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第8話 私の初恋(クジィ視点)


 私は今日、同じ村で育った幼馴染を……初恋の相手をこの手で殺めた。


 この私、クジィ・オルトスは同じ村で育った自分を含めた4人の幼馴染達で冒険者パーティーを結成していた。いや……正しく言うのであれば元4人、そして今は3人と言うのが正解だろう。


 「いやーこれでやっと俺様達のパーティーから役立たずの〝お荷物〟を破棄できたな!」


 このチームのリーダーを務めているセゴムは宿泊している宿に戻るとクジィとネムを集めて乾杯を行っていた。自分達の幼馴染を殺めておきながら祝い酒、仲間想いで知られている彼のこの本性を見れば間違いなく他の冒険者達に幻滅される事だろう。

 

 まあでも私もネムも何の後ろめたさも感じていないんだけどねぇ……事実あんなクズ、もういらないしぃ。


 かつての初恋の相手をその手で絶望に突き落としておきながらもクジィには良心の呵責などまるで無かった。




 幼い頃の私は確かにユートと言う人間に心惹かれていた。彼はとても優しく気遣いも出来て自分が何か困っている事があれば手助けをしてくれた。

 彼とはよくお互いに将来の夢を語り合っていた。いつか必ず一緒に冒険者になってパーティーを組もうと指切りをしたものだ。


 彼に対して明確な恋心を抱いた切っ掛けは間違いなく身を挺して自分を庇ってくれた〝あの日〟だろう。


 それはまだ自分のスキルがどのような能力なのか神父から教えられる前、仲の良かった幼馴染4人で一緒に村の外れで鬼ごっこをしていた時になんと魔獣が現れたのだ。

 レベルで言うのであれば低級魔獣、現在のゴールドランクの自分ならばあっさり退治できただろう。だがまだ力の無い幼子のクジィ達にはあまりにも絶望的な相手だ。当然4人全員がその場から蜘蛛の子を散らすかのように脱兎の勢いで逃げた。

 だが恐怖から足をもつらせてクジィはその場で激しく転んでしまう。


 「グルルルル……!」


 「や…やだぁ……」


 地面に打ち付けた膝や脚の痛みに悶えていると逃げそこなった自分へと魔獣が涎を垂らしながら近付いてきた。

 あまりの恐怖から涙や鼻水を垂らしながらその場で震える事しかできなかった。

 

 だがそんな自分を助けようとユートは勇気を振り絞ってこちらへと戻って来たのだ。そして魔獣目掛けて石を投げて自分に注意を向けて囮となったのだ。


 「こ、こっちだバケモノ! かか…かかってこい!!」


 声を震わせながら涙目になりながらも自分を助けようとするユートの姿にクジィは恐怖とは違う涙が滴り落ちた。

 投石により意識をユートへと移した魔獣は攻撃をされたと思いユートへと勢いよく飛び掛かって行った。


 「うわああああああ! 今の内に逃げてクジィぃぃぃ!!」


 迫りくる魔獣に背を向けて泣き叫びながら彼は我が身より自分の身の安全を考えてくれた。

 あと一歩でユートの体に喰らい付こうとした魔獣だが、その牙が突き刺さるよりも先に遠方から飛んできた炎の球が魔獣の顔面を撃ち抜いていた。

 火球が飛んできた方向を見てみるとそこに居たのはかつては冒険者として魔法使いだった自分の父だった。どうやら偶然にもこの近くに居たらしく逃げて行ったネムと遭遇して連れて来られたそうだ。


 危機が去って呆然としているとユートが近づいて来て自分に話しかけて来た。


 「だ、大丈夫だったクジィ? どこか怪我とかしていない?」


 まだ自分も恐怖が抜けきっていないはずなのに気遣いの言葉を贈るユートの優しさ、この瞬間にクジィは彼に友情を超えた愛情を抱くようになった。

 この時にクジィは心の奥底である事を誓った。それは将来必ずこのユートと一緒にパーティーを組み一人前の冒険者となった時にこの想いを告げようと言うもの。


 私もユートを護れるぐらいに強くなってみせるんだ。そして……その時にこの想いを彼に告げよう……。


 だが自分のそんな願いをまるで拒否するかのように残念ながら神様は彼に祝福を与えてはくれなかった。

 自分や他の幼馴染の二人は強力なスキルを手にする事が出来た。だがそれに引き換えユートだけは私達とは違い何の役にも立たないスキルを授かってしまったのだ。

 

 「ごめん……僕はもう冒険者の夢は叶えられそうにないや」


 そう語る彼は乾いた笑みと共に光を失った瞳で自分を見つめて来た。

 だがクジィは納得がいかなかった。確かにユートは望むスキルを得る事は出来なかった。だがだからと言ってずっと夢見ていた冒険者の夢を断念するなんてあんまりだ。


 「私は……ユートと一緒に冒険者になりたいな」


 確かに不遇な彼のスキルでは冒険者と言う職は人一倍厳しいだろう。だが彼が親に憧れずっと冒険者となって活躍する夢を語っていた姿を思い返すとユートに夢を諦めて欲しくは無かった。それにクジィとしても特別な感情を抱いている彼と一緒に夢を叶えたいと言う理想を捨てたくは無かった。


 「私もユートと一緒に冒険者になりたいな。スキルがなくても冒険者にはなれるよ。それに……いざと言う時には私がユートを護るから……私だって好きな人と……同じ夢を叶えたい……」


 気が付けば自分の口からはずっと秘め続けていた想いが吐露されていた。

 いつか立派な冒険者となった時に伝えようとしていた想いをフライングで彼に告げていた。それほどまでにクジィとしても彼と同じ道を歩みたいと言う想いが強く言葉が溢れてしまった。


 自分の唐突な告白に戸惑うユート、他の二人の幼馴染も一緒に冒険者を目指そうと後押ししてユートは自分の夢を捨てる事を踏みとどまり自分達と同じ道を歩む決心をしてくれた。

 

 安心してユート、私が手に入れたこの強力なスキルでいざと言う時にはあなたを護って見せる。昔あなたが身を挺して私を助けてくれた時の様に……。


 だがこの時の私はまだ理解していなかった。強大な力を持つ者は時として歪んでしまう事、そして傲慢な人間は大事に想っていた相手ですら力の無いと言う理由だけで容赦なく排斥できるようになると言う事も……。



 

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