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第25話 嘲笑を浴びるセゴムとクジィ(【ブレスド】パーティー視点⑤)

今日から少しずつ投稿を再開していきます。こちらの作品の応援もぜひよろしくお願いします。


 ゴブリン退治の依頼を投げ出し、挙句には仲間であるネムを置き去りにしたセゴムとクジィの二人は王都に戻って来ていた。


 「くそっ、何で俺達がゴブリン退治程度の依頼で引き返さなきゃいけねぇんだよ……」


 「とにかくユートを連れ戻す事を最優先に考えましょう。あのクズに何としても私達の不調の原因を問い詰めないと……」


 「ちくしょう……アイツのせいで……!!」


 セゴムは自分の歯が砕けんばかりに食いしばりながら先程の自分達が受けた苦汁を思い返していた。


 王都へと帰還した二人は自身の所属している【戦士の集い】へと戻ると今回のゴブリン退治のクエストの〝失敗〟の報告を行った。

 自分達の失態を報告した際の目の前の受付嬢の顔が今でも鮮明に脳裏にこべりついていた。


 ええ、仮にもゴールドランクの冒険者がこの程度のクエストも達成できなかったの? そう口にこそ出していないが女性の小馬鹿にしている表情は隠し切れていなかった。しかも仲間をゴブリンに連れさらわれた事実が更にセゴムとクジィの評価を低下させる事となった。

 クエストを断念するだけでは飽き足らず仲間まで失った二人に対してギルド内の冒険者達は揃って陰口をぶつけて来たのだ。


 「初級クエスト失敗、しかも仲間まで失うなんてな、仮にも最高ランク【ブレスド】が聞いて呆れるぜ」


 「ゴブリン退治なんて新人冒険者でも成功率が高いのにな。俺なんて新人時代ソロでも達成したクエストレベルだぜ?」


 「やっぱりアイツ等がゴールドだったのってあの〝無能〟のお陰だったんじゃねぇの?」


 クエスト失敗の報告を終えてギルドを出る際にセゴムとクジィの背中には多くの冒険者達からの嘲笑の言葉がぶつけられた。

 その際に思わずセゴムは飛び掛かりそうになるがクジィに遮られてすんでのところで踏みとどまった。

 

 「やめておきなさいよ。今の私たちはあのクズのせいでスキルが思うように発動しないんだから」


 「ぐっ、ぐぅ~……!」


 クジィの言う通り今の自分は《剣聖の加護》の効力が発動してくれない。その状態で自分達を嘲っている大勢の冒険者を敵に回すのは得策ではない。それどころかここで不用意に喧嘩でも売って返り討ちに遭おうものならもうこの【戦士の集い】には自分達の居場所は完全になくなるだろう。ただでさえ大勢の冒険者達の前で無能扱いされていたユート1人に見事にボコボコにされ、さらには決闘でギルドの外壁破損なども行いすっかりギルド職員からも相当数のヘイトが溜まっている。


 爪が食い込むほどに拳を握りながらギルドを後にしようとするセゴムだが、そんな彼に対して受付嬢が少し大きめの声量で最期の質問を投げ掛けて来た。


 「ところでセゴムさん、当然だと思いますが依頼を出した村へはきちんと〝依頼失敗〟の旨を伝えてから村を出たんでしょうね?」


 クエスト失敗の際、依頼を出した者にはきちんと仕事を果たせなかった旨を伝える義務が依頼を受理した冒険者にはある。当然だが多くのクエストを達成して来たセゴムとクジィにもそのくらいの常識がある。

 しかし今回の二人はそもそもクエストの失敗はおろか村の者達に何も告げず王都へと帰還していた。彼等の頭の中には今すぐユートを問い詰めて自分のスキルを正常に機能させる事しか頭になかったのだ。


 くそがっ、今の俺達にはやる事があるんだよ! そんなどうでも良いことなんて知るかッ!!


 「ああ村の奴等にはちゃんとクエストの失敗を伝えておいたよ」


 その言葉を一緒に聞いていたクジィが少し戸惑いの様子を見せる。

 とは言えクジィの立場からしてもこの程度の虚偽など訂正する必要も無い、本当にどうでも良い事だと思い特にセゴムの言葉を修正しなかった。彼女にとっても今一番優先する事柄はあくまで自分のスキルを正常化する、その一点だけなのだから。


 そして二人は周囲の向ける嘲りの笑みを忌々しそうな顔で耐えながらギルドを出る。


 この時にセゴムとクジィの二人は自分達の『依頼した村に失敗を報告した』と言うギルドへ対しての虚偽報告の行為を軽んじていた。

 この些細な偽りの申告、それが二人の冒険者人生を更に狂わせる事になるのだった。


 【戦士の集い】を出た二人はすぐにユートが移籍をしたギルド【憩いの結束】へと足を運んだ。

 二人は【憩いの結束】へと訪れるとすぐにそのギルドの受付にがなり立ててユートの所在を聞き出そうとする。


 「ですからユートさんは現在はクエストに出てギルド内にはおられないんですよ」


 「だったらアイツの今の暮らしている宿を教えろよ!!」


 「登録している冒険者方のプライベートをギルド側もそこまでは把握していません」


 「アンタ、私たちがゴールドランクの冒険者パーティー【ブレスド】と知って不遜な対応してる訳?」


 「そう申されましても……」


 半ば、と言うよりも完全に脅すかのようなセゴムとクジィの詰問に対しても受付嬢は凛とした対応をこなす。その態度が気に入らなかったのかセゴムは思わずその女性の胸倉に手を伸ばそうとするが……。


 「おいお前いい加減にしろよ」


 見るに見兼ねた男性冒険者の1人がセゴムの肩を掴んで彼の暴挙を止めに入る。

 苛立っているセゴムはうっとおしそうに男の手を振り払おうとする。しかしスキルの恩恵に依存し、そのスキルを消失しているセゴムは呆気なく抑え込まれてしまう。


 「大人しく知ろコイツ!」


 「うぐあッ!?」


 男性冒険者はセゴムの手を掴むとそのまま捻り上げ、そして床にその体を転がして見せる。


 「て、テメェッ!!」


 「いい加減にしろよお前。これ以上ウチのギルドにちょっかいかけるなら俺達が話を聞いてやるよ」


 男性冒険者がそう言うと他の屈強な冒険者連中も睨みを利かせてセゴムに詰め寄る。

 確かにブレスドは【戦士の集い】ではゴールドランクとして有名なパーティーだ。だがこの【憩いの結束】ではあくまで〝よそのギルド〟の冒険者パーティーに過ぎない。ましてやこれだけ偉ぶっているにもかかわらずアッサリ尻もちを付かせられる男など【憩いの結束】の面々からすればただの口先だけの中身の無い素人としか思われないのだ。


 「ね、ねえセゴム今日はもう出直しましょうよ。目的のユートもクエストに出て居ないみたいだし……」


 「チクショウが……」


 ギルド内の冒険者、そして職員達から白い目を向けられたセゴムとクジィはバツの悪そうな顔をしてこの場を後にする事しかできないのだった。

 


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