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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
13/54

ep12.分からないけど《ルーカス(第一皇子)視点有り》


「エステル…君は一体…何をどれだけ隠してる…?」


(どうして殺そうとした人間を心配出来る?何も知らない私が無能だと罵ったのに何故何も思わない?そこまで生に執着しない理由は何なんだ…?)


 エステルを苛立たせて、襲いかかってくれたら好都合だと思っていた。

 不敬罪に問えるから。


 そんな小賢しいことを考えていた自分に、今は苛立って仕方がない。

 むしろ一発でも殴ってくれれば良かったのにと思う。


 そうすれば、私は今こんなに自分に対して殺してやりたいなんて思わなかったはずだ。


「第一皇子殿下?入ってもよろしいですか?」


 皇室の影であり今は侍女として魔法帝国皇女のエステルを監視兼世話役として配属させてるエミリーが、ドア越しに言った。


「ああ、いいよ」


「失礼します」


「…エミリー、エステルは強いな…。私はどうすれば良かったのだろうか…」


 このやり方が間違いであることは分かっていた。


 だが、これしか方法が無かった。


 俺たちのどちらかが次期皇帝で、アイザックは立候補しないと言っているにも関わらず、やはり第二皇子派はいる。


 俺たちの仲を悪くさせて、どちらかを殺そうとしてでも皇帝にさせようとする貴族もいる。


 なら、初めから仲が悪ければ、互いに試客を送られることも、命の危険に晒されることも幾分かは減るのではないかと思っていた。


 しかしエステルは、その失敗例を目の当たりにしていたんだ。


 結局第二皇子派の貴族たちの思惑通りになって、魔法帝国の第三王子は亡くなった。


 エステルは教えてくれた。


 エステルを殺そうとした私に、蔑み軽蔑した私に。


「エステル様の言った通りになさるのがよろしいかと。何を仰ったのかは分かりませんが、殿下のお気持ちが変わったのは分かりました」


 エミリーには事前に言っていた。


 魔法帝国の生き残りの皇女を殺すつもりでいること。


 わざと私とアイザックを仲違いさせるつもりでいること。



 計画は全て伝えていたおかげで、特にエミリーも反抗することなく部屋を出て行った。


 そこまでは良かったのに。


(エミリーは、分かっていたからこそ部屋を出たのかもしれないな…)



 自分よりいくつも年齢が下の皇女に諭された。



 おそらく彼女の実体験によって。



 その時の表情があまりにも無表情で。



 どうしてか自分でも分からないほど彼女を抱きしめたくなった。

 これは愛だの恋だのそう言ったものではなく、どちらかといえば兄としてなのかもしれない。


 血も繋がっていないうえ、殺そうとしていた人間が兄などと言えた立場ではないが。


 ここに来て1ヶ月、エステルの笑った顔を、まだ誰も見たことがないと言う。

 憂いた顔も同様に。


 それほどまでに出来た傷が深いということなのだろう。


 なのに、エステルはそれを吐き出す手段がない。

 

 牢屋からここに来たところで、牢屋とそう変わらないだろう。

 ここだって元は物置にしていた部屋を使わせているのだ。


 行動範囲も限られている。

 そんなの牢屋と変わらない。


 自分よりも年齢が低いにも関わらず、ずっと辛く悲しい境遇に置かれている彼女の言葉は、私の心の奥深くにしっかり刺さった。


 13…。

 まだ家族の愛情を求めて、政治も権力も深くは知らず、笑顔でいても良い年なのだ。

 



(そんな彼女は今、どうしてる?)





 政治や権力、時期皇帝争いに関しては3歳にして目の当たりにした。

 笑顔や悲しい顔は実の家族の行いによって失われた。 


(常に平常心で、年相応のことなどしたことがないであろう魔法帝国の皇女であるエステルに私は、何をした?)


「エミリー、エステルのことを教えてくれ。彼女のことが知りたい」


「私が知っている範囲であれば」


◇◇◇


 いつもの時間に魔塔の扉を開けると、受付の人が僅かに肩を強張らせた。


「こんにちは、ピートさん」


「!、僕の名前を…?」


「もちろんです。初めて目を見て話してくれましたね」


「っ、今更話すなど烏滸がましいことは分かっています。ですが謝らせてください。本当にすみませんでした」


 今こうして言っているけど、正直仕方のないことだ。


 元は敵国の人間で、自分よりも年下の人間から教えられるなんて、今までそんなことなかった人たちからすれば屈辱以外の何者でもない。


「大丈夫ですよ。今こうして話してくれているではありませんか。それだけで十分です」


「…!ありがとうございます…!」


 挨拶を終えて歩いていくと、以前の下に見るような目とはまた違う目で周りからの視線を感じる。


 コンコンとノックをすると、その扉はゆっくりと開いた。


「…!エステル様!」


 扉を開けた魔法士が私の名前を呼ぶと、座って研究をしていたであろう他の魔法士たちもぞろぞろとドアの近辺に集まってきた。


「あの、とりあえず入ってもいいですか?」


「「もちろんです!」」


 あまりにこの前とは違う態度に驚きを隠せずたじろぎながらも中へ入った。

 そして入るなり研究部のみんなは綺麗に並び頭を下げた。


「「本当に今まで、申し訳ありませんでした…!」」


「えっ」


「それから、私たちを守ってくださりありがとうございました」


 感謝なんてされたことがなかったからだろうか、むず痒くて変な気持ちになる。

 こう言う時、どう返せばいいのか分からない。




 確か…





「どう、いたしまして…?」


「「…っ!!」」


 何故か、撃ち抜かれたような反応を見せられた。

 私は彼女たちのどこも撃ち抜いていない。


「可愛すぎますエステル様…」


 どこが?とは聞かなかった。

 嫌な予感が働いたから。

 何がと聞かれれば分からない。


 とにかく、嫌な予感だ。


 それよりも普通に話してくれるようになったということは今度こそ応えてくれるだろう。


「…それよりも、今日はどんな研究をなさっているのですか?」


「あ、はい!こちらへどうぞ!」


 研究部の部長らしき人が私を案内してくれた。

 そこで見たのはボードに書かれている魔法式の数々だった。そして今研究しているのは…


「流行り病…ですか」


「はい…今年もまた流行し出してしまいましたので…どうも原因が分からず手詰まりな状態です」


 少ししょんぼりしている様子が伺えた。

 自分の実力ではどうしようもなくて悔しいのだろう。

 その気持ちはよく分かった。


「トユク帝国で流行っている病の特徴を教えて頂いてもよろしいですか?」


「はい。トユク帝国では主に貴族たちがかかる流行り病です。時々平民がかかることもありますが、貴族ほど重症化はしません。死者はその年によってばらつきが酷く、とても多い年もあれば少ない年もあります」


「なるほど、分かりました。こちらでも少し調べてみます。教えてくれてありがとうございます」


「っ!いえ、今まで無視という形で抗ってしまい、本当にすみませんでした」


「大丈夫ですよ。お気になさらず。ではまた明日」


 心から感謝と謝罪をしてくれているのが伝わった。 妙に心が温かくなるのが良いことなのやら悪いことなのやら、ことの真髄は分からないけど、嫌ではなかった。




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