん、私が魔塔主様と戦った時に教えた魔力を身体に纏わせることは出来ますか?」


 魔法士たちは慣れないながらも何とかやってみせた。


「実はこれ、あまり集中しなくても慣れると簡単に出来るものです。魔力を身体に纏わせることで、普段使う魔法に使用する魔力量が格段に減るだけでなく、身体能力の向上にも繋がります。ですが今みなさんは、かなり集中して魔力を纏わせていませんか?」


「はい」


「確かに…」


 それぞれ思うところがあったのか、共感する声を漏らしている人が多いようだ。


「そこで今日は効率的な魔力の出し方を教えます。まずみなさん、魔力はどうやって放出していますか?」


「手から出すイメージで…」


「私もそんな感じです」


 大体が同じような回答だったが、正しい魔力の出し方について知っている人はいなかった。

 おそらく魔塔主でさえも。


 魔塔主と模擬戦をした時にも感じたけど、最後に放たれた魔法は、高い魔力量を持つ魔塔主が、身体に支障をきたすほど多くの魔力を費やす必要はない。


 もっと効率的に使えるはずだ。


「分かりました。まずはそのイメージから変えてみましょう。魔力は手から制限なく放つものではなく、蛇口を捻るイメージで出してみてください。まずはこれをマスターしましょう」


 こうして私の魔法講座が始まった。


 始めは今までの癖を思い切り変えるようなものなので中々に難しく感じたらしい。




 けれど、みんなめげることなく頑張ってくれた。




 そのおかげで、1週間もすればみんなコツを掴んだようで、【蛇口を捻る】イメージが出来た魔法士は魔力を纏わせることも同時に出来るようになっていった。


 この調子で毎日見ていれば、知識量は相当なので、必ず上達すると踏み、毎日のように行っていた。


 すると誰から聞いたのか、第二皇子が部屋を訪ねて「今日は強制休暇だ」と言ってきたのだ。


「ですが、他にすることもありません」


「なら俺のお茶に付き合え。今日の仕事はそれだ」


「分かりました。私で良ければ」


 部屋を出て、いつもとは違う廊下の道を歩く。

 私が行ってもいい場所なのかと思っていると、心情を察せられたのか、自分といれば大丈夫だと、少し前を歩く第二皇子が言ってくれた。


 どこでお茶をするのか、そもそも第二皇子がお茶をするのかと根本的な疑問を抱いていると、どうやら目的の場所に辿り着いたようで、そこは広く綺麗な庭だった。


 道は赤いレンガで整備されており、そのサイドを花が柵越しにたくさん咲いている。

 花の種類は様々だ。

 

 今はアネモネだったりヒヤシンスだったり、ネモフィラ、ハナニラなどが咲いている。


 この綺麗な道を通った先にあるのは白をメインに造られたガゼボだった。

 そして、そのガゼボには見知った人がいることに気が付いた。


「あ、アイザック、エステルー」


「お待たせして申し訳ありません、第一皇子殿下。ですが、どうしてここへ?」


「俺が呼んだ」


 すかさず椅子を後ろへ引きながら私を座らせてくれ、説明まで施してくれた。

 皇子の教育の賜物らしい。


「うん、というか…エステル、君にちゃんと謝る機会が欲しくて、私がアイザックに頼んだんだ」


「?もう謝罪は頂きました。これ以上に謝ることなどありませんよ」


 あの時の謝罪は本物だった。

 もし仮に思っていないうえであったのであれば、それは見抜けなかった私の責任だ。


 一方で、第一皇子が項垂れているのは分かるのだが、第二皇子まで一緒になって項垂れているのは何なのだろうか。


「エステル」


 頭の中で思考を膨らませていると、第一皇子が改めてまっすぐな瞳で私の名前を呼んだ。


「改めて、謝罪をさせてほしい。この前、あなたをぞんざいに扱ってしまったこと、首を締めてしまったこと、本当に申し訳ない。全て私の心の弱さ故だった…」


「いいえ、仕方のないことです。皇族である以上、その悩みから解き放たれることはありません。第一皇子殿下はお強いです。次期皇帝としての覚悟を持っておられる良い証拠だと私は思います」


「…それ、本来なら自分を殺そうとした相手に言うことじゃないからね?…まあでも、それがエステルらしいな…。それとね、エステル。ありがとう」


(えっと…謝罪は理由が分かってるからある程度は受け入れられるのだけど、感謝は何…?)


「…ははっ、エステル、君の感情が初めて分かったよ。疑問に思ってるんだね?」


「…はい」


「素直だね。私とアイザックの仲が悪くならないように、私を正しい道へと戻してくれてありがとうと言う意味だよ」

 

 まるで子供に言い聞かせるみたいに第一皇子は言った。


 これだと、私が本当に感謝されるほどのことをしたと分かって欲しいと思ってるみたい。

 けれど実際、私は何もしていないのに。


 納得していないのが分かったのか、第二皇子も追撃してくる。


「俺からもお礼を言わせてくれ。おかげで兄上を誤解しないで済んだ」


「いえ、あの、私は本当に何もしていなくて…」


「そんなことないよ。これしか方法がないと思ってた私に道を示してくれたのは君だ」


 感謝されることなんて殆どない人生を送ってきた私には、そのむず痒い言葉をどう返せばいいのかが分からない。


 そもそも、感謝されるほどのことをしたとは微塵も思っていないので、どういたしてまして…とも言えない。

 

「そう…なのですか……」


 私からいまいち納得していない返事が返ってくると、2人は少し悲しそうな顔をする。







 …と、そこに、白レンガの道を若い男の人で黒のスーツを着ている側近らしき人が走ってきた。







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