プロローグ
この世界には魔法というものが存在する。
それは人智を超える異能力で、1人1属性に特化しているのが基本。
主に人間が使える魔法属性は火、水、風、土、雷の5属性である。
しかし、中にはそうでないものもいる。
5属性以外の魔法属性を希代属性と言い、光や闇、聖属性などもこの希代属性に含まれる。
そして魔法は、珍しければ珍しいほど高く評価される。
皇族が扱う魔法は皆5属性に該当しないからこそ高く評価されるし、属性が珍しい人ほど出世もしやすいのが魔法帝国という国。
魔法に重きを置いた魔法帝国の人間が、自身の扱える魔法属性を知るのは早6歳の時。
6歳の誕生日に魔塔へ向かい、魔法師が水晶を使って対象の扱える属性を調べるというのが、この国の方法だった。
希代属性が崇め讃えられるならば、反対に忌み嫌われるものもある。
それは、魔法を使えない人間だ。
もちろん滅多に現れることはない。
しかし他国では魔法を使えない人間は多くいるのが当たり前。
だからなのか、魔法帝国に住む人間たちは平民貴族等しく、魔法を使えない他国の人間たちを馬鹿にした。
だから、罰が当たるのだ。
魔法帝国では属性を調べる際、大抵は、対象者が手をかざした水晶が、その魔法属性を象徴する色へと変化する。
火なら赤、水なら青、と言ったふうに、水晶がその色に染まれば染まるほど、濃ければ濃いほど魔法の素質を持っていることが分かる。
また、魔力の強さと魔法の素質は、血筋が大きく関係していると言われている。
皇族は、大抵の人間が1つの属性に限られている中、2つや3つの属性を自在に操り、闘いや国のために扱う。
雲一つ上の存在だからこそ魔法帝国の国民は、反逆を起こそうと言う思いなど微塵も湧かない。
そんな強者が揃う国に生まれた、とある皇女がいた。
その皇女の名はエステルと言い、母はエステルを産んでから程なくして亡くなった。
元々体が強い方ではなく、母の死は皇帝からすると、想定されていたことであった。
父親となる皇帝には何人も愛人がおり、それはこの魔法帝国では合法だった。
その愛人…表向きは側妃である人間との間に産まれた子供の1人が、エステル第4皇女だった。
エステルは物心ついた時から乳母と家庭教師以外と話をしたことはなく、姉や皇帝からも相手にされることはなかった。
理由は明白で、1つは、エステルの母は他国から来た存在だということ。
他の愛人や皇后は自国の人間であったため、あまりよく思われていなかった。
もう1つは、エステルを産んで程なくして母が亡くなってしまったことにあった。
『近づけば呪われる』『殺される』と言った、何の確証もない噂が、家族や周りの人間から遠ざけられる理由となっていた。
だがエステルの悲劇はそれだけでは終わらなかった。
エステルが6歳を迎えた日、乳母と一緒に魔塔へ向かい、魔法属性を調べてもらった。
結果は勿論良いものだろうと、誰もが思っていた。
付き添いとして同行した乳母
エステルの属性を調べる担当の魔法師
そして、6歳までに叩き込まれた膨大な知識を持つエステルまでも
エステル自身、人から嫌なことをされる辛さを知っているので、魔法どうこうで人を下に見る態度を取ることは絶対にしないと心の中で決めていた。
しかし、エステル含む皆が思っていたのとは違い、水晶の色はどれだけ待っても変わることはなかった。
それからだった。
今まで優しく笑顔で接してくれていた乳母が豹変し始めたのは。
姉や兄がすれ違うたびに役立たずだ無能だと言ってくるようになったのは。
皇帝にいらない存在だと言われるようになったのは。
それから数年、エステルは13歳になった。