第3話 仲間として見られない雑用係の毎日
クエストを無事に達成したユート達【ブレスド】は宿に戻って仕事の疲れを癒そうとする。
だが宿の中に入り人目がなくなると同時、彼の幼馴染達は態度を一変させてユートに強く当たり出す。
「おいユート、今回のクエストで俺様の防具が少し傷付いちまったから後で防具屋に持っていけよ」
そう言いながらリーダーであるセゴムは脱ぎ捨てた防具を彼に放る。
いきなり投げて手渡される防具を上手くキャッチできずに床に落とすとセゴムは唾を飛ばしながら怒鳴り立てる。
「おいテメェ! 何俺様の装備を落としてんだこの愚図が!」
「うがぅッ!? ご、ごめん……」
慌てて防具を拾おうとするがそれよりも先にセゴムの蹴りが腹に突き刺さって吹き飛ばされる。
そんな光景を見ても他の2人は特にセゴムを咎めようとはしない。それどころか蔑んだ眼でユートを見ながら罵声を浴びせる。
「ほんっとう、雑用すら満足にできないなんて使えない男ね」
「仕方がありませんよクジィ。所詮は神に見放された〝ユーズレス〟なのですから」
ネムがそう言うとクジィは見下すような含み笑いと共にユートの心を更に抉る。
「ほーんと、クズがパーティーに居るせいで日常でも私達がストレスを抱える羽目になるんだから。ねえクズ、どうしてアンタ冒険者になんてなったの? 人一倍食費が掛かるだけ、それで戦闘では足を引っ張る、どう考えても冒険者稼業が不向きだって気が付かない訳?」
「はんっ、そりゃ無理もねぇよクジィ。こんなユーズレスに正常な思考力がある訳ねえだろ?」
「そうですね。身の丈にあっていないこのパーティーを自主退職もせず寄生虫の様にへばり付き続けるぐらいですからね」
そう言いながら蹴られた箇所を押さえながら蹲るユートの事を幼馴染達は罵倒と共に嘲る。
浴びせられる心を抉る言葉のナイフに対してユートは特に反論せずただ黙って聞き続けるだけだった。ここでもし不用意に反論などしようものなら間違いなく苛烈な3人よる〝躾け〟と言う名のリンチが加えられると知っているからだ。以前言い返した際にはボロ雑巾同然になるまで3人から暴行を浴びせられたトラウマは今でも消えない。
かつての仲間想いの優しかった幼馴染達はもう完全に別人のように変わり果ててしまっていた。
冒険者稼業を始めたばかりの頃はまだ村で過ごしたあの優しい3人は確かに居た。
だが幼馴染達の持つスキルはとても強力であり3人は信じられない速度で最高位のゴールドランクへと至った。それに引き換え外れスキルの自分は平均的な速度でノロノロと進み続け3人と歩幅が合わなかった。
一握りの選ばれた存在しか辿り着けないゴールドランクの3人は次第に同じチームでありながら下級のブロンズランクである自分を疎ましく思い始めていた。その険悪な態度は日に日に露骨となっていき、今では人の目が無くなるとこのように自分を仲間でなく雑用同然の奴隷として扱うようになってしまった。
実際に今のユートの仕事は完全に雑務が主要となっている。戦闘面では役に立たないと他の3人はクエストに同行させても後ろで傍観させるだけ。もし自分が戦闘に参加しようものなら他の3人から攻撃が飛んでくる始末だ。
「あーお腹すいちゃった。ねえねえこれから3人で外食でもしようよ。あっ、アンタは付いてこないでね。ゴミが一緒だと腐臭でご飯が不味くなるからさ」
そう言いながらまるで本物のゴミを見るかのような視線をクジィが向けて来た。
かつて村の中で一番仲が良く、そして何より自分に好意を抱いてくれていた優しい幼馴染はもう居ない。すっかり天狗となり悪心が増長した彼女はもう自分に愛を語る様子など微塵も無かった。それどころかクジィ、それにネムの2人がセゴムと肉体的な関係すら持っているのだ。しかもクジィはその事実にショックを受ける自分の反応見たさに時々聞きたくもないセゴムとの熱い関係を一方的に聞かせて来る始末だ。
普通ならばこんなパーティーにもう未練など無いだろう。ユートが一緒にパーティーを組みたかったのは仲間想いの3人の幼馴染達であり、ここまで歪んだ3人とパーティーを組んでいても辛いだけだ。
だがこの3人はユートがパーティーを抜ける事を許してはくれない。何故ならこの3人は人目がある場所では自分を大事な仲間として扱っているのだ。その結果この3人の評価はギルド内でも仲間想いの心優しいゴールドランクとして見られている。もし自分をパーティーから追放すれば悪評が立つ可能性があり、その事を恐れているのだ。
つまり自分達の保身の為にこの3人は〝ユーズレス〟の自分を置いているだけだ。後は恐らく周囲の期待からくるストレス発散のサンドバック程度だろう。
自分を置いてけぼりに3人で宿を抜け出し豪華な外食に出向くクジィ達。
その後ろ姿を部屋の窓から眺めながらユートは今日も後悔する。
こんなことなら……冒険者になんてならなきゃよかったと……。




