第9話 魅力の無くなった初恋の男(クジィ視点)
不遇なスキルを与えられたユートを支えると誓い合った私達3人は彼と共に念願だった冒険者の道を踏み出した。
幼馴染達4人でパーティーを組み、そして数多くのクエストを仲間達と共に達成する事はとても爽快だった。最初は唯一戦闘に不向きなスキルを持つユートを庇いながら戦う事に対して特に不満はなかった。それにユートも自分が仕事の中で足を引っ張っている自覚があるのか雑務などは進んで行ってくれた。
ギルドに登録した駆け出し時代は4人全員が仲睦まじかった。私もまだこの時はユートに対して好意を抱いていた。
だが冒険者稼業を続けて行くにつれて私達3人と彼の関係には少しずつ亀裂が走り出して行った。
強大なスキルを持つ私とセゴムとネムの3人は異例の速度でシルバーランクへと昇格した。そして不遇なスキルのユートは最下級のブロンズのままだった。その後もあっさりと最高ランクたるゴールドランクに私達3人は成り上がる。だが未だにユートだけは中級ランクのシルバーにすら昇格は出来なかった。
最初は仲間想いだったセゴムやネムも次第に彼に対して愚痴を零すようになっていった。
「なあユートもう少し真面目に仕事してくれよ。お前だけがまだブロンズランクなんて流石に足引っ張り過ぎだぜ」
「私も同意です。せめてシルバーランクにまで昇格してくれないと私達パーティーの評価が下降しかねませんので……」
「ご、ごめん……」
本来であれば自分達4人の間には上下関係など存在しない。だがユート自身も自分がチームの足を引っ張っている自覚があるのか二人に対してどこか謙虚な態度を取っている。
その姿を間近で見ていたクジィは正直な感想を言うのであれば『情けない』と彼を内心で非難していた。
幼い頃に身を挺して自分を護ってくれた彼と今の彼を比較するとクジィの中の想いが薄れて行く感じがした。
それからも彼はいくらクエストを受けても著しい成長は見られずじまいだった。逆に自分達3人の評価はギルド内でもドンドンと高まっていき、気が付いた時には自分達3人とユートの間には深い溝が形成されていた。
セゴムもネムも遂にユートに対して一切隠す事もせず不満をぶつけるようになり、それに伴い自分も彼に対して愛想をつかしていた。
いつまでたっても自分達に護られ続けるユートにもう魅力など一切感じなかった。それどころかこの男が自分達のパーティーに所属している事で苛立つ事が増えていく一方であり、彼女は幼い頃の自分の夢を完全に捨ててしまった。彼と共に一緒に冒険者になろうと言う夢を……。
夢を、そしてユートを捨てた後の彼女の人格は一気に屈曲していった。
ずっと好いていた彼に見せつけるかの様にわざとセゴムと仲睦まじげな場面を目の前で披露して彼を苦しめた。そしてその都度ショックを受けている彼の顔を見ては恍惚な感情に支配された。
いつしか彼女はユートを苦しめる事に快感すら覚えていた。それは自分が特別だと自負しているセゴムとネムも同じだったようで自分達が陽悦な気分に浸りたいがために彼をわざとパーティーに置き続けた。
だが次第に彼で遊ぶことが退屈となったセゴムはクジィとネムにある日こんな相談を持ち掛けた。
「なあ、もうそろそろアイツをこのパーティーから追い出さねぇか。ストレス発散目的で置いていたけどもう十分だろ。この頃はどれだけ強く当たっても大したリアクションも取らねぇしよ」
「確かにもう邪魔以外の何物でもありませんが追放と言う形を取ると周囲から悪印象を抱かれかねませんよ? あんなゴミの為に私達に不評が降りかかるのは困ります」
人の目がある場所ではセゴム達はユートを対等の仲間として扱っている。だがクビを言い渡せば下手をしたら『幼馴染を追放した』と言う悪いイメージを僅かばかりとは言え抱かれるかもしれない。ネムが恐れているのはその部分だった。
クジィとしてももはや幼馴染とも初恋の人とも見ていないクズのせいで自分が悪目立ちするのは避けたいと思っていた。
そんな二人の不安を取り除くためにセゴムは悪魔の提案を口にする。
「そんなの簡単だよ。クエストの最中にアイツをぶっ殺して口を封じてしまえばいいんだよ。ギルドにはモンスターに食い殺されたとでも報告しときゃバレやしねぇだろ。俺様達はギルド内でも信用があるからな」
同じ村で育った幼馴染を殺害、その案を耳にしたクジィはと言うと……。
「なるほどそれは名案ね。死人に口なし、証拠も無く目撃者さえいなければ私達に非難も向かないでしょ」
嬉々としてセゴムの提案を受け入れてしまった。そして当然のようにネムもその鬼畜としか言いようのない殺害計画に乗る。
もうここに居たのは仲間想いの幼馴染では……いや人間ですらない。自分達は神の祝福を与えられた〝特別〟と自惚れ、才能に溺れ堕ちて行った3匹の悪魔だった。
そう、私達は間違っていない。このパーティーから異物を排除するだけ、不純物は特別である私達の傍にいらないのよ……。
こうして3人は一切の葛藤もなくユートを魔法の森に誘い出すと彼に苛烈な暴行を加え、そして瀕死となった彼を魔獣の前に放り出したのだった。血みどろのユートが魔獣に襲われる光景を目の端に捉えてもクジィは一切の罪悪感の欠片すら感じる事もなかった。
だが後日クジィ達は驚愕と共に戦慄を与えられる事となる。自分達が下だと決めつけていた〝幼馴染〟の手によって……。