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第26話 はぁ、今更何言ってるの?

 

 コンビ解消からお互いにすれ違い続けたクェシィとリンダであったがそのわだかまりは解けて消えた。両者がお互いに鬱積していた心の靄を言葉にして口から吐き出し、全てをぶつけ合った二人の表情はとても柔らかくなっていた。

 そんな行き違いだった二人の仲を取り戻したユートは二人が無事和解した現場を見届けるとそのまま何も言わずその場を後にした。


 ここから先どうなるかはあの二人次第、もう俺が割り込む必要は無いだろう。


 その場から立ち去る直前ユートは外から店内で笑い合う二人にもう一度だけ視線を向けた。

 喧嘩別れから無事に元の仲睦まじい幼馴染に戻れた事が嬉しいあまりか二人は笑みを浮かべながらもその頬には涙の伝った筋が出来ていた。


 良かったなクェシィ、お前は俺とは違ってちゃんと仲直り出来て……。

 

 関係が修復された二人を見ていると何故か自分の脳裏に仲睦まじかったあの3人との思い出が蘇る。共に冒険者となって名を残そうと手を重ね合っていたあの頃を……。


 くだらない……俺とクェシィは違う。俺達はもう戻れないんだ……。


 もう話し合いで和解できる段階など当の昔に過ぎている。本来対等である幼馴染達に奴隷のように扱われ命まで奪われ掛けた。その報復として奴等からスキルを奪い取り3人の冒険者として生きて行く力を損失させた。

 

 そのままユートは何も言わず二人の前から姿を消して行く。その背中には哀愁が漂っておりまるでクェシィとリンダの姿が眩しく逃げて行くようだった。


 「はぁ……なんか憂鬱だな……」


 特に当てもなくユートは町の中を歩き続けていた。

 あの手を取り合う幼馴染達を見ていて何故か虚しさが胸の中から溢れ続ける。いや、何故と誤魔化すのはよそう、自分はあの2人に羨望してしまったのだ。できる事なら自分もセゴムと、クジィと、ネムとあの輝かしい時代に戻りたいと……。


 「はんっ、未練タラタラも甚だしいな。もう独りで生きて行こうって割り切ったはずなのによ……」


 そんな事を考えていると気が付けばユートは冒険者ギルドの付近まで辿り着いていた。ただそのギルドは現在自分が所属している【憩いの結束】ではなく、かつて幼馴染達と共に働いていた【戦士の集い】の方だった。

 特に目的地なども決めずふらふらとしていた挙句に辿り着いた場所に思わずユートは失笑してしまう。


 何だよ……復讐まで果たして今更何を俺は……。


 勿論自分の中にはこのギルドで再び返り咲こうとか、ましてやあのクズ幼馴染達ともう一度パーティーを復興させようなどと言う願望はない。ただ……崩れかけそうになっていたクェシィとリンダの二人が元の仲睦まじい幼馴染時代に戻った光景を前に気が付いたらここまで歩いて来ていた。

 

 「たくっ、戻ろう……」


 我ながら女々しさを捨てきれない自分に対してユートは自嘲する。そしてそのままもう宿へと戻る、事はせずに彼は現在自分が所属している【憩いの結束】の方へと足を運んだ。

 どうせなら次の仕事を見繕っておこう、彼としてはそんな軽い気持ちからの行動だった。


 「あん何だぁ?」


 仕事を物色しようと今の自分が身を置く【憩いの結束】のギルドに到着したユートであるがギルドの入り口付近でその足を止める事となる。その理由は扉越しから見知った後ろ姿を見かけたからだ。


 クソったれが、何であのクズ共がこのギルドに来てるんだよ……。


 ギルドの中には受付の職員に対して何やら詰め寄っている二人組の姿が確認できた。その後ろ姿だけでもそれが自分を裏切った元幼馴染のセゴムとクジィの二人だと言う事は一目瞭然だった。ただあの二人が居てネムが不在だった事に一瞬の疑念は湧いたがすぐにどうでも良いことだと切り捨てる。

 

 先程に和解を果たしたクェシィとリンダの件で綺麗な頃の過去を思い出したユートの心境は少々ナーバスとなっており、こんな精神状態の時にアイツ等と顔を合わせたくないユートはそのままギルドを後にしようとする。

 だが運の悪い事に入り口付近で様子を伺っていたユートの存在に受付嬢の女性が気付いてしまった。


 「あっ、ユートさん! お客様がお見えとなっております!!」


 セゴム達の対応をしていた受付嬢の女性が声を張って自分を呼び止めて来た。

 明らかに面倒を避けるために声を張って呼び止める受付嬢に思わず内心で舌打ちが漏れる。そんなユートの心情など露知らずに同じく自分の存在に気付いたセゴムとクジィがダッシュしながら詰め寄って来た。


 「おいユート! お前に話があるから付き合えよ」


 第一声からいきなり命令口調で自分に話し掛けて来たセゴム、そして明らかに苛立ちを隠していないクジィに溜息を吐きながらユートは仕方なく応答する。


 「今更お前達が俺に何の用だよ?」


 「いいからちょっと来やがれッ!!」


 自分の質問に対してセゴムは答えずそのままギルドの外に出る様に促す。

 本来ならこんな奴等の指示に従う理由も義理も無い。だがこのままギルド内で騒ぎを起こせば間違いなく今後の自分のギルド内での活動にも影響が出かねない。

 

 こうしてセゴムとクジィに付き添いギルドの外に出た3人は人気の無い場所まで移動した。

 だがその直後、セゴムの口から飛び出て来た言葉は俄かに理解し難いものだった。


 「喜べユート、実は今日はお前を俺達のパーティーに〝復帰〟させてやる事にしたんだ」


 「……はぁ?」


 「もう察しが悪いわね。だから、また私達のパーティーに戻ってきても良いって言ってるのよ」


 ……コイツ等は一体何を言っているのだろか?


 頭の中が一気に白く染まるユートの事など構う事無くかつての仲間は耳障りの良いセリフを口々にかけて来る。


 「色々とすれ違いはあったが仮にも同じ村で共に夢を誓い合った仲だ。これからは〝対等〟な仲間として見てやるよ」


 「だから意地にならず私達の元に戻ってきなさいよ」


 開いた口が塞がらないとは今の自分の様な人間に当てはまる言葉なのだろう。

 

 ああ……コイツ等は結局反省も何もしていなかったんだな。


 あの決闘後からコイツ等との接触は無かった、だがあれだけ手酷い目に遭わされて少しは自分の痛みが伝わったものだと心のどこかで思っていた。

 だが一度堕ちぶれた人間は〝反省〟などしないとこの瞬間に心の底から理解した。


 たくっ、俺もまだまだ甘かったな。観衆の前でボロ雑巾の様に圧倒し、スキルを奪ったぐらいで復讐した気でいただなんて。きっと心のどこかでまだ過去の優しかった奴等に対しての良心が働いたんだろうな。まさかこの期に及んでパーティーに戻って来い、ましてやそれを命令口調で言われるとは思いもしなかったよ。


 この時ユートの口元は微かに笑っていた。それは決してかつての友人達が自分を連れ戻そうとしている喜びからの笑みなどではない。むしろ……その笑みは今度こそコイツ等の心を地獄の底の底まで突き落とす覚悟が決まったが故の凄惨な笑みだった。


 未だに厚顔無恥な申し出をしてくる二人に対してユートは嬉々とした表情でこう告げたのだった。



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