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第23話 本当はこんなにも簡単に笑い合えていた


 久方ぶりの幼馴染同士の再会を果たしたクェシィとリンダ。

 両者はしばし口をつぐんでいたがユートからの後押しにより無言によって凍てついていた空気を〝彼女〟が溶かした。


 「その……久しぶりねクェシィ……」


 先に開口したのはリンダの方だった。その表情はとても申し訳なさそうで彼女の心苦しさがクェシィの心にも伝わるほどだった。

 リンダが勇気をもって話し掛けたのだから自分も何か返事をしなければ、そう思いながら口を開こうとするクェシィであるがその瞬間脳裏には『あの時』の光景が蘇る。


 それはコンビ時代に彼女を置き去りに自分だけがシルバーランクに昇格した事を無神経に報告した時の場面だった。大事なコンビの気持ちを考えない自分の愚かな発言が切っ掛けでコンビ間に亀裂が入り自分達は別れる事となった。その時の映像が頭の中でリピートされ上手く声が出せずどもってしまう。


 また私が不用意な事を言ってリンダを傷つけてしまうかもしれない。


 また無自覚に親友を苦しめるかもしれない、その恐怖から喉の奥からは満足に声が絞り出せないでいた。だがそんな震える自分に向けて何とリンダはその場で頭を下げて謝罪をしてきたのだ。


 「本当に…ごめんなさい。ずっと……あなたに謝りたかったの……」


 「リ、リンダ?」


 顔を上げて対面上のリンダを見るとその瞳は潤んでおり、濡れた瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。


 「あの日……私はあなたを非難した。同じコンビなのに歩幅を合わせず先に進むあなたを薄情者だと罵った。でも……本当は気付いていたの。あなたは何も悪くはない……すべては私が一方的にあなたに対して醜い嫉妬の感情をぶつけていた事実に……」


 冒険者として活動を始めてから才能の差が浮き彫りとなり先に進む幼馴染に対してリンダは焦燥感に囚われていた。

 このままでは自分は置いてけぼりになるのではないか? 今の自分ではクェシィの足を引っ張り続け彼女に迷惑を掛けるばかりではないか?


 リンダの胸の内にあったのは嫉妬の心だけでなく、優秀な幼馴染に迷惑を掛けたくないと言う気遣いの心理もちゃんとあったのだ。

 相反する精神が板挟みとなり心が圧迫されていたリンダ。そんな時に突きつけられたクェシィのみのランク昇格の事実に彼女はつい感情的となり噛みついてしまった。


 「あなたとコンビを解消してギルドを出た後すぐに自分が勢い余って馬鹿な事をしたと痛切したわ。でも……同時にこうも思ったの。足手纏いの私が居なくなればクェシィも私に気を配る必要も無くなって気が楽になるんじゃないかなぁって……」


 「そ、そんな……!?」


 「ええ分かってる。『そんな事無い』……でしょ? ずっと同じ村で過ごして来たんですもの。あなたの性格だって本当は気付いていたの……」


 彼女は自分を置いてけぼりに独りだけで階段を上がっていくつもりなどさらさら無い事も、自分を足手纏いだと思ってもいない事もちゃんと分かっていた。だが一度自分からコンビ解消を切り出した手前コンビ再結成など厚顔無恥な事は申し出れなかった。

 何よりもここで彼女の元に戻れば自分はまたその優しさに依存すると思ったのだ。


 「だけど結局私と言う人間はあなた無しでは何もできない無能だったわ。別ギルドに移籍してソロで活動を始めてからと言うもの仕事は上手くいかない。それどころか生活苦にすら陥る始末……」


 別れてからの自分の現状を乾いた笑みと共に話すリンダ。その瞳からは我慢しようとも次々と熱い雫が垂れ落ちてしまう。

 

 「ほんと……こうして考えると私なんかが冒険者になるべきじゃなかったのかもね……才能も無いのに夢なんて見て馬鹿みたい」


 自虐気味にそう述べるリンダに対して変わる様にクェシィが言葉を挟んで来る。


 「違う……それは絶対に違うよリンダ」


 自分を無用の長物と卑下する〝親友〟にクェシィは自分の偽りの無い言葉をようやく返した。


 「私がずっと冒険者としてやって来れたのは隣にリンダが居たからだよ。私だってとても弱い……あなたと別れた日から自分のやることなす事に自信を持てない日々を送った。今にして思えばあなたが隣に居たから……背中を預けられる親友が居たから私だって冒険者として戦い続けられたって気が付いたの」


 元々クェシィと言う少女は内気な性格をしていた。そんな彼女が冒険者稼業と言う夢を持ち実現させられたのは隣で自分を支えてくれたリンダが居てくれたからだ。リンダは自分の存在を足手纏いと口にしていたがクェシィにとっては常に隣で支えてくれた恩人なのだ。

 長らく溜め込んでいた想いを対面に居る親友にお互い吐露し終えた後、二人は互いの顔を見つめながら揃って小さく吹き出した。

 これまで散々すれ違っていたはずだが話し合ってみれば信じられない程にあっさり和解できた事を知って両者肩の力が抜けたのだ。


 「改めて本当にごめんなさいクェシィ。子供みたいな八つ当たりで傷つけて……」


 「私こそごめんね。あなたの気持ちも察せず無神経な事ばかりして……」


 「あはは、よくよく考えれば村に居た頃からクェシィは無神経だったもんね。それなのに本気になって馬鹿みたい」


 「あー仲直りしたばかりでそういう事言う?」


 気が付けば二人はお互いに笑い合って普通に会話をしていた。ただその頬は雫で濡らした跡を残しながら。

 そこに居たのはまだ亀裂が入る前の仲の良かった幼馴染時代のただの親友同士だった。



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