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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第一章/ 幸せを知るまで
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ep9. 決着


「お主、凄いな。私と同等かそれ以上の力を持っているのだろう。ここまで張り合えるとは思っていなかった」


「お褒めに預かり光栄です」


 互いに対話をしながらも魔法を撃ち続けることをやめない。

 その様子を魔法士たちは、特に戦闘や守衛に特化する者たちは、吸い込まれるかのように、じっと見ていた。 


 しばらく攻防戦が続いたが事態は進展せず模擬戦が長引いてきた頃、魔塔主は言った。




「お主、本気を出してないな…?」



「本気…ですか…」


「私は光と闇の魔法を同時に使っているが、お主は殆ど守ることに徹して攻撃しない。私を舐めているのかそれとも本当にそれが限界なのか…まあ、一つ目の仮説は殆どあり得ないから一つ目だろうが…」


「…私が今回トユク帝国の魔法士に魔法を教えようと思ったのは皇族と国民のためです。なのに皇族である魔塔主様を傷つけるのは私の意に反します」


 至極真っ当なことを言ったつもりだった。


 だが魔塔主は顔をムスッとさせて目を細めた。


「私がお主に傷つけられるくらい弱いわけがないだろう。信用ないなら見せてやろう。合成魔法だ」


 瞬間、魔塔主は光魔法と闇魔法を合体させて魔力を凝縮し始めた。

 おそらく強い魔法を出して、私に実力を出させようとしているのだろう。


 魔塔主が同じ実力者と戦えて嬉しくテンションが上がってるのかは分からないが、このままでは、魔塔主が放とうとしている魔法は、他の魔法士では防御しきれない可能性の方が大きい。


 よって、今のアメリアさんでは、魔塔主が放とうとしている魔法を防ぎ切ることは不可能に近い。


 魔塔主が自分と魔法士たちとの間にどれだけ厚い壁があるのかを分かっていないのかもしれない。


「…その魔法はここにいる魔法士たちにも被害を及ぼしてしまう可能性があります。今すぐやめていただけると幸いなのですが」


「無理だ。被害を及ぼしたくないのであればここにいる魔法士たちを守ってみせろ」


 魔塔主に言われ思わずため息が出た。


「アメリアさん、防御の魔法を解いてください。ここからは私がやります」


「…!ですがっ…」


「私なら大丈夫です。それに、皆さんに魔法を教えるという約束をまだ果たしていないのでここで負傷されては私が困るのです」


「……分かりました…」


 アメリアさんの返事と共に防御魔法が消えた。


 魔塔主はどうやらかなり大きな規模の魔法を使うようだった。


(もし私の魔法が魔塔主の放つ魔法に耐えられないことがあったら、傷つくのは今こうして見てる魔法士たち…もしそうなったら…)


「みなさん、今から私の言う事をよく聞いてください。これが私から教える最初の授業です。今回だけは私の言う通りにしてください。お願いします」


 13の子供に教えられるなんて屈辱だと言うものもいるかもしれない。

 しかし、今はやらざるを得ないだろう。


 周りの反応を見る限り、ここまで大きな魔法は皆初めて見るようだったから。


「まず自分の身体の奥底にある魔力を感じてください。それから自分の身体を水に浸すように魔力を纏わらせます。出来た方は挙手を」


 魔塔主が着々と準備を進めている間、私は急いで指導する。

 次々と上がる手に少し安心してそっと胸を撫で下ろす。


 殆どの魔法士の手が上がると、私は続きを説明した。


「それが魔法の基礎です。基本の身体能力が上がり魔力を身体に纏わらせる前よりもずっと魔法が使いやすくなると思います。そして、万が一にもありませんが、本当に、もし、私の防御魔法が崩れた時は自分自身で防御してもらう必要があります。私はみなさんがどうやって魔法を勉強しているのかこの1ヶ月ずっと見てきました。みなさんならもしものことが起こっても大丈夫です」


 1ヶ月観察した結果、魔法の知識はかなり豊富だということが分かった。

 であれば、トユク帝国の魔法士たちが魔法で強いと言い切れない理由は明白。


 【魔力の効率的な使い方】だ。


 魔力は人によって量は違うが、最終的に魔力がなくなれば当然魔法が使えなくなる。

 なのにも関わらず、放つ魔法に対し、必要以上の魔力で放ってしまう。


 それがこの国が魔法において強みを出せない原因だ。


 しかし、今私が教えた自身の身体に魔力を纏わらせることによって、ゆらゆらと揺れていた魔力がかなり安定した。


(これならきっと心配いらない…。荒削りではあるけれどしっかり出来ているし、アメリアさんも魔力の波が落ち着いてる。いざと言う時はアメリアさんが守ってくれるでしょうね)


 魔法士たちの様子をぐるっと一周見た後、魔塔主の方へ向き直り、私も言霊の魔法を使って防御の準備を進めた。


「『エステルの名におきて命ず。魔塔全域と、魔塔なる魔法士みなにゆめゆめ壊れぬ聖属性の防御魔法の広めを行ふ。魔塔主には失ひし分の魔力の補給と魔法の反動を軽減せばや』」


「行くぞ…!」


「『いかでか我が願ひに応へたまへ』」






 詠唱を唱え終わると同時に、魔塔主の準備が完了した。




 光と闇が混ざった魔力は一直線にこちらへと向かってくる。





 そしてその魔法は私の思っていた通り、爆散に近い形であちらこちらに散らばり被害を加えそうになった。






 が、私の防御魔法の前でそれは全て防がれた。



 その瞬間、私の視界が微かに揺れた。



 重たい額を抑えていると、魔塔主がこちらへ歩み寄ってきた。





「っ…」





「…まさかこの魔法までも防ぐとは…、すまなかった。…私が愚かだったよ。お主の実力を見誤っていたな。それに、喧嘩を吹っかけた私に魔力の供給を行い、この魔法の反動も軽減されていた…何故そんなことを…、おかげでお主がフラフラではないか。とにかく…この勝負、エステル皇女殿下の勝利だ」


 互いに魔法が触れたわけではない。

 けれど、私の意図を察したのだろう。


 しかし、あの魔法がここまで魔塔主の魔力を削るものだったのが予想以上だった。

 だから今のこの状態は自己責任であるし、魔塔主が気に病む必要もない。


 『私は大丈夫です』と、そう伝えようとした時、周りから塔全体に鳴り響くほどの大きさで拍手と歓声が巻き起こった。


 魔法士たちの表情や雰囲気を見てようやく、私が勝てたことを実感した。


 身体から力が抜けてそのまま下にストンと落ちるように座り込んでしまう。

 立とうとしても力が入らず辺りを見回すくらいしか出来なかった。


「っ!大丈夫か…!今すぐ医務室へ連れて行こう」


「っ、待ってください…!私は大丈夫です。少ししたら動けるので」


 元々言霊をかなり使っていた状態からだって、数百人規模で魔法を使うこと自体は何の支障もなかったのに、原因は魔塔主だ。


 魔塔主が使う魔法は魔力の減りが大きく、そのせいで大幅に魔力を持ってかれ座り込んでしまっただけ。 だから少しこのままでいればすぐに立てると言ったのに。


「…はぁ……、酷い事をしてしまったな…。人に頼ることも出来ない娘に過去を聞こうとした上、こうして人の身体を気遣いすぎるあまり自分の身体に疎い子に私のことで気を遣わせてしまうなど…」


「…気にしないでください。皇族のみなさんに恩を返そうとしている時に、皇族である魔塔主様が傷つく事態に合っては私が困ります」


(このセリフはデジャブだ…)


「…優しい娘だ。まるでトユク帝国の人間とは思えんな…」


「?…何か言いましたか?」


 最後にぼそっと呟いた一言が聞こえず聞き返すと、魔塔主は困ったような微笑を浮かべて何でもないと言った。


 そして戦闘に集中して頭の片隅に記憶を追いやってしまっていた、彼がやってきた。


「エステル」



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